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2022年9月 青森旅3

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 3時間以上かけて歩いた奥入瀬渓流をバスで30分程度で戻るという、余韻もへったくれもないことをし、向かった先は蔦(つた)温泉。このへん温泉が多いけれど、東北ではとっても有名な温泉ですね。で、山間の一軒しかない旅館、蔦温泉旅館へ。
 もう、鄙びた木造建築がたまりません。すっごく風情のある旅館です。奥入瀬歩きまくったことだし、今日はここで日帰り入浴をしてきます──の前に、もうひと歩き。蔦温泉の周辺に点在する六つの沼を巡ります。メインである蔦沼までは木道が整備されていて歩きやすく、鏡面のような沼面(なんて言葉は知らないけれど)にはうっとりとさせられました。そこから先の沼々(なんて言葉も聞いたことないけど)はちょっとした山歩きを楽しみたいというのならともかく、沼を見たいだけなら蔦沼でも充分だという感じがいたしました。というわけで、上ったり下りたりをしつつ、温泉の周辺をぐるりとして30分ちょいで旅館の前まで戻って──くるところで気づく。今日はアウトドアっぽいランニングウェアで済ませたけれど、明日はちょっと寒そうなところを歩く予定なので、服装どうしよう、パーカーの中に、今着てる上着を……で思い出す。今朝、リュックにパーカーを詰めた覚えがないぞ。そういや初日に部屋の襖みたいな扉の物入れ(よく浴衣の上に着る羽織が入ってるとこ)の中、ハンガーに吊したぞ、今朝はあそこ開けてないぞ。というわけで、動画を撮影しながらゾッとする。よもや、忘れたか、この大阿呆。
 録画を終え、蔦温泉旅館前でリュックを下ろし、中をあらためるが、ない。どうしようどうしよう思いつつも、昨日お世話になった南部屋さんに電話だ。スタッフの方に出ていただいて、部屋を見に行ってもらったら、ありやがりました。もう、ほんと内心自分をなじりつつも、着払いで良いので自宅に送っていただけないでしょうかとお願いをすれば、「今、どちらにいますか」とのこと。これは、と思いながら蔦温泉と答えるものの、やはり心苦しいので着払いをと繰り返しお願いすれば、蔦温泉なら近いので届けに来て下さるとのありがたいお申し出(着払いもお手間をかけることになりますし……)。20分くらいで、とのことなので恐縮して蔦温泉旅館前で待ちます。
(その間、自分の事前調査不足でまたも敷地内にある飲食店がお休みだったので、朝残したどら焼きを食べました)
 程なくして、宿の方の車が見え、頭を下げて、お詫びを述べて、お礼をお伝えし、パーカーを受け取る。昨日から重ね重ね本当に、ありがとうございました。お礼も兼ねて十和田をまた旅したときは、お邪魔します。
(実は電話で受けていただきときに今さら気づいたのだけれど、宿のお名前『南部屋』をずっと、みなみべやと読んでおりました……。なんぶや、です。南部藩。南部鉄器の南部ですね)

 そうしてようやく温泉です。今日は実に歩き回りました。お金を払い、今の時間は男性用の浴槽が二箇所あるとのことで、まずは時間で男女入れ替え制のほうの湯へ(温泉に向かうまでの廊下も、情緒たっぷりでたまらん)。脱衣所のカゴを見たところ、先客はなし。というわけで着替えるよりも早く、湯殿へのドアを開ければ、うわー、めっちゃ鄙びてて、だのに清潔で、とんでもなく雰囲気がある青森ヒバだかブナだかの湯。洗い場はなく、枠が嵌められた小さな浴槽、湯の出る井戸みたいなところがあり、そこに木桶とシャンプーとかのセットが1つ置かれている。つまりそれが洗い場代わり。そうしてどでかい湯船。陽が斜めに差し込んでは、湯から立ちのぼる煙をほのかに照らしていて──。たまらん。というわけで、蔦温泉をいただきました。こんな趣のある温泉、初めてかもしれん。あとは一度服を着込んでから男性用の大浴場にも行き、ほのぐらい浴槽でのんびりと温かさに浸かります。先ほどの湯もそうだったけれど、蔦温泉はときおりぷくりと下から泡が湧きます。実はここ、湯船の底が少し隙間の空いた板張りになっていて、そこから温泉が湧いているとのこと(つまり源泉掛け流しでなく、源泉湧き上がり)。だから湯の中に空気が含まれていたりすると、ときたま泡がぷくりとするわけです(これ、誰もが連想することだと思うけれど、湯船の中で体の下から泡が出てくるって、まさにあれだよね。雰囲気ぶち壊しになるから、明言しないけど)。
 というわけで、めっちゃよかったーです。正直言えば、お湯の感じは昨日の南部屋さんのほうが好みだけれど、蔦温泉はとにかく雰囲気が頗る良い。そんなこんなで普段着へと着替え、多幸感に包まれながら、湯上がり処のデッキチェアに身を預けます。目前は大きなガラス張りの窓で、何やら改装中だったけれど、木のぬくもりたっぷりの部屋で、もう外を見ながら安らげるというだけで(wifiが使えたのも良かった)。ただ、できたら窓が少しくらい開いてて、いくらか風通しがあったほうがさらに快適だったなぁとは思いました。

