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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter41

マイ・フェア・レディ ~ 日産フェアレディZ Z34 2012年式 ~
My Fair Lady ~ Nissan Fairlady Z Z34 2012 ~

28年間暮らした南の街から
1500kmの道のりを 38時間かけて走破した

街を出るとき 親友のTakashiが東シナ海を見ながら言った

「本当に行くんか」

「あぁ 約束だから・・・」

「でも10年間 なんの音沙汰もないんじゃろ」

「それでも約束は約束だ・・・」
眼の前に続く道を俯瞰する僕に

「わかった・・・ それじゃ 二度と戻ってくるなよ!」
毒づくTakashiの瞳は 潤んでいた

「あぁ・・・」
大シケの鼓動を悟られないように
そっけなく返事をする僕に
Takshiは CDを1枚残して 去っていった

Z34の排気音と 車内から洩れたブルースが僕を見送った

Bruce Springsteen-The Ghost of Tom Joad


関門海峡を越える頃 心が揺れた

「今なら まだ引き返せる・・・」

そんな弱気を 打ち消したのは
LoveFmから流れてきた Survivor ふるさとが僕を後押しした

The Moment Of Truth (Bonus Track)- Survivor

VQ37VHRエンジンの 
軽快なサウンドと 安定感抜群のハンドリングが
甘酸っぱい記憶の中へ タイムスリップさせた・・・ 

修学旅行で誓った約束
「10年後の今日(7月27日) 
 ライトアップが消える瞬間を 一緒に見よう」

東京での未来を語った僕らは 
宿泊先のホテルから東京タワーを見つめていた

Katun Katun Katun・・・
うれしい時のカノジョの癖・・・ 
つま先で床を鳴らす音が モールス信号になって僕に知らせる・・・

 ♪ 到着したよ・・・

2012年の東京タワーは 高さが320mだった

震災で折れた先端を交換しているのだ
見てくれは違っても 東京タワーは東京タワーだ

タワーのライトが消えた・・・ しかし・・・
カノジョは現れなかった
思い出にしがみついて生きてきた 愚かな自分が バックミラーの中にいた

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「どうして もう消えてるの!!」
Z34の外から聴こえる カップルの会話 
どうやら ライトダウンの瞬間を見損ねたらしい
そう・・・
今のタワーは工事の都合で2時間早くライトが消える
そして・・・
23時になると 再び工事用にライトアップが再開するんだ

!!

もしかしたら・・・
僕は 午前0時まで 思い出にしがみつくことにした

2時間後・・・

坂の下から現れたのは 
マイフェアレディだった
オードリー・ヘプバーンのように 
セミロングの髪は ロールがかかり
ジャスミンの香りがそよいだ
ライトアップが映り込む瞳に 真っ白な歯
バーバリーの純白ワンピースに ビトンのバック
僕の知っているお転婆娘ではなかった

カノジョとの再会を
僕は 後悔しはじめていた

「ごめーん! 遅れちゃった!!」

10年ぶりにかわす言葉が それか・・・ と思ったとき

Katun Katun Katun・・・

早くも カノジョは ヒールを鳴らした
そこにいるのは 
東京タワーと同じように 見た目は少し変わったが 
間違いなくカノジョだった

ほっとしたそのとき・・・ 雨が降り始めた

!!

タワーのライトが・・・ 消えた 
どうやら 雨で工事が休止になったようだ

「午前0時18分・・・
 私たちのために 少し遅れて消してく・・・!!」

カノジョのライトアップに対する感想は
僕の口づけで 遮断された

Katun Katun Katun・・・

ただ・・・ 
アスファルトを叩くヒールの音だけが 
都会の夜に 甘く響き渡っていた



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