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【ショートショート】         映画と車が紡ぐ世界 chapter35

パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち 
~ ボルボ V70 T5 2006年式

Pirates of the Caribbean:The Curse of the Black PearlThe 
 ~ Volvo V70 T5 2006 ~

ジャック・スパロウが 
バルボッサに心臓を一突きされた瞬間
背中から ポップコーンのシャワーを浴びた
それが 
僕とカノジョの出会いだった
ナチュラルロングウェーブの
エリザベス・スワン(Keira Knightley)似のカノジョは 
お詫びにと Café bar Casablancaに僕を誘った
呪われた海賊たちには申し訳ないが 
ドクロマークのコインより 
クレームブリュレが 僕には重要だった

「さっきはごめんなさい でも勘違いしないでね
 あれは 怖かったんじゃないのよ つい手が出ちゃったの」

ミルクレープを 豪快に頬張りながら 
右手のホークを何度も振り下ろして カノジョは必死に弁明した 
海賊映画で 身体が反応するとは 
名のある剣士か アルコール中毒か・・・
そもそも・・・ 目の前でクリームまみれの人物は 
女性なのか・・・
そんなことを思い つい にやけてしまった

「信用してないでしょ! 
 どうせ コイツ女なのかとか 思ったんでしょ!」

凄腕の剣士に決定!
カノジョの洞察力に感服した僕は 低頭した

大学で北欧史学を専攻するカノジョは 
ヴァイキングからサンタクロース 
そして北欧神話を例に上げて
スカンジナビアこそ ファンタジーの聖地だと言う
スィーツのお礼に 
僕はファンタジーの聖地が生んだ
V70 T5でカノジョを家まで送った

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2006年式 T5 Sport LHDは 強剛性のボルボにありながら 
なめらかなボディラインを魅せる いわば女海賊!
スカンジナビアファンのカノジョは 子供のようにはしゃぐ
 
「このブラックパール号のリアウィンドウには 
 ジョリーロジャーを 掲げるべきよ」

そこはスルーしつつ

「そういえば・・・今日の映画はカリブ海がテーマだったような・・・」

素朴な質問で返した

「小さなことにこだわらないの!!」

どこまでも豪快なカノジョと その日 ”同志”になった

V70をブラックパール号と呼ぶ
カノジョとのデートは 知らない街での宝探し・・・
といっても 
地産のスィーツを発見することなのだが

”霧原”(葉山)で
海に突如現れた氷山のような天然かき氷を食べれば

NASU SHOZO(那須)で
黄金色に輝くベイクドチーズケーキを堪能する

探究アイテムは エンドレスだった
しかし・・・ 
時は 無情・・・ 

カノジョは卒業と同時に 
故郷に帰らなければならなかった

このまま一緒に暮らしたいという カノジョを 
僕は故郷に帰えるように促した
自分の経済力に 自信がなかったからだ

「3年以内に 必ず迎えにいく」

僕の言葉を信用して 
カノジョは 無理やりつくった笑顔を残して 故郷に帰った

Hoist the Colours (From "Pirates of the Caribbean: At World's End"/Soundtrack Version)

しかし・・・
社会が悲鳴を上げるような経済状況に 
僕の会社は 大きな影響を受けた
今日生きることに精一杯の毎日 
カノジョとの約束は 記憶の深淵に落ちた 

テレビで デッドマンズ・チェストが放映された日・・・
手紙が届いた
見合いを断れないという 
カノジョからの救援メッセージだった
それでも僕は・・・ 

翌年・・・ 
僕の恋は ワールド・エンドから落ちた

雨の城ヶ崎・・・
V70のリアウィンドウに貼られた 
ジョリーロジャーの眼から 銀色の雫がこぼれた
それは単に 雨粒だったのか 
それともV70に宿るヴァイキングの涙だったのだろうか 

「ウィリアム・キッドの財宝を手に入れた同志に 幸あれ」

カノジョの思い出を吐き出すように 
海原に向かって 僕は叫んだ

空席になったV70の助手席に
一片のポップコーンが コロリと 転がった


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