話頭/wato

映像作家/カメラマン/ときどき脚本家 コロナでお仕事を無くし、療養生活を終えてなんとか…

話頭/wato

映像作家/カメラマン/ときどき脚本家 コロナでお仕事を無くし、療養生活を終えてなんとか生きております。 撮影技術/ガジェット/治療の最中に出会ったことについて書き残してゆきます。

マガジン

  • 夜光漂流

    夜光漂流の原作を書いています。

  • Adobe税と闘う

    Adobe税と日々格闘しながら制作環境を整えていきます

  • 日比谷躁躁曲

    躁状態を隠して代理店に入社した自分の備忘録。 団体、個人名は日比谷〜有楽町〜銀座の映画館をもじっており、特定の何かを示すものや攻撃するものではありません。

最近の記事

【12】夜光漂流

豹変 夜の街を望む川沿いの堤防の上にささやかな夕食を広げると、櫂はスマホスタンドでお気に入りのゲーム実況画面を立ち上げた。 画面の中には紙袋を被った男性と思われる配信者が、流行りのFPSゲームを軽快な操作で駆っている。 紙袋の頭頂部からは、袋を突き破るようにパンクな鶏冠が突き出しており、目の部分にはメッシュで出来たのぞき穴が空いている。紙袋の至る所にはこれまでランカー入りしたゲームタイトルのステッカーが乱雑に貼られており、あたかも行った国のステッカーをスーツケースに貼り付け

    • 【AIツール】Adobe Audition 音源の長さを変える

      Adobe AuditionのAIツールを使って音源を伸縮させる手順 まずは新規「マルチトラックセッション」を作成し、今回使いたい音源を開きプロジェクトに取り込む。 今回の音源は2分31秒。 動画制作を行う方、配信を行う方は気に入った楽曲をループ素材にして延々と長くしたいという要望が多い筈。 「エッセンシャルサウンド」は初期状態では隠れていることが多いと思うので、ここから選択して表示させる。 自分は「エフェクト」と一緒のボックスにタブで収納した。 編集ができる状態に

      • 【11】夜光漂流

        汀 派遣会社のカードーキーで忍び込んだ屋上の空間は、見慣れたはずだった東京の別世界を映し出していた。 普段は気だるく歩く東京メトロからの出勤ルートも、肩をぶつけてくる何かにイラついたビジネスパーソンも、ここから眺めた景色の一部となって都会のジオラマに収まり、自然な調和すら感じることができた。 街並みの向こうにはスカイツリーが存在を主張するように、期間限定コラボの有名キャラクターカラーに発光していた。 「引いて眺めると、綺麗に見えるんだね」 汀(なぎさ/25)は上機嫌で友人

        • 【10】夜光漂流

          夜に生きる若者たち 櫂は凹んでいた。 バイト一週間目にして早くも仕事を失う恐れに直面していたためだった。 好きな配信を聴きながら、ゲームの配信者と登場キャラクターになったつもりで夜の街を駆け回っていたが、少々ハメを外しすぎていたことが理由だった。 櫂は、自分がゲームのキャラクターになったつもりで無駄に階段を駆け上がり、廊下のコーナーで意味もなくそこには居もしない索敵をし、戦場ごっこをしながら配達をしていた。 バイトテロよろしく、数件のクレームが配達登録会社に届いていた。

        【12】夜光漂流

        マガジン

        • 夜光漂流
          12本
        • Adobe税と闘う
          3本
        • 日比谷躁躁曲
          3本

        記事

          Adobe Auditionでラウドネス調整を行う

          ラウドネス調整とは 元々はとても専門的な用語なのですが、多くの人が動画を作成、投稿、配信するようになり目にする機会も増えてきました。 【ラウドネス=音声の数値化(音量の数値化)】で、あらゆるメディアに動画を投稿(納品)する際には本来規定の数値を守る必要があります。 YouTubeなど多くのSNSメディアは自動でこれを調整してくれるため不要ですが、SNS動画制作からスタートすると、各メディアへの納品時にここでつまづきます。 動画制作は映像ではなく音声で失敗することが多いので

          Adobe Auditionでラウドネス調整を行う

          【09】夜光漂流

          櫂の初出勤 夕方15:00のアラームは、その日もシェアハウスにけたたましく鳴り響いた。 ミリタリーグッズと好きなゲーム配信者のグッズに囲まれて眠る櫂(かい/25)は、今日がフード配送バイトの初出勤日だった。 多動と妄想癖のせいでこれまで数多くのバイトをクビになってきた実績を胸に、今度こそは失敗しないように一人でできる仕事を選んだ。 ミリタリーとゲーム配信に次いで、自転車は好きだったし、身体を動かす仕事がしたかった。オフィスで働くよりも、風を切る方が性に合っているとも感じて

          【09】夜光漂流

          【08】夜光漂流

          三分坂Pとしての1日 AM8:00のアラームが鳴る。 洋高のルーティーンは様変わりした。 もう毎日軍手を手洗いすることもない、服の臭いを気にする必要もなく仕事に自分の好きな服を着ることが出来た。 おにぎり2つの節約弁当は継続することにしたが、まるでいち社会人としてキャリアアップした朝でも迎えたかのような目覚めを感じていた。 カーテンを開けると、強い日射しが射し込んできた。いつもの倉庫からの帰りに浴びる見慣れた奴だったが、今朝はやけに清々しかった。梅雨の合間に射す日射しはこ

