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Expensify.cashからみるフィンテックのOpen Source Projectの可能性

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6/18(金)にこんなメールが届きました。David BarrettはExpensifyという経費精算SaaSのファウンダー兼CEOです。

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要はExpensifyが個人間送金のサービスをリリースした、という話なのですが、これが大変取り組みとしておもしろかったので記事にします。

この記事はフィンテックのプロダクトマネージャーやソフトウェアエンジニアにおすすめです。

Expensifyとは

前述の通り米国の経費精算SaaSです。

設立2008年で、2021年5月にForm S-1(証券登録届出書)が提出され、近々IPO(新規株式公開)するとされています。

わずか130人の従業員で1,000万人以上のユーザーと$100million(約110億円)の売上がある、優良企業です。

弊社DIS(Dentsu Innovation Studio)も利用していますが、ブラウザからでもモバイルからでも経費申請でき、レシートの画像やpdfからOCR(Optical Character Reader: 画像から情報を読取る技術)で自動的に入力項目を埋めてくれるなど、Expensify以前のオペレーションに戻りたくない程便利なサービスです。

過当競争な個人間送金市場におけるExpensify.cashの狙い

そのExpensifyから出た個人間送金サービスが、Expensify.cashです。

米国の個人間送金の競争は激しく、最もメジャーなVenmo、大手銀行が連携して提供するZelle、DISのnoteでも何度か紹介しているSquareのCash App、グローバルでも認知度の高いPayPalなど、既にメジャーなサービスがいくつもあります。

私個人の見解ですが、このExpensify.cashは上記プレイヤーがアクセスできていないマーケットにリーチできる可能性があると思っております。それは社内同僚に特化した個人間送金です。彼らは冒頭のメールでも「every payment is a conversation」(すべてのペイメントは会話である)と述べている通り、人とのお金のやり取りはコミュニケーションそのものです。そして相手によってコミュニケーションの手段が変わるように、支払手段についても異なる手段が求められるケースがあります。日本の例で言えば、誰もがLineを持っていますが、会社の人との飲み会の精算のためにLineアカウントを共有してLine Payで支払うということに抵抗がある方も多いのではないでしょうか。これはVenmoやCash Appで行われている既存の個人間送金についても同様です。Expensify.cashであれば同僚の会社用メールアドレスを知っていれば送金できるので、オンボーディングのコストが少なく、プライベートとビジネスを分けたお金のコミュニケーションを実現できるので、一定層の顧客を獲得できるのでは、と考えております。

上記の私の見解はチャレンジングに思える人もいるかもしれませんが、冒頭メールのDavidの野心はそのレベルではありません。彼は「Financial chat is 100x bigger than expense reports」(筆者意訳:ファイナンシャルチャットは経費レポートの100倍大きいマーケット)と述べるように、数十億人が使うようなプロダクトを目指しているとのことです。QuickBooksなどのアカウンティング系マーケットでもなく、VenmoやCash Appのような数千万人規模の個人間送金マーケットでもなく、FacebookやWeChat規模のコミュニケーションプラットフォームだと。相当に野心的な狙いですが、チャット中心のUIににその思想が体現されているのは事実です。(下記画像はApp Storeより抜粋

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ビジネスモデルの観点でいうと、このアプリは無料で、取引に手数料が発生する訳でもないので、導入企業のリテンションやエンゲージメントをより高めうる施策、といえるかもしれません。そのためにわずか130人の企業がメインプロダクトとは別のアプリに開発コストをかけると考えると驚く方もいるかもしれませんが、そのからくりはOpen Source Projectです。

Open Source Projectでスケール化する開発

このアプリはReact NativeのOpen Source Projectで、以下がそのGithubです。コントリビューターがこの記事執筆時点でほぼ100人、コミットも1万件以上で、今回のリリースに至るまでにかなり活発な開発がされていることがわかります。

Expensifyの社員以外の開発者がなぜこのアプリの開発に貢献するのでしょうか。導入企業内のExpensifyファンがプロダクトの思想に共感して協力するなど、理由は色々あるかもしれませんが、Expensifyはちゃんとお金を払っています。以下のようにUpworkというクラウドソーシングのサービスを使って、開発内容に応じてスポットの仕事を募集しています。Expensify程の企業の新しいプロダクトの開発にお金をもらいながら関われるとなると、参加したい人が多いことも頷けます。また当然Expensifyとしてもエンジニア採用による固定費を抑えることができるので、利益を直接産まないプロダクトに対してリスクの少ない経営をしていることがわかります。

これからのフィンテックプロダクト開発

フィンテックプロダクトの開発でOpen Source Projectというアプローチをとることは珍しいかと思います。お金とは最もセキュアでプライベートな存在の一つのためです。しかし一方で、お金のやりとりはやはりコミュニケーションである以上、より開かれた環境で多くの視点を取り入れながら作られるべきかもしれません。ブロックチェーン界隈ではその辺りの取り組みが進んでいる印象ですが、Crypto以外のお金においてもその取り組みが今後増えてくるかと思います。

DISではシリコンバレーで未来を先取りし、日本にその未来をいち早くプロダクトとして展開することにモチベーションを持てるプロダクトマネージャーソフトウェアエンジニアを募集しています。関心のある方はご連絡ください。


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