映画と車が紡ぐ世界chapter92
ハイダウェイ トヨタ ヴィッツ1.5RS 2012
Hideaways Toyota Vitz 1.5RS 2012
張り切ると バッドエンドが待っている
28年間 生きて学んだ僕の性(サガ)
初めて感じたのは 小学5年の夏休み・・・
クラスメイトを驚かそうと
スズメバチの昆虫採集にチャレンジした
必死で山を駆け廻り 見事に網一本で オオスズメバチの捕獲に成功した
天下を取った将軍のように意気揚々とする 僕の後ろで
復讐に燃えた仲間の蜂が 農作業中の祖父を襲った
それから三日三晩 祖父は死地を彷徨った
弱小高校の野球部に所属した僕が
甲子園常連校と練習試合を行ったときもそうだ・・・
一矢報いてやろうと 気を吐いた僕は センターオーバーの2塁打で出塁!
味方のヒットで 一気にホームをついた
タイミングはアウトだったが 持ち前の俊敏さで キャッチャーをかわす
綺麗にホームインが決まった しかし・・・
僕の背中を 冷たい汗がツウと走った
県内一のスラッガーと言われた 相手キャチャーの左肘が
あり得ない方向に曲がっていた
ホームインは記録されず 試合は途中で終わった
僕に非はない でも・・・ 僕は彼の夏を壊した・・・
その後も 僕の張り切りバロメーターが
レッドゾーンに入る度に 災いが起きた
そして 僕は悟った
~僕は 一生懸命になってはいけないのだ
ジェイムス・ファーロング(Harry Treadaway)のように~
化粧品会社のセールスマンになった僕が トップの成績を収めることはない
情熱を注がずマイペース それがみんなのためなのだから・・・
それでも 人並みの成果を出すことができる僕は 天才なのかもしれない
子供の頃に抱いていた自分の夢とは大きく違う人生だったが
これも悪くないと思いかけていた
そんな僕を 好いてくれる人がいた
「Junの 大らかで やさしい瞳が 私を安心させるの」
カノジョは そんなことを 言った
確かにそうだろう
向上心のない僕は いつも一歩下がった安全地帯にいるのだから
結婚願望の強いカノジョを スルリとかわしながら
ゆるりと付き合った
大切な人にバッドエンドを与えるような男が 結婚なんかできるはずもない
それなのに・・・
思い出が蓄積されるにつれ
僕の心は 自分でも気づかないうちに カノジョの引力に影響されていた
ある日 僕は 普通の人間のように カノジョをデートに誘った
世界遺産になった 富士山を見に行こうと・・・
父親譲りで車好きだった僕の愛車は ヴィッツRS1.5
FFホットハッチと言いながら CVTで安全仕様
それでも峠に行けば 夜露に濡れたカーブをねらって テールを滑らせる
もちろん 今日は安全運転・・・
心をニュートラルに 山道をスウイと進んだ
湖に映る芙蓉峰が薄紅色に見えるホテルに到着すると
今まで ショーケースの向こう側にいたカノジョが
僕と同じ側にいる そう感じてしまった
鼓動は いつしか 危険領域に入っていた・・・
ドイツカラーのDKNYのトップスから
すうと伸びる細い首の上に小ぶりな顔 サラリとした笑顔・・・
視界がグワンと揺れた その時・・・
カノジョの携帯がなった
サッと 蒼ざめるカノジョ
「お父さんが危篤って・・・どういうこと!」
迂闊だった・・・
「帰ろう!」
カノジョの叫ぶ声が届くまえに
僕は 底が抜けるほど強くアクセルを踏み込んだ!
「ヴィッツよ 唸れ! 死神よ 今だけは 眼を瞑れ!」
呪文のように 独り言をつぶやくと フロントタイヤが煙を上げた
「もう 無理よ・・・」
涙が止まらないカノジョを 横目で見ながら 僕は言った
「間に合うさ! 本気出すから!」
ヴィッツが 再び吠えた・・・
「きゃっ」
私の小さな悲鳴は 瞬時に100m後方へ置き去られた
竜の背を思わせる
黄泉比良坂を 落ちるように下るヴィッツ
ハンドルを廻す彼の手は 2本とは思えなかった
「私のために
こんなに必死で・・・Junのこと・・・信じてよかった・・・」
神に祈るような思いで 私は運転席の彼を見た
えっ!?
笑ってる・・・ 阿修羅のような形相の中で・・・
「もう半分を超えたよ」
私を安心させようと つぶやく彼の一言
しかし・・・
私は 言葉が出なかった ただ・・・ 心の中で呟いていた
「あなたは・・・だれなの・・・?」
Kiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii !
火の玉のような ヴィッツが病院の救急口に飛び込んだ
転げこむように
病院へ入っていくカノジョ
そして 静寂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一時間ほど経過して カノジョが戻ってきた
「ありがとうございます 父は持ち直しました
私が手を握れたから 父は助かることができたのだと思います
貴方のおかげです どうもありがとうございました」
深々と頭を下げると 再び病院へ消えていった
♪Last NightMorgan Wallen♪
カノジョが残した言葉に あたたかい想いは なかった
あたかも タクシー運転手に対する 礼のようだった
一人ポツリと ヴィッツの前に立つ
「お父さんと逢うことができた それで良かったじゃないか・・・」
真剣になっってしまった 僕の代償・・・
死神は 愛を奪った
それでいい・・・
ほどほどの人生しか送ることができない男に ロマンスは似合わない
一人になった僕は
ハンドルを切ると もう一度 富士へ向かった
心(ハート)が 3℃ 上がってくれたら うれしいです! そんなとき 気が向きましたら お願いいたします 励みになります!