          【08】夜光漂流

          【07】夜光漂流

          洋高とヒロP 22時30分。この日も洋高は浜松町から東京モノレールに乗り込み、深夜の倉庫作業へと向かった。 この数日、車窓から見える建設現場の中にも、都心の隙間に造られた公園にも妄想を掻き立てることなく、ただ三分坂のスタッフとなった自身を想像し続けた。 『返答期間』は明後日に迫っていた。 ガシャン、と大きな金属製の音が倉庫内に響く。スチール製のコンテナを組み立て、ベルトコンベアの周囲に配置する洋高。 事務所の引き出しから、地区名と番号の書かれたコピー用紙を取り出しコンテナ

          【07】夜光漂流

          【06】夜光漂流

          三分坂の契約 観光地に近いせいだろうか、平日の日中にも関わらず気付くとカフェの席は7割近く埋まってきていた。 土地柄、外国人観光客も立ち寄り、カウンターの店員と軽快な英語で談笑をしている。自分の目の前に有名な配信者が居ることも相まって、洋高にはここが現実なのか一瞬分からなくなりそうだった。 「プレイヤーになってほしい」という三分坂の提案は、洋高を斜め上から突いてきた。さっきまでの高揚感は一気に収まり、今は返答の一つ一つに慎重に答えていた。 「自分、これまで結構色んなジャ

          【06】夜光漂流

          【05】夜光漂流

          スカウト 慣れない街並みを歩き、律儀に碁盤の目になった公道を抜けると、不意に高架線の見える水路にぶつかった。 視界の先には東京スカイツリーが迫るように覗き込んでくる。 東武鉄道の新型車両、スペーシアンXが車両間隔を調整するためにゆっくりと運行している。真っ白なその車両は、古くから在る民家と急ピッチで建て替えられているマンション郡が混在する街並みに妙に合っていると感じた。 洋高は、三分坂に指定された東京ミズマチのカフェに一時間半も早くやってきた。 30分かけてじっくり周辺を

          【05】夜光漂流

          【04】夜光漂流

          有名配信者からのメッセージ 結論から言うと、その日の倉庫作業は2倍の体力を削られた。 まず、大手ECサイトのサンクス週間と重なり配送荷物が集積所に溢れかえった。 続いて最初の休憩で海外留学生バイト12名が一斉に飛んだ。 梅雨時の倉庫内のムッとした熱気が体力を奪う中、洋高はフェイスタオルを濡らしてはヘルメットと頭の間に滑り込ませて作業を続けた。隙あれば業務用サーキュレーターの前に陣取り、ペットボトルの麦茶を流し込んだ。 通常、夜が明ける頃には荷物の振り分けは終わり、荷物の伝

          【04】夜光漂流

          【03】夜光漂流

          登録者数530人のゲーム配信者 これ以上ない幸福というものは、こういうことだ。 毎日汗をかいて働き、衣食住に係るお金をしっかり支払い、一日数時間の限られた時間を自分の追求するものに捧げて生きる。 登録者数536人のゲーム配信者『ヒロP』は、そんな世界一幸せな配信者たちの一人だった。 毎月の税金の督促状には気を揉んでいたが。 ゲーム開始1時間、試合は3戦目を闘っていた。 紙袋の節穴からチラッと配信確認用のノートPCを見る洋高。同接視聴者は11人、コメント欄は深夜の神社みたい

          【03】夜光漂流

          【02】夜光漂流

          デジタル空間のもう一人の自分 夜通しの倉庫作業を終え施設を出ると、強い日差しに視界がぼやけた。 一緒に出てきたおっちゃんが言う 「6月とは思えない日差しだなあ、お疲れさん!」 洋高は東京モノレールに乗り込み浜松町駅へ帰宅の途についた。 朝は一転、羽田から東京へ向かう人たちで座ることもできない。 一晩の倉庫整理で体臭を放つ洋高を避ける観光客と遭遇する確率もそこそこあった。そんな時、洋高はただ浜松町駅に着くことをじっと待っていた。 自宅ワンルームに着くと、おにぎりの入ってい

          【02】夜光漂流

          【01】夜光漂流

          派遣男子、ゲーム配信者に出会う 東京モノレールの左カーブを曲がっている時、生きてるって気持ちになる。 都営大江戸線大門駅から浜松町まで歩き、東京モノレールに乗り込む。時刻は今日も決まって22時30分、帰宅者と飲み帰りのビジネスパーソンを横目にガラガラの車両の一両めに洋高(ヒロタカ/23)は颯爽と乗り込んだ。 夜が明けるまでの時間の中で、この移動時間は自分だけの空間のような気がしてお気に入りだった。 建設中の何処かの企業ビルとタワマンの間を縫うように走り抜ける車両。 次第

          【01】夜光漂流

          日比谷躁躁曲_6日め

          自立支援医療の申請について 自分が行った「自立支援医療」の申請の段取りと、その助けについて。 心療内科に通う多くの方にとって、役所に申請に行くこと自体が苦痛であったりあるいは怠惰性と格闘の末に諦めてしまうことも多いかと思う。 実際、一度目の通院の際には、自分も同じだった。 二度目(今回)、診療所の看護師さんより自立支援についての書類が必要かと言われ、ふと思い出した。 医療費が嵩み、苦しんだ過去の自分を。 自立支援の申請にとってハードルは二つと思っている。 上記の気持ち的

          日比谷躁躁曲_6日め

          Adobe Auditionを使ってみる

          AIで楽曲の長さ調整ができると聞いて お金もないのに、Adobe Auditionを契約する。 理由は手を動かしたかったとか、デジタルの波形を触りたかったとか、不意にガンプラ作りたくなる衝動に近しいあの感覚。 しかしながら、いち社会人。お金を使う以上は大義名分が必要だ。 知人のディレクターから聴いた、「最近はAIで1分の曲を2分半にしたりして作業してるよ」のひと言が、サブスクをポチる最後のひと押しとなった。 ほんの数年前までBGM作業といえば、動画制作プロジェクトで使

          Adobe Auditionを使ってみる