 さて、バスが来る15時までひたすらのんびりといたしました。ただやっぱりお腹は減ってきた、が、今日は夕食つきプランなのでまぁ何とかなるでしょうとバスに乗り込みます。蔦温泉、いずれ泊まりに来たいものです。
 広大なブナ林の中を、バスは行きます。ときおり再生される車内の観光案内に耳を傾けます。谷地温泉、猿倉温泉と温泉地が多い。そうして蔦温泉と同じくらい有名な、酸ヶ湯(すかゆ)温泉へ。ここ、駐車場も広く、売店もあって、登山客やらライダーやらかなり人が溢れていました。で、バスは10分ここでトイレ休憩をしますとのこと。そうして窓の外に見えた酸ヶ湯温泉旅館、の隣の「生姜味噌おでん」ののぼり。うぉぉ、貴重な食料だ。これで飢えをいくらか凌げる。というわけで、たくさんの登山客が乗り込むのを待って、財布を片手にダッシュで生姜味噌おでん。もちろんすぐに提供される。白こんにゃく、タケノコ、つみれに、生姜味噌。近くにあったテーブルで食らう。腹が減ってるってのもあるが、うまい。生姜味噌がいいお味。そうして容器をゴミ箱に捨て、さっさとバスに戻る。余裕の帰投でした。これでいくらか空腹を誤魔化すこともでき(昨日から似たようなことやってんな)、あとはのんびりと目的地までバスに揺られます。

 そうしてついた、八甲田ロープウェイ。アーネストヘミングウェイ。広い空を見上げれば、雲もどこかに流れ去り、空色の中に夕陽の色味が。午前中は曇りだったけれど、いい天気です。が、今日はもう疲れたのでロープウェイ駅すぐ近くの八甲田山荘という名のホテルにチェックイン。部屋で荷物整理をするも、パーカーはクローゼットの中に吊さずに椅子の上に置いておきました。もう二度とあんな思いは。で、しばらくベッドにて呆けます。かなり歩いた一日だった。旅先でくたびれて、宿のベッドに体を投げ出す瞬間て、なかなか幸せなものです。というかジンバルカメラの残りの容量がやばくなってきたので、一部のデータをスマホに移したりと、そんなことをやっていました──ら、鳴り出す部屋の電話。ご飯のお時間です。昼飯がどら焼き一つと味噌おでん一串なので、そりゃ待ってました。内容は、天麩羅や刺身、陶板焼き等、一般的な旅館の夕食といった感じで、きのこの入ったお蕎麦が美味しうございました。ご飯ももちろんお替わりします(酒は昨日飲んだし、別にいいやぁ)。たらふく食べて、ごちそうさま。というか外はもう暗く、ここは山の中。とくれば、外に出るしかありません。
 黒々澄んだ空気の中、天の瞬きがあちこちに。足下もろくに見えません。一歩ずつ確かめるようにホテルの階段を下りていきます。到着したときに見た感じを思い出し、ロープウェイの駐車場をぐるりとしてみる。ゆっくりゆっくりと、星の光がこぼれないように上を向いてそっと歩いて行きます。おや、あっちの暗がりに何かあると思えば、目が合う。天体観測中の方でした。というわけで、頬を冷え冷えさせて宿へと戻る。あとは風呂じゃと、地下の大浴場へ。今日のお客さんは少ないようで、貸切でした。というわけで、疲れを枕にしてぐっすりと寝ます。おやすみなさい。

3日目

 カーテン越しにもわかる快晴。目が覚めるほどの日本晴れです。7時半にリリリと電話がなり、食堂へ下りていけばパンの朝食。サラダにウインナー、スクランブルエッグ等々、うまうま。萩原牛乳なんていう初めてお目に掛かる牛乳も味わいました。何でも青森県産にこだわっているようで。というかパッケージがなかなか可愛い。そうして昨夜同様、ちょっと外を歩いてみれば、もうまっ青な。天気に相当恵まれております。何だかただ青いだけの写真を撮っちゃいます。
 部屋で少しのんびりしてから荷物をまとめ、忘れ物がないことを再三確認しチェックアウト。向かうはもちろん目前の八甲田ロープウェイ。あれ、というか朝は駐車場ほとんど空だったのに、今は結構車が駐まってらっしゃる。結構人気なのね。今、山頂から降りてきてるゴンドラの中にも割と人がいらっしゃる。とりあえず受付で往復切符を買い求め(2000円だから割といいお値段)、出発まで売店なんかを見て回ろうと思ったら、早速並ぶよう案内をされる。先頭。次の便の一番乗りでした。というわけで、時間とともにチェーンが開かれ、階段を上り、ロープウェイ乗り場のすぐ手前で待つことに。なんだかアトラクションじみてまいりました。下りのお客さんが降車したあと、乗り込み開始。切符を改札鋏にチョキンとされ、とりあえず先頭に座ってみた。ほどなくして発車。ちょうど全員が座れるくらいだったので、まだ10時なのになかなかの混雑。というか思ったより速い。そして高い。山を覆う樹木が果てなく続いております。少し前に御岳山をケーブルカーに乗らず歩いたけれど、あれの比じゃなくかなり遠くまで行きます。鉄塔を経由するとき、多分、ゴンドラ上部が滑車に触れ、その振動が伝わってきて少しビビる。いざ、山頂公園駅へ。

続→

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