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わたしたちが光の速さで進めないなら


“わたしたちが光の速さで進めないなら”


タイトルを見た瞬間、そのままじっと魅入られてしまった。

わたしたちは光の速さで進めない。
そんな圧倒的に不利な前提のあとには何がくるというのだろう?

then?_

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この物語には、不可能であることの証明や広大な宇宙のごく微小な領域に閉じ込められていることへの諦めなどではなく、主体(わたしやあなたのような個々の人間のこと)によって、いくらでも世界の見え方は変化するという事実が綴られていた。

光速で進めないことは、わたしたちを制限する。どれだけエネルギーを与えても、見かけの質量が激増して光速には到達することができない。空間の歪みが固定化されてしまったわたしたちは、まるで蟻地獄の巣のような曲面を這い上がることができないのである。

でも、そのような絶望的な制限を超えてわたしたちは世界を想像することができて、そこから感情とエネルギーを紡ぎだすことができる。まるで、他人の心や感情はわからないはずなのに、愛や憎しみや憧れや失望やその他諸々を紡ぎだすことができるように。

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この短編集には、いろいろな制限が課された主体たちがたどり着いたそれぞれの世界が描かれているように私には思える。そして制限の向こうにあるその先には深い感情があふれていて、一つの物語を読み終わるたびにそのことが心を捉えてやまない。夜空の星を見上げたときに、光速の壁の遥か彼方にある場所で今起きていることを想うのにどこか似ている。

特に印象に残ったのは、「巡礼者たちはなぜ帰らない」「館内紛失」「わたしのスペースヒーローについて」の三篇

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