一生懸命していれば、道は繋がる。くもM 先生
twitterで繋がったくもM先生にインタビューさせていただきました。
実験教室、サイエンスショー、研究者インタビュー「くもM LAB」をしているくもM先生。
中学生のときから科学に興味があったがどんなアクションをしていいかわからなかった経験があり、中学生時代の自分のような子どもたちに、科学や研究者情報を届けたいとのことでした。
今目の前にあることをやり遂げていると次に見えてくるものや声をかけてくれる人が現れたそう。
信頼が次に繋がる。紹介したい、もう一度一緒に仕事がしたいと思ってもらえるように目の前のことに全力で取り組もうと感じました。
「子どもはみんな輝くものを持っている」子どもと親御さんの笑顔と成長
ー今やっていることをお聞かせください。
くもМ先生:奈良県を中心に、子ども実験教室を運営したり、サイエンスショーをしています。
あとは株式会社カクタスコミュニケーションズが運営しているScience Talksというメディアの中の企画で、「くもM LAB」という研究者へのインタビューをしています。
この企画では全国のいろんな分野の研究者の方々の研究への愛、そして研究に対する想いやきっかけなどを動画として残し、中高生に伝えたいと思っています。
ー実験教室運営の一番の魅力は何でしょうか?
くもM先生:実験教室やサイエンスショー、イベント等色々やっていますが、子どもたちの笑顔が見れる事が魅力の一つです。また、独立して4年目になりますが、通ってくれている生徒さんの成長を感じられるところは魅力ですね。
初めは「なんでやと思う?」と考えさせても「わからない」と言っていた子や、楽しい実験はするけど、興味ないものには振り向きもしなかった子が教室に何度も通ううちに、自分から疑問を持って実験がしたいと言ってくれたり、しっかりと考えてくれるようになってきているんです。
更にこれから先、生徒さんが卒業して、研究者になったと聞けたら嬉しいですね。そういう子が現れる可能性を信じて接しています。もちろん研究者ではなくてもいろんなところで活躍してくれることを期待しています。子どもはみんな輝くものをもっているので、これからどんどん羽ばたいていって欲しいなと思っています。
子ども実験教室では、子どもだけの参加が多いですが、イベントでは、「親子で楽しんでいただくこと」をコンセプトにしています。
親の背中を見て子どもは育ちますので、まず親が進んで勉強したり学んだり、学ぶことを楽しむことが大事で、それが子どもにも伝わるんです。
運営側の僕らがやってもあくまで他人ですから、子どもにとって一番身近な親御さんたちにも楽しんでいただけるようなものをいつも考えています。そんな親御さんが楽しんでくれている顔を見る事も嬉しいですね。
ー僕も教師時代の教え子が今どうしているのか気になります。一緒に仕事できないかなとか考えますね。交流のある一番年齢が上の子は、おいくつなんですか?
くもM先生:独立する前、研伸館などを運営する株式会社アップさんが運営しているサイエンスラボという実験教室で修行をさせてもらっていました。その時に出会った子はもう高校3年生になり、たまたま住んでいるところが近くで、犬の散歩中にばったり会ったのをきっかけに今は運営している実験教室の手伝いもしてくれたりしています。そんな子の成長をみると嬉しいですね~。
ただ、まだ独立してから4年なので当初から見ていて一番年齢の高い子は中学生で今は新しい実験にどんどん挑んでくれています。そんな子が増えるとさらに嬉しいです。これからに期待です。
人とのつながりが増えていく。魅力ある研究者インタビュー
ー研究者インタビューの魅力は何でしょうか。
くもМ先生:僕自身、科学がめちゃくちゃ好きで、日経サイエンスやニュートンを毎月読んだり、本や論文も調べたりしているので、インタビューで、研究者の先生方が自身の研究のことをとても優しく紹介してくださると、とても興奮するんです。また、僕の想いをお話すると、共感していただけたり、さらに親身になって教えてくださることは本当に魅力の一つです。
また、将来結果が出た時や数年後にもう一度インタビューして欲しいと言ってくださることもあったり、動画のおかげで講演が決まったという報告を受けたり、動画を見て研究室を決めたという生徒がいたなどの良い報告を聞くのはめちゃくちゃ嬉しいですね。本当にやってて良かったと思う瞬間です。
動画作りは先生方の魅力をどうやって引き出せるかを考えながらやっているので、その想いがきちんと伝わってくれているのかなって思います。まだまだ良いものを作れるよう勉強していきたいですね。もちろん動画の視聴回数が伸びる事もモチベーションが上がります。
東京大学の合田先生にインタビューさせてもらった時には、研究者の方をリストで紹介してくださったんですよ(笑)。先生のおかげでたくさんの研究者の方々と繋がれただけではなく、理化学研究所脳神経科学研究センター(CBS)さんともコラボすることもできました。
さらには奈良先端科学技術大学院大学の細川先生につないでいただき、研究室のPVを作成する仕事もさせていただきました。
こんなふうに人とのつながりがどんどん増えていくことも魅力の一つです。
「興味があるけれど何をしたらいいかわからない」中学生時代の自分のような子どもたちに、科学や研究者情報を届けたい。
ーなぜ研究者インタビューをしようと思ったのでしょうか。きっかけはありますか?
