映画と車が紡ぐ世界chapter129

シャーロック・ホームズ アストンマーティン DB9  2012年式
Sherlock Holmes Aston Martin DB9 2012

～ごめんなさい　もう待てない～

カノジョから　突然のLINE・・・

「やっぱり　もう　終わりなのかな・・・」
LINEも携帯も　一切連絡がつかなくなって三日・・・
臆病な性格が　
カノジョを傷つけていたことを　改めて実感した
後悔の波が　ドンブリと僕を飲み込む

先週末・・・
「いつか　私も　あの星たちに　なれるのかしら・・・」
星屑で埋め尽くされた空を見上げながら　つぶやいたカノジョ

「君なら　あれかな」
大空で羽ばたく　白鳥の星座を指すと

「そのとき　貴方は　そばにいてくれるのかしら・・・」
カノジョの瞳は　僕に向けられていた

「・・・」

♪　I Need To Be In Love  Carpenters  ♪

付き合いはじめて5年・・・
遠まわしに　プロポーズを迫るカノジョに　
僕は　蠍に追われたオリオンのように　地平線へ逃れようと身を竦ませた
　
Fuuuuuuuuuuuuuuuuu

カノジョの　大きなため息が　ドーム内に響き渡った
池袋のプラネタリウム『満天』の空が　
どこまでも　広く　遠く感じた・・・

休日出勤を終えて　帰宅した僕は
コートを羽織ったまま　部屋の灯かりもつけずに　
崩れるように　床に転がった
どろりとした闇が　まとわりつく　虚無の世界・・・
闇の世界は　カノジョも・・・自分も・・・
世界そのものも　曖昧にする
このまま　涅（くろ）に　飲み込まれれたい　そう思ったとき・・・
ふと　本棚の一部が　ぼんやり　光を放っていることに気付いた

！！
それは　僕のバイブル　
シャーロックホームズの冒険に挟まれていた　カノジョの想いだった

蓄光インクで書かれた　メモ・・・

～私たちの家を　初めて外から見た人が　星に帰った日・・・
　バスカヴィルの足跡を思い出す時間
　心眼を唱える像の下で　未来を委ねます～

ミステリー好きは伝染する
推理小説に興味のなかったカノジョが　
最後に残したメッセージは　暗号だった

時計の針は　18時を指していた

「まだ　間に合う・・・」

カノジョがくれた　ラストチャンス
今にも切れそうな　赤い糸を手繰るように　駐車場に向かった僕は　
DB9の　アクセルを踏んだ　

「私たちの家を　初めて外から見た人とは・・・　ガガーリンだよな！」

探偵は　新聞を隅から隅まで読み漁る　
同窓会の連絡記事から　求人情報などの三行広告まで
そこには　進行形の社会を読み解く設計図が隠されている
そんなホームズ流の
情報収集が　癖になっている僕には
1968年の3月27日・・・　
つまり今日が　人類として　初めて宇宙から地球を見て
”地球は青かった”　と語った　ガガーリン飛行士が死去した日
・・・つまり星になった日　という　記事を読んでいた

バスカービルと言えばもちろん『犬』だ
犬の時間と言えば　戌の刻・・・20時
闇夜に光る狂犬の口・・・
蓄光の文字は　ここからヒントを得たのだろう・・・

心眼を唱える像と言えば
カノジョの大好きな物語　サンテグジュペリ　星の王子様しか考えられない

～心で見なくちゃ物事はよく見えないということさ　　
　　肝心なことは目に見えないんだよ～・・・だったか・・・

でも・・・
『箱根』のミュージアムも　関越自動車道『寄居』サービスエリアも
星の王子様の施設は　すべて閉鎖されていて　今はもう存在しない

いや・・・まてよ・・・
寄居サービスエリアの施設は解体済みだが　
箱根ミュージアムは　まだ解体には至ってないはず・・・　

Doddodo　Dodou　の勢いで　アクセルを踏み込む
目指すは　箱根
僕の思いを直感的に表現するDB9　
バックミラーの後ろで　引き裂かれた空間が悲鳴を上げていた

20：00
数えきれない星々の下
かつて　夢の世界を表現していた廃墟の前で　DB9は止まった

「Nami　！」
運転席を飛び出すと同時に叫んだ声は　閑散とした箱根町仙石原に木霊した
僕にしがみついていた臆病と言うベールは　
DB9の瞬発力で　はぎとられていた　

枯れた噴水跡が見える閉ざされたゲートの前で　
オブジェの様に佇んでいたカノジョの瞳から　大粒の星屑が零れ落ちた
カノジョを抱きしめた僕は
そっと左手をつかむと　薬指に指輪をはめる仕草をした　そして・・・
にこりと微笑みながら　
カノジョの左手を　満天の星たちに向けて掲げた

！！

左手薬指から　蓄光インクで輝く　光のリングが　浮かび上がった

「ありがとう　名探偵・・・」

震えるカノジョの声は
桜の花びらが　舞い散るときの風切音のようだった　

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～　英国紳士と言えば　Aston Martin！　
今　ホームズがいれば　きっとこの車を選ぶでしょう　～