占領下の抵抗(注 ⅵ)

ソシュールの『一般言語学講義』は、ソシュールの講義そのものではなく、学生の講義ノートから再構成したもので、その後のさまざまな資料の発見により、新たな研究が進んでいます。
しかしソシュールの手稿や新たな学生の講義ノートがジュネーブ公共大学図書館で収集され始めたのは1954年の事であり、ここでは志賀が『国語問題』を書く前に見聞きした可能性を考え、一般言語学講義初版のものを選びました。

様々な資料をもとにした各著書から、本文で引用したのと完全に同じ箇所を取り出すのは難しいですが、類似性のある記述の一例を上げると

「ソシュール一般言語学講義 コンスタンタンのノート」(東京大学出版会)では下記のように記されています。

どのような言語であれ、そもそも言語としての条件を満たすならば、シニフィアンからシニフィエへの関係全体を刻々と変化させる諸要因から身を守るには、弱い存在です。関係が完全にそのまま保たれている例はありません。これは連続性の原理からすぐに得られる補題です。記号の恣意性に含まれる自由の原理との関係では、連続性は自由を剥奪するだけでなく、法律にもとづいて言語を構築したとしても、次の日には人々(共同体)がその関係を変化させてしまっているでしょう。人々のあいだに流通しない限り、言語を統制することは可能ですが、言語がその機能を満たすならばなら、関係は変化します。歴史が示す例にもとづくならば、少なくとも、このことは避け難いと結論するかことができます。
エスペラントは、人工的な言語の試みとして成功したかに見えますが、社会に広まるにつれて、この避けがたい法則に従うでしょうか?
エスペラント語を用いているのは小さなまとまった共同体ではなく、あちこちに散らばったグループです。そこに属する人々は、自分たちのしていることを完全に意識しており、この言語を自然言語として学んだわけではありません。
記号システム(文字表記のシステム。パーリ語を考えてみましょう)や、聴覚障害者の言語でも、同様にむやみに関係が変化します。次のことは一般記号学の事実でしょう: 時間の連続性は時間上の変化と関係する。

「ソシュール一般言語学講義 コンスタンタンのノート」


引用文献: 「ソシュール 一般言語学講義  コンスタンタンのノート」
2007.3.27.初版、2008.3.18.第2刷
著者: フェルナンド・ド・ソシュール
訳者: 影浦峡・田中久美子
発行所: 財団法人 東京大学出版会


この記事は↓の論考に付した注です。本文中の(vi)より、ここへ繋がるようになっています。

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