磊落
早朝に目が覚めた。
窓から入り込む薄明かりがとても心地良くて懐かしくて、中学生の頃いつも散歩をしていた時の事を思い出し、気がつくと靴を履いていた
僕を育てた街、確かにそこにあった物を一つ一つと確認して歩いた。
するとまた衝動に駆られた
バスケがしたい
衝動の赴くままに足を進めて辿り着いたのは実家のすぐ近くの公園でコートどころかリングも無い。
何故、ここへ来たのだろうか。なぜこんな衝動に駆られたのか。
今ならリングのついた公園が近くにあって体育館でバスケが出来る環境がある。
過去に没入する事で自分を取り戻したかったのだろうか
それともあの時の自分と今の自分を測りたかったのだろうか
何もわからないままドリブルをついて、いないはずのディフェンスを抜き去り、リングの無い宙へとシュートを放った。
ただ、何も考えず息が切れるまで
誰も居なかったはずの公園も気が付けば人が増えていた。
そうか、ラジオ体操の時間か。いつもこのタイミングで家に帰って家族の朝パンを買いに行き、制服に着替えていたっけ。
そんな事を思い出しながらあの頃と同じ様に人の増えた公園と時間を知らせる音や太陽に居心地の悪さを感じて自転車に跨った。
そんな僕に声をかけた人が居た
ラジオ体操に参加するためにいつも一番に公園に来ていたおじいさんだった。
この人、まだ生きていたんだな、あの頃から10年近く経っても変わったのは白髪の割合ぐらいか。それも1〜2割増えた程度。
おじいさんが口を開いた。
「帰るのか?」
「はい」
「お兄ちゃん、昔からここでバスケをしていた子であってるか?」
「え、、あぁ、、多分僕ですね。」
「君のバスケの音が好きなんだよ。」
「僕もです」
そう答えた自分に驚いた。
ラジオ体操の邪魔にならないようにと自転車を漕ぎ出した僕の呼吸を心臓の拍が追い越し、遥かに突き放していった
そうだよね
知っていたよ
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