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反撃のヘディング弾、着実に積み上がる信頼。井上健太「壁を乗り越えるためには、目に見える結果が必要だった」【無料記事】

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井上健太がマリノスを窮地から救う

 不振に喘ぐ横浜F・マリノスの中で、徐々に存在感が大きくなっている選手がいる。右肩のリハビリを終えて4月末に戦列復帰を果たして以降、井上健太は着実に出場機会を増やしてきた。

(撮影:舩木渉)

 だが、エウベルやヤン・マテウスの立場を脅かすには至っていない。爆発的なスピードを武器とする井上は、どうすれば彼らからポジションを奪えるのかを知っている。必要なのは信頼に応える「結果」だ。

 7月10日に行われた天皇杯3回戦の水戸ホーリーホック戦に左ウィングとして先発起用されたトリコロールの背番号17は、チームを救う活躍でハリー・キューウェル監督にアピールした。

 2点ビハインドで迎えた35分、ペナルティエリア右手前で水沼宏太がふわりとしたクロスを上げると、逆サイドから走り込んできた井上がフリーでヘディングシュート。「本当にボールが良すぎたので、押し込むだけだった」と反撃の狼煙となるゴールを奪い、チームを勢いづけた。

「宏太くんは見てくれている」

 序盤からチームとしても個人としても我慢の時間が続いていた。「4-4-2で初めてやって、そこの難しさは正直あって。誰がどこに立ち位置を取るのか、提示はされていたんですけど、それをピッチの中でうまく表現できなかったところでドタバタしてしまって、ミスから失点したのはもったいなかった」と井上が振り返るように、マリノスは15分までに2失点を喫する。

(撮影:舩木渉)

 そして、井上自身も「前半は自分の中でもあまりいいプレーができなくて、縦にもいけなかった」ともどかしさを感じていた。確かにゴールラインの後ろから写真を撮影していても、目の前にいるはずの井上が縦方向に突破する姿をなかなか画角に捉えられない。ボールを持ってもドリブル突破を仕掛けるより内側に運ぶか、後ろに下げるかを選択する場面が多かった。

 それでも諦めずに試行錯誤を続け、ゴールに向かったプレーが増えてきた時間帯での1点だった。井上のゴールの前後からマリノスのボールを動かすテンポが上がり、主導権を握れるようになってもいた。だからこそ、背番号17のヘディングシュートが持っていた意味は大きかった。

「出場時間がなかなか得られない中で、結果はすごく大事だと思っていました。前半は自分の中であまりフィーリングがよくなく、何かしらやらないと長い時間出られないと思っていたので、数字を残せてよかったです」

(撮影:舩木渉)

 縦パスを受けてボールを持った水沼が、反転した瞬間に逆サイドの井上を見ていたのも、信頼の証だろう。「一緒に出るとなってから、宏太くんにはずっと『絶対あそこに飛び込んできてくれ』と言われていましたし、(自分の動きを)見てくれている。練習でも自分があそこに飛び込んだらボールをくれてゴールというのがあったので、練習通りかなと思います」と殊勲のゴールスコアラーは手応えを口にする。

壁を乗り越えるためには…

 得点をきっかけに他のプレーも好転していった。エンドが変わった後半も「いい感触があって、よく馴染めてきた」と感じていた。しかし、63分に宮市亮との交代がアナウンスされる。井上は悔しさとともにピッチから退いた。

(撮影:舩木渉)

「周りも見えるし縦にもいけるし、すごくフィーリングが合ってきた中で交代になったので、難しかったですけど、そこで絶対的になれるように。『出し続ければ何かしてくれる』と監督に思われるように、もっとやらなければいけないと思います」

 天皇杯では2回戦のFC岐阜戦で、後半アディショナルタイムにチームを敗退の危機から救う同点ゴールを挙げた。そして、3回戦もゴールでマリノスが勝ち上がるきっかけを作った。リーグ戦ではまだゴールもアシストもなく、日頃から「自分の課題は数字の部分」と認めるが、カップ戦で続けてゴールを決めていることは必ずや今後の出場機会増加につながっていくはずだ。

「いい感触をつかめてきている中で数字が出ないと、出場時間も得られない。僕のポジションには絶対的な選手もいますし、その壁を乗り越えるためには、目に見える結果が必要だと思ったのでよかったです」

(撮影:舩木渉)

 右ウィングではヤンが、左ウィングではエウベルや宮市が井上の前に立ちはだかる。駆け足でパフォーマンスの質を高めているスピードスターは、強力なライバルたちとの競争に打ち勝ち、マリノスにとって欠かせない選手として不振脱出のキーマンとなれるだろうか。大きな飛躍の瞬間を、誰もが心待ちにしている。

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