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映画と車が紡ぐ世界chapter110

ブルーアンブレラ ホンダ エアウェイブ GJ1型 2008年式
The Blue Umbrella Honda Airwave GJ1 2008

230年前 パリで初めて有人飛行に成功した
モングルフィエ兄弟が 熱気球から見た空は  
エアウェイブのスカイルーフから見上げる 
この青空と 同じ色をしていたのだろうか

そんなことに思い馳せながら 外を見ると
交差点に カノジョを見つけた
襟足(えりあし)に向かって 
キュッとくびれるようなエアウェーブの髪は
信号待ちの間も 軽快なステップに合わせて ふわりと優雅に踊っている

東京タワーの影が 交差点に差し掛かる 毎朝この瞬間
車道に止まるエアウェイブと 歩道でランニング中のカノジョのウェアは  
スカイブルーのペアルックになる 

信号待ち30秒の世界は
僕が一方的に カノジョを見つめる世界 
僕の鼓動と共に エアウェイブのエンジン回転も 10%UPする世界
このひとときが 今日の原動力になる

そんな僕にとって
南の島への一週間の出張は 残酷な試練だった

同僚たちには 到底理解できない僕の苦悩が ようやく終わった翌週・・・ 
いつものように 交差点で停止するエアウェイブ
しかし・・・ 
そこにカノジョの姿は無かった
今までに無い出来事に 不安を感じながらも 
自分だって一週間 いなかったことを思い出し
明日には きっと会えるだろうと思った

ところが 帰路で いつもの交差点に差し掛かったとき 
横断歩道を歩く年配の女性たちの会話が 
エアウェイブの中に 氷の魔女の伊吹を送り込んだ

「先週 ここで事故にあった人 亡くなったらしいわよ!」
「えぇー あの あおいジャージの人・・・」

!!
事故・・・死んだ・・・
その瞬間 僕の心がパキリと 鳴った・・・

「カノジョと決まったわけでじゃぁない・・・」
そう言い聞かせようとすればするほど ハートの ひび割れが広がる

次の日も・・・ そのまた次の日も・・・ カノジョは現れなかった

僕のハートは すでに 全体にひびが入り砕け散る寸前だった 
そんなとき・・・
ふと目に入った新聞記事
 
「~量子力学的には 死後の世界は存在する~
 二重スリットの実験 あなたが存在を意識した時 それは存在する」

それならば 僕はカノジョを意識しよう 
元気なカノジョとまた逢えることを・・・

翌朝・・・ 
僕は 東京タワーが見える交差点に向かった
大きく左に曲がるカーブを過ぎれば目の前に交差点・・・

!!

そこに スカイブルーのウェアを着たカノジョが 立っていた

よかった・・・
僕の脳裏に Blue Umbrella が浮かんだ
信号も タワーも マンホールたちも 笑顔にハミングしている

すると・・・

Ko ko ko 

信号待ちのエアウェイブをノックする音

カノジョだった

「帰り道も この道を通りますか?」

カノジョからの誘いに 僕のハートは粉砕した・・・ が・・・
中から 羽ばたくように輝く 新しいハートが生まれた

カノジョも 
僕を観察していた エアウェイブとエアウェーブ・・・ 
スカイブルーの二人

♪ Never Shout Never - Can't Stand It ♪

その傍を 
緑色のセーターを着た あの年配の女性たちが通った

「あなた! その あおいセーター いい感じねぇ」

「そうぉ! ありがと!」

!!
あおい・・・ あぁ 確かに碧いや・・・ 

突然 笑う僕を 
不思議そうに見つめていたカノジョは  
クシュン! と 可愛らしい くしゃみをしたあと  
Red umbrellaのように 笑った


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