くもМ先生:僕は、中学生の時に生物の生態の研究に興味を持っていたのですが、その当時研究者になるにはどうしたら良いのかわからず、とりあえず近くの公立大学に行ったらいいのかなと思って進学しました。ただ実際、興味があったはずの生態学の授業を受けてみると、先生に合わなかったというのもあり、生態学は違うなってなってしまっただけでなく生物への興味も薄れてしまったんです。
かつての自分のように、科学について知りたいと思っている中高生はたくさんいると思うので、どこでどんな研究が、どんな思いで研究者の方々が研究しているのかをもっと知ることができれば、僕みたいにはならずに羽ばたけるきっかけが生まれるんじゃないかと思うんです。そこで研究者図鑑のようなものを作りたいなとずっと想いを秘めていました。
そんな時にカクタス・コミュニケーションズ株式会社の方々にお声がけいただき、研究者図鑑を作るインタビュー企画「くもM LAB」がスタートしました。
お菓子メーカーから、サイエンスコミュニケーターへ。
ーなぜ、サイエンスコミュニケーターの道へ進む事になったのですか?
大学卒業後の経歴をお聞きしたいです。
くもМ先生:僕は、もともと学ぶことがとても嫌いでした。しかし、中学の時にその気持ちが変わる出来事があったんです。
京都大学でイラガの研究をしていた親戚のお兄さんとイラガの採取をしにいったんです。僕は森の中の方が自然が多いのだからイラガがたくさんとれると予想していたのに、実際採取してみると、なんと人のいる住宅街のほうがたくさんイラガがいると知って、衝撃を受けました。それがきっかけで生物が好きになり、生物を勉強するようになったら、学ぶって楽しいんだな、知識をつけるって面白いんだなと気づきました。
また、子どもの頃から親にとってもらっていた学研のおもちゃが好きで、教育玩具って素敵だなと思っていました。遊びながら学べるって最高ですよね。学びにはおもちゃが最適だと思っています。
そんな経験をしていたので、大学院で抗体医薬品の研究をしながら教育玩具や科学玩具を作りたいな~と思っていたんですよ。教授にもお前は何がしたいんや?と聞かれたら玩具作りたいです!と答えたくらいなので(笑)。
卒業後は教育玩具を作りたい!と思って玩具メーカーを志願していました。でもいざ就職をするとなるとなかなか狭き門でした。
タカラトミーを受けた時なんかは2次面接で落ちた後、未練タラタラで説明会や面接の時に仲良くなった人事の方へお礼の電話をした上に今まで頭で考えてた玩具の企画書30枚を送りつけたこともありました(笑)。今ではなんでアイデア送ってもうたんや!俺のあほ!と思いますけど...(笑)。
まったく分野の違うお菓子会社の不二家に面接に行った時も、将来の夢は?と聞かれた時に科学玩具を作りたいと話をしました。そこで人事の人が「玩具作りは仕事じゃなくても老後の楽しみでもいいんじゃない?君に来てほしい」と言ってくださったので、これは行かないと、と思って就職しました。
入社後半年くらい東京、神奈川、栃木で菓子、洋菓子、レストランなどの研修した後、栃木県の洋菓子の工場で1年間、ペコちゃんのほっぺのライン担当をしていました。そしてその後、異動になって品質管理担当になりました。
当時は工場が手書きの生産報告書ばっかりだったので、デジタル化に動いたり、バウムクーヘンやチーズタルトなどの食品のロスがかなり多かったので、それらを少しでも減らそうと生産してる人と話しあったり、温度を測って科学的に調べたりしていました。
そんなある時、ロスも減り、実績も上げていましたが、工場の人手不足で突然バウムクーヘンのラインに入ることになったんですよ。30キロの砂糖の袋を運んだり、巨大なミキサーで生地を作ったりしていました。作業は新しいことの発見でとても楽しかったのですが、自分のやりたいことは本当にこれか?と考えたんです。
すると、品質管理担当として工場を回っていた時に他部署の方と機械の仕組みや、グルテンについてとか、科学的なコミュニケーションをとることがすごく楽しかったなと気付きました。
もうこれを仕事にしたい!大学院まで科学を勉強してきたのだから、科学のことを伝えるような人間になりたいなと思ってバウムクーヘンのライン作業がひと段落した時に退社しました。
そこから始めたのがサイエンスコミュニケーションです。
退職に不安はなかった。コツコツ積み上げてきた自信があった
ー退社することに不安はなかったんですか?
