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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter60

ロード・オブ・ザ・リング ~ スバル フォレスター SG系 STI 2004年式 ~
The Lord of the Rings ~ Subaru Forester  SG STI  2004 ~

「だいたい女って奴は 男の優しさを 軽く見すぎてる!」

Foresterの助手席で 
カリカリしているのはTakashi

「秋になると 
 自然に 道路を埋め尽くす 落ち葉程度にしか 思ってないんだ!」

サンタクロースが 
プレゼント配布用のマップを作り始める この時期に 
5年付き合った カノジョと別れたことが まだ 心残りらしい

「ドーナッツが好きっていうから ミスドを買って帰れば
 『クリスピークリームじゃないんだ』って 言うし
 たまたま 車通勤した時に 彼女の会社の近くを通ったから 
 送ろうかと 連絡すれば
 『ダイエットでジョギング通勤してるって言ったじゃない』だって・・・
 Ah・・・
 X染色体とY染色体の溝は 日本海溝よりも 深かったよ・・・」

そう言うと Takashiは 
懐からスキットルを取り出し ジムビームをぐいと空けた

♪ Charlie Puth - We Don't Talk Anymore (feat. Selena Gomez) ♪

ドーナッツ事件にしろ ジョギング事件にしろ 
もっと会話をしてれば 防げたんじゃないかと思ったけど
今のTakashiは
発火点が かなり低くそうだ 僕は 言葉をぐっと飲み込んだ

それにしても・・・
うまそうに バーボンを飲むやつだ・・・ 少しイラッときた

「でも・・・
 アイツがいない人生なんて・・・ ありえない!
 あぁ~ もう 死んじまいたいよ」

心の天秤が 逆に触れはじめたようだ 

「その点 お前はいい奴だ! 心の友よ!」

ネコ型ロボットのStoryで いじめっ子の 常套句に 僕は苦笑した

「お前は いつも暇だし・・・ 
 こんな古い車でも とりあえず気晴らしドライブの脚には なるしな!
 でも そろそろ 変えたらどうだ ちょっと心配なんだけど」

Kacccccccccccccchinnnnnnnnnnnnnn!!!

僕の集積回路が ショートした


隅々まで 改造を重ねた ForesterSTiは 僕そのものだ
こいつを 手放したほうがイイなんて!
酔っても 言っていいことと 悪いことがある
お前は 同類のY染色体への配慮も 見直すべきだ! 

Takashiの くすぶっていた火の粉が 僕のハートに飛び火した

「おい! いっそ このまま 逝っちまうか!」

吐き出されたセリフは 
アクセル全開に反応した Foresterによって
Takashiの耳に入る前に 遠く背後に 取り残された

鹿野山の 極細山道を STIブルーの車体が駆け抜ける

「O o o ・・・ O chi tu ke yo・・・」

壊れた ブリキロボットのような 反応が助手席から聴こえた

森の精エントの
手足のような木々の枝が伸る中
 ”森に住む人”Foresterが クイックに反応する
18年の絆で済むばれた愛車は 決して僕を裏切らない 

Wooooooooooooooooooooooooooo!
助手席の住人が 唸り声に呼応して

Brooooooooooooooooooooooooooo!
水平対向の4気筒DOHCターボは ワーグのように吠えた!
(※ワーグ:ロードオブザリング・・・ロヴァニオンに生息する凶悪な狼)

久しぶりの 峠攻めに酔いしれた僕にとっては 
まだ まだ 物足りなかったが 
森を抜けて 広い牧草地にでた瞬間 急ブレーキ!

Keeeeeeeiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!

「ここは?・・・」
ようやく 魂が追いついたらしい Takashiが呟いた  

「マザー牧場だよ・・・ 
 ほらっ・・・ 冬の夜にだけ咲く ヒカリの花だ」

牧草地一帯に 風にたなびく ヒカリの花
その中心に 真っ白なコートを着た女性が立っていた

「行ってこいよ・・・」
僕は Takashiの背中を そっと押した

僕らはホビットさ・・・
何の特技もない 小さな人・・・ 
それでも 共に歩む仲間がいれば 誰にも負けない
そこには XもYも存在しない

Takashiが 
彼女のもとへ たどり着いたとき 
ヒカリのフラワーが
彼らを包みこむように 真っ赤なリングを描いた

どうやら 灰色のガンダルフが 杖を振ったようだ・・・
 
「やれやれ 長くなりそうだ・・・」
 
千葉の山は 決して高くない 
それでも夜の寒さは 身体に染みる・・・ 

Foresterの ヒーターを最大にして 
彼らの避難場所を確保した僕は 

運転席を出て 天然のプラネタリウムを 満喫することにした


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