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アフリカの「チンチョンチャンチン」考

「チンチョンチャンチン」(嘲笑)

これ、何を意味しているか分かりますか?
中国人を始めとした、"アジア人全体の蔑称"です。アジア以外の海外に長く滞在した事がある日本人なら、必ず耳にした(そう呼ばれた)事があるはずと言って良いほど、この蔑称は全世界に広まっています。

ボクは1年近くアフリカ大陸を旅行しましたが、その間、ずっとこの問題を考え続けて来ました。残念な事ですが、アフリカを旅行する事と、このアジア人差別問題は、今や切っても切り離せない関係にあります。

と言う事で、今回は「チンチョンチャンチン」について、1年近く考え続けて来た事をここにぶつけてみる事にしました。

★それって中国人だけの話?いえいえ違います

「チンチョンチャンチン」の語源は、中国語の会話が傍からそう聞こえる事から来ており、そもそもの対象は中国人である事は明白です。なので、もしあなたが実際にそんな言葉を言われた事が無い場合、「それって中国人の話でしょ?」と思うかもしれません。

しかし、実際この言葉は日本人や韓国人でも言われます。そして、そもそもアジア人を全員中国人と決めつける事自体が既にアジア人蔑視だとボクは考えます。アフリカでは国によって旅行者の国籍がけっこう偏ります(植民地時代の旧宗主国が多い傾向)が、誰も白人を見ていきなり「イギリス人!」とか「フランス人!」って呼びませんからね。

いくら中国人が人数的に多いにしても、中国人以外である可能性がゼロでない事が分かっているのに、アジア人と言うだけでいきなり断定してくると言う事は「アジア人なんて全部一緒」「別に国籍を間違えても構わない」無意識下で蔑視しているからこそ出て来る言動です。

つまり、アジア人を見れば「チンチョンチャンチン」と投げかけて来るのは、自分が何人とかそんなの関係なく、今やこの言葉はアジア人全体への差別用語と捉えるべきです。
実際に言われた事がある人は、感覚的に「アジア人が差別されている」と感じていると思います。

★差別に対して「無視」は正しいのか

駐在員や在住者の事はわかりませんが、少なくとも日本人旅行者の大半は、「チンチョンチャンチン」と呼ばれても「無視」もしくは「適当にはぐらかす」などしているようです。

しかし、僕はこの対応は差別を助長するだけだと思っています。

なぜなら、もし無視で差別が無くなるとしたら、日本人より遥かにスルースキルが高い中国人なんて、とっくに差別されなくなっているはずなのです。

たまに「無視すればいつか飽きてやめる」と言う人もいますが、それも間違いだと思います。無視されれば、「無視できなくなるまでエスカレートする」のが、差別する側の心理です。学校のいじめがそうですね。無視して解決してたら誰も自殺まで追い込まれません。

その時は無視すれば離れて行くかもしれませんが、次に通ったアジア人にはもっと酷い行為をします。だって彼らはヒマで、お手軽にできる娯楽としてアジア人を馬鹿にしているんですから。前よりも(彼らにとって)面白い反応を引き出そうと工夫を凝らすのは、想像に難くありません。

★実はほとんどが「自覚の無い差別」

これは言われる度にいちいち会話し続けたボクの経験ですが、「チンチョンチャンチン」と言う人のうち、4割はそれが蔑称である事すら知りません。更に、残りのうち3割はそれが蔑称であり自分がアジア人をバカにしている自覚があっても、人種差別している自覚がありません

一例を挙げると、ケニアのモンバサで、早朝の人が少ない時間帯に歩いていて、中学生くらいの少年3人に囲まれて「チンチョンチャンチン」と笑われました。しかもヒマなのか、足を止めて何度も言って来ます。

「その意味を知ってる?」等いろいろ問いかけてみましたが、英語は半分くらいしか分からないようだったので、グーグル翻訳で「Are you rasist?(あなたは人種差別主義者ですか?)」をスワヒリ語に翻訳して、3人に見せてみました(※)。

覗き込んでそれを読んだ瞬間、3人の顔から嘲笑がスーッと引いたのが、あまりにも見事でちょっと笑いそうになりました。そして口々に小さな声で「ごめん」と言ってくれました。

彼らほど素直な反応が返って来るのは稀ですが、「あなたは人種差別をしている」「あなたは人種差別主義者だ」と伝えると、「自分は人種差別しているわけではない」と弁解し始めたり、不機嫌な顔で押し黙ってしまったり急に真顔になって逃げてしまったり、逆に怒り出したり等の反応が返って来ます。

