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「女性からみた男性の生きづらさ」

今回は初めて文章を寄せてくださったNGO職員の長島さんの文章を投稿します。ジェンダー問題に関する活動をされていらっしゃいます。活動をされている方ならではの視点から意見を書いてくださりました。(編集者:中村)

「女性からみた男性の生きづらさ」

長島 千野(NGO職員)

ジェンダーの話題になると、若い層を中心として「男性だって生きづらい」「男性の方が生きづらい」という声が聞かれる。非正規雇用も増え、男性間の格差が広まっているのは確かだけど、社会構造的は男性優位社会で無自覚な特権があるわけだし、「男性も生きづらいですよね」と男性に忖度しないとジェンダーの話ができないなんて、モヤモヤするし納得いかない。そう長い間思ってきたけど、最近男の子や男性の声を直接聴く機会が増え、だんだんと自分の考えに変化が出てきた。


男性の生きづらさの正体

日本は2022年のジェンダーギャップ指数146カ国中116位と、ジェンダーギャップ(格差)が大きく、その大きな要因は政治や経済分野が男性中心であること。にもかかわらず、昨年行われた男性の意識調査では、18歳~70歳の男性の半数が「最近は男性のほうが女性よりも生きづらくなってきている」と思っている[i]。この「最近は」は、近年のジェンダーギャップ解消のための対策で、女性の方が今は優遇されていると思っている人がいるからか?


私は仕事でジェンダーについて考えるワークショップをすることがあり、そのなかで社会や自分の身の回りの「男女の利益・不利益」を洗い出すワークがある。これをやると男性の不利益も結構出てくる。例えば「人前で泣けない」「弱音を吐けない」「稼がなければいけない」「長時間労働」「育休を取りづらい」「社会的プレッシャーが大きい」などである。これらは、男性の利益で出てくる「女性より給料が高い」「出世しやすい」「家事育児をすると褒められる」の裏側とも言えるだろう。つまり、「男性は強くて、稼いで家庭を支える」というジェンダー規範や男性像に沿うことで権力を得る男性の裏側にはプレッシャーや長時間労働によるメンタル・健康被害もあり、この男性像から外れる人は社会で生きづらさを感じているのかもしれない。


「特権を自覚させる」アプローチの限界

内閣府が2021年に20代~60代を対象に実施した調査[ii]では、「男性は仕事をして家計を支えるべきだ」と思う男性が50.3%、女性は47.1%、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」 (男性37.3%、女性22.1%)「男性は人前で泣くべきではない」(男性31.0%、女性18.9%)という結果が出ている。このような昭和的なジェンダー規範が今も強く残っている社会で、非正規雇用が増え、男性間の格差も広まっている。生涯結婚しない人も増えているし、若い世代は、上の世代に比べて家庭で家事・育児を分担する人たちも増えてきた。でも、非正規雇用は圧倒的に女性が多いし、同じ非正規でも女性の給与の方が低い。共働きでも女性がワンオペして成り立っている家庭もいまだに多い。


ジェンダーについて話す時、男性の生きづらさから入ったり、男性の生きづらさだけを語るのは違うのではないか、と思ってきた。まずは自分自身が気付いていない特権を認識したうえでの男性の生きづらさなのではないか? 欧米の有名な男性が「自分はフェミニストだ」宣言をしたり、#MeToo運動では男性が連帯する欧米のハッシュタグが羨ましかった。日本はなんで反発ばかりなのか?そして、男性から直接話を聞くことが増えた最近改めて気づいたことは、日本はジェンダーギャップ指数116位なのに、ではなく、116位だから男性も生きづらいということ。社会が変化していくなかで古いジェンダー規範が根強く残っているから、そして社会がよりジェンダー平等になろうとする過程で起きる痛みでもあるかもしれない。


特権の自覚というのは、相当レベルが高いことで、難しいし、痛みが伴う。自分自身のことを考えると、女性であるが、シスジェンダー(出生時に割り当てられた性と自認する性が一致)で異性愛者であり、障害当事者ではない。これだけ考えてもなんとも居心地が悪くなるけど、他にも自分の特権はある。特権の自覚は重要であることは間違いない。けれどそれよりも、男性も多様で、生きづらさや(無自覚な)特権が混在し、そのレベルも人によって違うという複雑性を理解したうえで話をした方が、男性側もジェンダーについてより当事者性を持つことができるのではないか。


2022.9.10掲載


[i] 電通総研(2021)「The Man Box:男らしさに関する意識調査」

[ii] 内閣府男女共同参画局 令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究

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