くもM先生:とくに何も考えてませんでしたね(笑)。たまたま仲の良かった同期から電話きて辞めると報告を受けたのも背中を押してくれたきっかけでしたし、何とかなるだろうという謎の自信がありました。自分のやりたいことは明確にあったのですが、実際何から始めたらいいかわからず、ネットで調べていたら、「サイエンスコミュニケーション」という言葉を見つけ、これだ!と思いました。
そこでまず、勉強をしなければ!そしてそれをアウトプットする場所としてブログを書こうと思いました。ただ半年間、続けていくうちに自分ひとりではできないなと思ったんです。
求人をみていたら神戸に本社がある研伸館の中にあるサイエンスラボさんを見つけ、面接の時に想いを伝えたら、ぜひ、うちで学んでいきなさいと言っていただき、働かせてもらうことになりました。そこで2年間修行させていただき、その後も、謎の自信があって、現在は独立し、実験教室をしています。
ー謎の自信はどこから湧くんですか?
くもM先生:何なんでしょうね(笑)。別に仕事が無くても死なないじゃないですか。
退社してすぐ台風の中で栃木から奈良までママチャリで自転車の旅をしたこともありました。運が良かっただけだと思うんですが、人間は少しくらい無茶をしても大丈夫、生きていけると思っています。仕事が無くても生活出来たのは実家にいたというのもありますが、お気楽な性格なのかもしれません。
ただ、これまで自分はしっかり大学院で研究してきたという経験があったからこそサイエンスコミュニケーションができる!と思ったし、不二家で現場の人たちとコミュニケーションを取れた成功体験があったことは自信に繋がっていると思います。
また、サイエンスラボさんでしっかり教えていただいたこともありましたし、今までコツコツと積み上げてきたものが自分の中の自信に繋がっているのかなと思います。
親が温かく見守るようになってくれた。
ー昔からコツコツタイプですか?子どもの頃のエピソードをお聞かせください。
くもM先生:コツコツやるタイプと自分では思ってませんでしたが、どうやら出来るみたいですね(笑)。ブログも動画の更新もずっと続けることができてましたし、意外とコツコツタイプなのかもしれません。
中学校の頃は野球がしたいと言ったらあなたは野球に向いていないからダメだと親に言われて、テニス部に入ったんですが、先輩も指導教員もいない部活で、面白くなくてすぐに辞めました。そして、友達に誘われラグビー部に入ったんです。そしたらラグビーが面白くて、必死に練習してレギュラーになりました。強い子に育ったのはそのおかげですね。
高校に進学するとラグビー部は全国を目指すスポーツ組の部活しか無く、自分にはできなかったので入りたかった軟式野球部に入りました。残念ながら野球は向いていなかったみたいで必死に練習しましたがレギュラーにはなれませんでした。ただ、誰にも走りだけは負けたくないと思って毎日走ってました。これも確かにコツコツですね(笑)。
そんな姿をみていたからか親はその後は自分の進む道には一切口出しせず、温かく見守るようになってくれました。そのおかげで今自由にやれていますね。
肉体労働で出会った印象的な出会い。石塚大介さんに刺激を受けた
ー印象的な出会いのエピソードはありますか?