実際、彼らの多くは「人種差別は許されざる悪である」と思っているにもかかわらず、「アジア人を嘲笑する事は人種差別」と言う事に気付いていないのです。

つまり、「チンチョンチャンチン」と言って来る人のうち、7割は説得で考え直させられると言うのが、ボクの感覚です。残り3割はこちらの話を一切聞かなかったり、バイクや車で通りすがりに言って一瞬で去って行く輩なので、よく分りません。

※素性のよく分からない相手に対してスマホを見せると言う行為は、スマホをひったくられる可能性があるので推奨しません。

★とにかく自分の意思を言葉で伝える

そう言った、自覚の無い差別から、悪意満々の差別まで、どうやって対応したら良いのか。ボクは、「自分の疑問や感想を素直に伝え、問い質し、納得するまで話し続ける」のが最善だと思っています。

「チンチョンチャンチン」と言われた時、人それぞれ何かしらの疑問や感想を抱くと思います。

"なぜアジア人を見たらチャイナだと思うのか?"

"アジアには中国しか無いと思っているのか?"

"国籍を勝手に決めつけられるのは非常に不愉快だ。"

"「チンチョンチャンチン」の意味を知っているのか、誰が使う言葉か知っているのか?"

"その言葉は誰から教えられたのか?"

"なぜ白人を国籍で呼ばないのに、アジア人だけを国籍で呼ぶのか?"

"知らないのにいきなり国籍で呼ぶのは失礼だと思わないのか?"

"それは人種差別だ。"

"いつアフリカ人がレイシストになったのか?"

"あなたにはxx人の誇りがあるでしょう?我々アジア人にも、それぞれの国の誇りがある"

などなど、その時感じた純粋な疑問や感想を、まず冷静に言葉でぶつけるべきです。感情的に怒ったり、無言で態度で示すと言うのは無視と同じくあんまり意味がありません。それは単に彼らがあなたから引き出したいだけの反応ですから。

難しいですが、ケンカ腰にならず、かと言って弱腰になりすぎず、毅然とした真面目な態度で、一語一語ハッキリ問わないと、なかなか聞いてすらもらえません。

彼らは最初、ヘラヘラと逃げたり、全然話を聞かなかったりします。それでも自分の想いを真剣に話し続ければ、全部じゃないにしろ、多くの場合、何かしら想いは届きます

場合によってはどれだけがんばっても本人に届かない場合もありますが、そんな時でも必ず、周りの誰かが真剣に聞いています

そうやって真正面から自分の意思を伝える事、個人が人種差別と闘う唯一の方法だと思います。

★もちろん全てには対応できない

そうは言いつつも、いちいち彼らに対応すると、精神も体力もゴリゴリ削れるし、時間だって浪費します。しかも、やっと話が付いたと思ったら、10メートルほど歩いた所でまた新しい輩に会ったりするのです。キリがありません。

先程、「無視は差別を助長する」と言いましたが、実際問題、無視も選択肢に入れて行かないとちょっと無理です。ボクも、移動前で時間が無い時や、疲れている時は無視します。焦ったり疲れたりしている時では、しっかり話し合う事も出来ませんし。

ボクがアフリカ旅行の後半、精神的な疲労がどっと来て限界が来ているのも、長い間あまりにも真面目に対応し過ぎたからのような気がしています。

なので、みんながみんな、常に人種差別と闘うべきとは思いません。疲れますし削れます。闘える人が、やれる範囲でやればいいと思っています。

でも、もし人種差別を無くしたいとちょっとでも思うのなら、1日1人とでも良いから、じっくり話し合ってみてほしいとも思うのです。

★まとめ

そんな感じで、毎日毎日、試行錯誤しながら人種差別と闘ったアフリカでした。

かなり長い時間悩みましたし、会話するのも正直疲れました。笑われるだけの時もあったし、無視される時もあった。それだけやったけど、個人が全体に与える影響なんて無いに等しく、変化なんて起きっこないのはわかっています

それでも、人種差別に対して、声を挙げる人が少しでも増えれば。

ボクらのあげる小さな声は、

20年後か、

50年後か、

いつか絶対、大きな歌になります。

アジア人差別と闘えるのはアジア人だけです。そして差別と闘うには、声をあげる以外に無い事を、忘れないでほしいです。

さて、リアルタイムのボクはと言うとそんな毎日からようやく抜けられるわけですが、半年もしないうちにまた中南米に行きます。あちらもひどいらしいですね。スペイン語でもちゃんと話し合いできるようにならないといけないな。


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