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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter25

デイズ・オブ・サンダー ~ ホンダ シビック FD2 タイプR 2010年式 ~
Days of Thunder ~ Honda Civic FD2 TypeR 2010 ~

「今年は騙されないぞ!」
4月1日の朝 鏡の中の自分に言い聞かせた
カノジョと出会って4年
僕は 毎年カノジョのエイプリルフールトラップにはまっていた

~4年前 伊豆半島~
シビックtypeRは 
軽快に海岸線を疾走する

6000回転を超えたK20A-Vtecエンジンは
レーシングカーのような 高域吸気音を響かせながら 
気持ちいい Gを感じさせる
シャボテン公園から下田水族館を見学した後 
天城峠を抜けて土肥金山を廻る
伊豆観光の教科書のようなドライブルートは 
程よいコーナーが 
僕のドライビングスピリッツを掻き立てた

「すごーい! コール・トリクル(Tom Cruise)みたい!」

ティーンエイジャーのように
欣喜雀躍のカノジョは 三つ年上
幸せを実感しつつも 少しだけ面映ゆかった

真っ赤な夕日が 駿河湾を染めるころ 
僕らは イタリアンレストランに入った
地産食材のパスタや
もちっとしたPizzaが楽しめると カノジョが決めた店だ
できれば おいしいワインを賞味したいところだが 
TypeRを置いていくわけにはいかない
僕らはサン・ペレグリノを注文した

「この後は 箱根山を越えて温泉を満喫しながら帰ろう」

帰りのプランを伝えると
金目鯛のペペロンチーノを頬張りながら 
カノジョは今日一番の笑みを見せた  
 
燃料チャージが完了した僕らは 
満天の夜空に輝く
乙女座のスピカに照らされながら 駐車場に向かった 

その時・・・
「痛っ・・・!」

突然カノジョが叫んだ!
「指を切ったみたい・・・お店の人を呼んで・・・」

指から滴り落ちる血を見た
僕の側頭葉は 
突然のアクシデントに思考停止!
言われるままに 店へ戻ろうとした 

そこへ カーネルサンダースよりも
一回り大きい体躯の店主が のしのしとやってきた 

「どうしたんだい?」
緊張感の無い 彼の仕草に 
少し苛立たしさを感じつつも 僕は言った

「カノジョが怪我したんです 救急車を呼んでもらえますか?」

しかし・・・
カーネルは僕の言葉を黙殺して
カノジョの右手を掴んだ 
そして・・・ カノジョの指を喰いちぎった

Eeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!
突然の狂気に 
意識が 飛びそうになる僕・・・

Hahahahahahaaa

!!?

大丈夫よ 
カノジョは両手を見せながら笑った
血だらけの指は・・・ ソーセージだった
 
「ごめんね! これケチャップよ! 
 そして・・・ マスターは私のおじさんです!!」

カノジョとカーネルは 笑いながら 僕に謝った
「エイプリルフールか・・・」
ホッとした僕に 
突然カノジョがキスをした 
甘酸っぱい トマトケチャップの味がした

he Last Note Of Freedom - David Coverdale

それからも毎年 
カノジョは僕にトラップを仕掛けた
ある年は 
今日は会えないと言いながら 僕の部屋に隠れていた
又ある年は 
初デートの思い出の場所 東京タワーが 
解体のため休業に入ると 論理立てて説明され 
カノジョの嘘を見破れず 
多くの友人にデマを流してしまった 
この年・・・ 僕はエイプリルフール王の称号を授かった

今年こそ 騙されない・・・
僕は一ヶ月も前から 用心していた
そんなとき カノジョが 
ほかの男性と仲良く歩いていたという うわさを耳にした

来たか・・・ 
今年は 騙されないぞ・・・
僕は 逆に カノジョにサプライズで応戦しようと計画した

4月1日 ”Cinema bar Casablanca”・・・

スーツの左ポケットに婚約指輪を忍ばせて 
僕はカノジョを待った
約束の時間を5分過てやってきた 
白いトレンチコートのカノジョは いつにもまして輝いていた

しかし・・・
この日は なんとなく会話が はずまなかった 
食事の間も カノジョは
僕の顔より 店に流れるシネマを 眺めていた

僕の緊張感が カノジョに伝導したのだろうか・・・

重たい空気の中・・・
突然 カノジョが切り出した

「時計・・・ちょっと貸してちょうだい」

父親譲りのタグホイヤーを渡すと
カノジョは リューズを回しはじめた
そして 呟いた・・・
「ごめんなさい・・・ 私たち 終わりにしましょう・・・」

始まった・・・
僕はそう思った でも今年は騙されない・・・

優しく笑顔で返す僕に 
カノジョは 凍り付いた無表情な顔で 
僕に腕時計を見せながら 席を立った

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0:05!?

「私たちの間では もう4月1日じゃないの・・・」

2時間進められた腕時計・・・
これは エイプリルフールではないという意思表示

カノジョを呼び止めようとする僕を
左ポケットの中で 
行き場をなくした婚約指輪が 
TpyeRの高速カーブで感じるGよりも 重く 重く 抑えつけた

「実は・・・」

後ろ姿のカノジョに向かって 言った

「好きな人ができたんだ・・・  
 だから・・・ 君が謝ることは無いんだよ・・・」

今年のエイプリルフール 
僕は 自分自身に 嘘をついた



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