天皇杯で発揮する無類の勝負強さ。90+10分に劇的決勝弾…最後まで信じ続けた植中朝日がマリノスを準々決勝へ導く「自信を持って振った」【無料記事】
マリノスは劇的展開で天皇杯準々決勝へ
天皇杯4回戦が8月21日に行われ、横浜F・マリノスはV・ファーレン長崎に3-2で勝利して準々決勝進出を果たした。
劇的な展開だった。序盤から圧倒的に試合を支配していたマリノスは、チャンスをゴールにつなげることができず。58分にはフアンマ・デルガドにワンチャンスを仕留められ、長崎に先制を許してしまう。
その後67分に天野純のゴールで追いついたものの、後半アディショナルタイムの92分に再び失点。中盤から飛び出してきたマテウス・ジェズスにゴールネットを揺らされ、万事休すかと思われた。
ところが、マリノスは諦めなかった。もともとアディショナルタイムの目安は8分。まだ逆転できると信じて反撃に出たトリコロールの戦士たちは、猛烈な勢いで長崎のゴールに襲いかかり、98分に途中出場の西村拓真が同点ゴールを挙げる。そして、長崎ボールでの再開後も攻め手を緩めることなく前に出た。
「同点に追いついた時に『延長戦に入らず決着がつきそうだな』という気がしたというか……自分がゴールを決められるということではなく、『いけそうだな』という感じがあった。相手は勝ち越した時点で『勝ったな』と、ちょっと緩みが出ていたのを感じましたし、隙はあるだろうなと思っていました」
そう振り返ったのは、100分に逆転ゴールを奪った植中朝日だ。マリノスは2回戦のFC岐阜戦、3回戦の水戸ホーリーホック戦と天皇杯では2ラウンド続けてPK戦までもつれこんだ末に勝ち上がりを決めてきた。2度あることは3度あるのか……誰もが延長戦突入を覚悟していた中、ピッチ上の選手たちだけは勝ち切れることを信じて突き進んだ。
「自信を持って振った」最後のシュート
中盤で相手に激しくプレッシャーをかけた植中は、球際の競り合いに勝ってボールを味方につなぐと、それを受け取った西村がディフェンスラインの背後へスルーパスを通す。ゴールに向かって一直線に走り、裏を取った背番号14のストライカーはGKの動きを冷静に見極めて左足でシュートを放った。
序盤から再三にわたってゴール前でのチャンスシーンを迎えながら「力みがあって、その結果かわからないですけどシュートチャンスを何回も仕留めきれなかった」植中。前線でボールを奪って相手GKとの1対1になりながら、シュート精度を欠いた場面もあった。古巣との対戦でモチベーションは最高潮だったが、余計に力が入ってしまい「焦りはあった」という。
それでも決勝ゴールに至るまでの過程では、落ち着きを保つことができた。植中は「最後はボールをトラップした時にいける感じがしたので自信を持って振った」と語る。ゴールが決まると、無心でマリノスのファン・サポーターが陣取るゴール裏スタンドの方へと走っていき、仲間たちと喜びを分かち合った。
プロ生活をスタートさせた長崎の地で、自らの成長した姿を土壇場での決勝ゴールという形で表現した。元チームメイトやお世話になったスタッフ、知人たちからは賛辞を、長崎のファン・サポーターからは「愛あるブーイング」(本人談)を送られたのは、植中の成長ぶりが認められた証拠だろう。
「(長崎には)人柄のいい人が多くて、それが根付いているチームだと思っているので、本当に大好きなクラブですし、毎試合チェックしています。向こうの選手とも連絡を取って楽しみにしていましたし、楽しかったです」
初めての古巣対決を大いに楽しみ、マリノスを天皇杯ベスト8に導いた様子の植中は終始笑顔だった。天皇杯では3ラウンド連続でゴールを挙げ、ここまでの勝ち上がりに大きく貢献している。岐阜、水戸、そして長崎の地で発揮した勝負強さを今度はリーグ戦でも。8月24日に国立競技場で行われるセレッソ大阪戦でも、「もっと決めるチャンスがあったので、満足はできない」と向上心に溢れる若きストライカーの大爆発に期待したい。