サイエンスラボを辞めて独立する時、ちょうどコロナが流行り始めた頃でした。実験教室を始めるにも生徒を集められず、どんどんお金だけが減っていってしまったので、勉強をしながら肉体労働をして稼いでいました。
そこで、漫画「がんばれ!みのるくん」でバズってる石塚大介さんに出会いました。
僕が石塚さんに出会った頃は、今ほど有名では無かったですがすでに肉体労働をしなくても生活していけると言っていましたが、「週一回は肉体労働の仕事をすることで、しんどい時期を思い出し、身体をリフレッシュさせることで新しいものが生まれるんだ!」と言っていて、すごいなと思いました。
そしてその時に石塚さんに、色々教えてもらいました。その当時まだ流行りたてで、TikTokには科学業界の人がいないからやったほうがいいよ、とアドバイスをもらい始めたら、フォロワーが3万人になり、今の活動の自信に繋がっています。
動画作りやブログ記事を書いたりをコツコツ続けてきたおかげで、Twitterでたくさんの仲間に出会い、日本科学振興協会JAASに所属することになりました。まだ当時は皆さんとの距離が近かったんです。そして、そこでカクタス・コミュニケーションズ株式会社の湯浅さんと加納さんに出会い、ぜひとも一緒にやりましょうとお声かけいただいて、「くもMLAB」が始まりました。
目指す未来はカフェと実験教室。子どもたちが集まる施設運営と、教育玩具作り
ーここから、どこを目指しておられますか?
くもM先生:やはり、教育玩具を作りたいですね。
あとは、今はなかなかコロナで難しいですが、科学に興味のあるみんなが集まれる場を作りたいですね。実験教室は世の中に溢れています。でも研究者とのつながりはほとんどなくて、それっておかしくないですか。
実験教室をやっていて思うのが、プロの技や研究を見ることによって、もっと幅が広がり、将来研究者を目指そうと思う研究者の卵達がたくさん増えるのかなと思うんです。だから子どもたちがもっともっとプロと関われる場を作りたいと思っています。
実験教室に通ってくれる子どもがみんな研究者になるとは限りませんが、他から探すより興味を持ってくれる子は多いと思います。
なので将来的には、研究者も子どもも集まるカフェのような場と実験教室を合わせたような施設を作って運営したいなと思っています。
ー今、何%ぐらい達成できてるんですか?
くもM先生:全然できてないです。1%か2%くらいですかね(笑)。今は目の前のことをがむしゃらにやっています。
研究室時代の先輩が「目の前のことも頑張れない人は、次のことも頑張れない」と言っていたのが印象的でした。先のことも見据えてるけど、目の前のことを一生懸命することが大事だと思っています。
目の前にあることをしっかりやっていくことで、次に繋がる
ー最後に若手研究者に一言お願いします。
くもM先生:僕自身もまだまだ頑張らないとなと思っています。
自分が成功してるかと言われればそうではないし、偉そうに言える立場じゃないですが、目の前にあることをしっかりやっていくこと。今やりたいと思ったことをしっかりとやり遂げることが大事だと思います。それが次にどんどん繋がっていって、どんどんやりたいことが出てくるんじゃないかな。
ここに進みたいという大きなところはあっていいと思いますが、例えば、今目の前にある部活を頑張っていたら次に見えてくるものがあります。遠回りしてもいいし、いろんなことをやることが大事で、一生懸命やれば、勝手に道は繋がってくると思います。
ーSNSが発達することによって、頑張りきれない子も多いように思います。どうしたらいいですか?
くもM先生:僕らがどうこう言える問題ではないと思うんですが、コンテンツが飽和していますよね。SNSの発達でいろんな情報が多すぎて仕入れすぎて、何かに特化しにくい状態になっていると思います。
でも、特化しないことがすごく悪いことなのかと言われたらそうでもない気もしています。レールに乗ってやってくれる人もいなければ成り立たないし、全員が全員そうあるべきではないとは思います。
でも自分でやると決めたなら、しっかり特化すべきなのかなと思いますね。確かに、会社員でやらされているのと自分でやるのとは全然違いますからね。まずは自分が何が好きかを見つける努力をすることが大切なのではないでしょうか。