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映画と車が紡ぐ世界chapter89

ミシェル・ヴァイヨン ニッサン デルタウィング 2012
Michel Vaillant Nissan DeltaWing 2012 

”ラ・フランス”と 僕が呼ぶ女性との出会いは
2012年のル・マン24時間レースの日だった

Cafe bar Casablancaでは 
毎年6月はフランス祭と題して フランス映画一色になる
その中でもル・マン24時間レースが行われる日は
チャーリー(マスター)の趣味で レースが中継された
いつもはAlain DelonやJean-Paul Belmondoが 
颯爽と現れる 100インチスクリーンも 
今日だけは GTカーやWSCカーに占拠される

その年 異彩を放ったのは デルタウィング
新時代の環境技術を用いた新カテゴリーマシン
"ガレージ56"からエントリーされた 真っ黒なロケットスタイルは 
ブラック魔王のゼロゼロマシーンを髣髴させ
無邪気な僕は 画面に釘付けとなった

そんな僕の視界の一部が 微妙にぼやける 
焦点のあわない歪んだ空間に目を向けると
その中心には デルタウィング以上に漆黒なワンピースの女性がいた
それが カノジョだった
右手には Casablanca特性のカクテル ”おぼろ月”を手にしていた

~”おぼろ月”・・・
 ジンベースにアプリコットジャムを加えたカクテルで
 表面に アネモネの花弁が粉雪のように散らされている~

カノジョは 周囲の温度を5℃下げるオーラを纏っていた
カーバトルが白熱するほど 
ラ・フランスの黒の領域は より冷たく光りの届かない世界へ落ちていった

「ミシェル・ヴァイヨンの世界は嫌いですか?」

カノジョに声をかけた 
正確に言えば 
声をかけなくてはいけない そんな衝動に駆られた
ふいに 声をかけられたにも関わらず 
カノジョはさらりと答えた

「私には リュックベッソンの製作・脚本のシネマは 
 少し眩しすぎるわ」
この店の常連でも 
ミシェル・ヴァイヨンを 
リュックベッソン監督作品と勘違いしている人が多いのに 
ヒヤリとした
カノジョの正確な回答に 僕の鼓動は 激しくなった

この鼓動の高鳴りは 間違いなく カノジョに届いている・・・
そう思うと 僕は完全にスパークした 

「どうやら 僕のハートは 
 あなたの世界に 入りこんでしまったようです・・・」
暴走気味な告白に カノジョはマネキンのように言った

「年上の女性に対して 唐突な誘いは失礼よ・・・」
マネキンがカクテルを飲むと 
きっとそうなるだろう仕草で カノジョは ツウとグラスをあけた

そして・・・
僕の頬に吐息がかかる距離まで 顔を近づけるた
「でも 素直な瞳に免じて チャンスをあげる
 私がこの店に来るのは フランス祭の日だけ・・・
 1年後のル・マンまでに 
 私がゆらりと揺れるような 一言が用意できるかしら・・・」
オレンジとローズ 
そしてインドジンジャーがミックスされたオリエントの香りが 
僕の鼻孔を撫でる

”Chu” 
「さよなら坊や・・・」

その瞬間 100インチ画面の中で デルタウィングがクラッシュした・・・

~NissanNissan DeltaWing Crash~

それから僕は フランス祭の度に ラ・フランスに告白した
~君の瞳に乾杯~から始まって 直球勝負の~僕は死にません!~まで 
5回のチャレンジは 
どれもカノジョを 揺さぶるだけの効果はなかった
そして 6っ回目となる今日・・・
モニターの中では 
トヨタのハイブリッド車が独走していた

「今日こそは・・・」
秘めた思いで 席に着いた僕に チャーリーが一枚の手紙を差し出した
オリエントの香りが仄かに漂う 
グレーのレターは
カノジョの意志を主張するように ひんやりとしていた 

 ~ 約束を破ってごめんなさい 
   急きょパリに旅立つことになりました
   私は 貴方が思うような女ではないの・・・ さよなら ・・・~

世界が大きく傾いた・・・
ミシェル・ヴァイヨンほど強くない僕は
たちまち 暗黒の領域に包まれた

その時・・・ 
僕の肩に そっと手が置かれた
顔を上げた先には 
ブルー&ホワイトのストライプのワンピースに 赤いヒールの女性だった
胸に手をあてて 
心を振り絞るように トリコロールな 女性が言った
 
「ミシェル・ヴァイヨンの世界は嫌いですか?」
初々しい笑顔が
僕の廻りを覆うモノトーンの世界を フルカラーに変えようとしていた

♪ Taylor Swift - Begin Again ♪


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