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映画と車が紡ぐ世界chapter144

ロボジー:ホンダ ヴェゼル RU1型 2014年式
ROBO-G : Honda Vezel RU1
2014

行きつけのBar Casablancaに似た その店の入口には
別れた彼女が愛用していていた 
マッキントッシュ フィロソフィーの レインコートがかかっていた

カウンター席で
空になったグラスを見つめる女性に ブルーマルガリータをプレゼント

「貴方に 頂く理由がないわ」

カノジョは 薄い笑顔を僕に投げかけた
論理的な回答は 嫌いじゃない・・・

「昔付き合っていた彼女に似ている・・・ それじゃ ダメかな」

「それは 立派な理由ね」
そう言うと カノジョは 
キスをするように 青い涙を飲み干した

「今日 彼と別れるの・・・」

視線で W・H・Y・ という信号を送ると カノジョは言った 

「ずっと彼に 嘘をついてきたから・・・」

カノジョの鼓動が 
僕の注文した どこまでも 透明なジンリッキーに 波紋を作った 

「遠い昔・・・
 僕のカクテルグラスに映っていた女性は
 僕のことを なんでも一番の スーパーヒーローだと思っていた
 そんな気持ちに応えるため 僕は ひたすら努力した

 それでも・・・
 彼女の期待する姿は 僕の能力の遥か上だった
 だから・・・
 僕には 嘘をつくしかなかった 嘘の上塗りは際限なく
 いつしか・・・ 僕は ロボジーになった」

Karari・・・
グラスの中の氷が カノジョの瞳と同じように45度 こちらに傾いた

「しかし・・・
 霧のような雨が降る夜
 虚構の世界の重力に屈した僕は 彼女に 全てを告白した
 僕は・・・ 
 最先端のロボットじゃない 着ぐるみの中の単なるオヤジだと・・・
 それでも 彼女は信じなかった 
 あなたは 出来る人なのよと・・・ 自分の理想を僕に押し付けた 
 耐え切れなくなった僕は・・・ 彼女の前から消えた」

Karari・・・
再び45度傾いた氷の
小さくカットされた面(Bezel)の一つ一つに 別れた彼女が映った

「それから1か月後・・・ 
 僕は異例の昇進を果たした
 彼女の理想に近づくために演じた虚構が 現実になった・・・
 だから・・・
 相手のためにつく やさしい嘘は・・・
 最後には嘘じゃなくなる 現実が追い付いてくるんだ 
 だから・・・ 
 キミは最後まで 嘘を つき通すべきだ」

Karan・・・
ジンリッキーが三度 啼いたとき 僕は席を立った 

雨は 深い霧雨となっていた

振り返ると
カウンター席で カノジョが 電話をしているのが見えた 

涙がこぼれている・・・

しかし・・・

涙が伝うその顔は 微笑んでいた

潮風が フワリと纏(まと)わりつくと
雨雲に 木洩れ日が注いだ
ボンネットに 
レインボウを浮かべた2014年式 ヴェゼルが
僕の右脳に 囁(ささや)きの 信号を送ってきた

「他人の幸せは 紡げるのにねぇ・・・」

脳内に埋め込まれた電子回路で
パルス信号に変換された 僕の想いが ヴェゼルに戻された

「ロボットだって 恋は盲目・・・ そういうことさ」

♪ Styx - Mr. Roboto ♪



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