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【05】夜光漂流

スカウト

慣れない街並みを歩き、律儀に碁盤の目になった公道を抜けると、不意に高架線の見える水路にぶつかった。
視界の先には東京スカイツリーが迫るように覗き込んでくる。
東武鉄道の新型車両、スペーシアンXが車両間隔を調整するためにゆっくりと運行している。真っ白なその車両は、古くから在る民家と急ピッチで建て替えられているマンション郡が混在する街並みに妙に合っていると感じた。

洋高は、三分坂に指定された東京ミズマチのカフェに一時間半も早くやってきた。
30分かけてじっくり周辺を探索し、同じコンビニに二度入った。
ようやくカフェに入ると、奥めの座席を取りアイスコーヒーを注文して三分坂を待った。アイスコーヒーのグラスに着いた結露で自分が早く来すぎている事がバレるのではないか、そんな心配ばかりが脳裏をよぎる。

この数日は眠れずにいたが、毎日のルーティーンは欠かさずに続けた。
あのバズったショート動画以降、1万回を超える動画は生み出せずにいたが、登録者数は600に迫っていた。
『ヒロP』がどうなるのか、洋高にも分からなかった。三分坂は自分をスタッフに誘うのだろうか?毎日考え続けた。得意のFPSはランカークラスになっていた。

カフェに入ってくる人が現れると、顔を上げてその挙動を確認した。何人めかの人違いを見送ると、待ち合わせ時刻から数分遅れて長身で体格の良い男性が店内に入ってきた。
ビジネスカジュアル風にセットアップのジャケットとパンツを合わせ、白いTシャツを着た男性。Tシャツの胸には三分坂チャンネルの物販を示す『3BNZKA』のロゴテキストがプリントされていた。
男性が近づくと、思わず中腰で立ち上がり会釈をする洋高。男性は笑って座りなよ、という素振りを見せた。

「ヒロP君?ですか?」
洋高は頷く。
「ヒロPです。初めまして」
三分坂(さんぶんざか/33)は、笑顔で洋高の向かいに座り、同じアイスコーヒーを注文した。
「このTシャツなら流石に気づいてくれるかなって思って」と三分坂。
洋高は緊張し引きつった笑顔でTシャツについての感想を必死に伝え続けた。
「10万人記念で作ったTシャツなんです、売れてないですけどね」
三分坂の笑顔につられて洋高も笑った。緊張がほぐれた気がした。

「それにしても」と三分坂は続けた。
「ヒロP君のFPSスキルに感動してね、いきなり提案なんだけど一緒に組めないかって思って無理言って呼んだんだよ」
突然の核心に呼吸が荒くなる洋高。
「いや、そんな……。 自分、FPSしかできない配信者ですし」

「だからこそなんだ」
洋高は三分坂の熱意に気押されするように、相槌を返すことしかできなくなっていた。
「つまり、俺が喋る裏でゲームをプレイして欲しいんだ。もちろんチームとして」

》》続く

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