見出し画像

2022年9月 青森旅2

←前

 そんなわけでアップルパイをリュックに入れて、宿までてくてく。今度はショートカットして、温泉街ではなく国道を行くが、基本歩道がないのに交通量は割とあるわで、かなり気を遣いつつ歩く(追い越しのため、対向車線からこちらへと飛び出してきた車があって、馬鹿野郎、と思う)。というか、だいぶ陽が傾いてきて、結構薄暗い。そして外灯もなし。孤独感と不安感がひたひた。これ日没後だったら、かなり危なかったなぁ……。完全に暗くなる前に宿に帰投。行きつ戻りつアップルパイの件もあり、結構歩きました。で、が、食べ物はあっても、食器がない。というわけで宿の方に、事情を説明し割り箸をいただくことに。そうしたら、少ししてから部屋のドアがノックされ、「時間が遅くなってもよかったら。簡単なものでもよければ」と、御夕飯のお誘い。まぁ、正直アップルパイたちが3つもあるので、腹は保ちそうな気がするが、いただけるのなら何ともありがたい。「ご迷惑にならないのであれば」と恐縮しつつ、お言葉に甘えることにする。
 というわけで、一時間強後に夕飯をいただけることに。それでも現状空腹状態ではあるので、包装の紙袋を左右に切り開いてお皿代わりにして、アップルパイで腹ごしらえ(割り箸で)。美味い。味だけじゃないんです。店員さんのお心遣いが、やっぱり沁みるのです。そうしてリンゴジュースとともに3つ平らげ、割とお腹いっぱいになる。これ、せっかくの夕飯が入るだろうか、と心配になるが、まだ時間はあるので今のうちに温泉に浸かることにする。で、ここの南部屋さんのお湯。とっても良かった。湯の花いっぱいだけれど、硫黄の匂いが濃いわ濃いわ。思い返せば、部屋にいる時点で少し匂っていました。カランが緑青にまみれているのは少し気になったが、まぁ温泉てそういうものだし。

 さて、湯から上がりほどなくして、夕餉というより晩餉のお時間です。テーブルについてみたら「あれ、この配膳の感じは、まるで旅館じゃないか」といった料理の数々。お刺身もあるし、山菜も、青森といえばのせんべい汁だって、それにバラ焼きまで出てきた! スタッフの方、オーナーに感謝しつつ、いただきますと手を合わせます。これが急ごしらえだなんて信じられん。というか美味い。そりゃ、ここに至る経緯を思えば美味いと感じるのは当然だろうが、バラ焼き(こっちは豚)なんて、昼に食べたものよりも確実に美味い。キャベツの焦げ具合がいい感じ。せんべい汁もその食感が程よく硬く、いい感じ。地酒、鳩正宗もいただく。名前を聞いて、なぜ鳩? と思ったが、酒蔵の神棚に鳩が舞い込んだのがその由来だとか(これは帰ってきてから調べた)。味の詳細はあまり覚えちゃいませんが、美味かったので残りは部屋に持ち込んで飲んでおりました。というか、これだけの量と質があって、追加代金はとってもお安かったです。アップルパイを食べたあとだったので、平らげることができるか不安だったけれど、特に苦しみを覚えることなく完食いたしました。本当、ごちそうさまでした。自分は多くの方に助けられております。

 さて、部屋に戻って。自分で敷いた二枚重ねの布団でのんびりしてから(何だか鼻がむずむずするから、少しアレルギー出てたね)、もう一度風呂へ。今度は別の浴槽へ(当日は男性客しかいなく、どっちも入れた)。いや、本当いいお湯。というわけでぽかぽか気分で就寝です。自分は佳き旅をしております。

2日目

 朝6時に起きて、昨日買っておいたイギリストーストを食らう。これはトースト2枚の合間にマーガリンを塗って、じゃりじゃりした砂糖をまぶしたという、イギリスではなく青森のご当地パン。コンビニでも売ってたし、スーパーでは特売してた。それに奥入瀬のむヨーグルト(うまかった)。十和田市の和菓子店のどら焼きも買っていたが、ちょっと腹が膨れたのでこれは残しておくことに。というわけで、アウトドアスタイルになって6:45に出発。朝食のご準備で忙しいだろうに、朝も早くからオーナーがお見送りに出て下さる。感謝。

 外はきりり、空はまぁ雨こそないが、やや曇り。でも、旅立ちとしては悪くありません。昨日の国道をてくてくと行きます。流石に朝は交通量も少なく明るくもあるので不安を覚えることなく、川の流れに目をやりつつ昨日の大橋まで。そうして今日は渡らず、その先の木製の吊り橋、出合い橋へ。出合え、出合え! そうしてジンバルカメラを取り出しては撮り出して(昨日「映え」を意識したのはこれがあったからでした。ここ最近、動画の再生数、登録者数が増えてきて、少しモチベーションがあがっとります)。
 誰もいない木道をとことこと歩き、やがて奥入瀬渓流へ。事前にそこまで調べることもなかったので何だかもっと清流っぽいのを想像していたのだけれど、結構濁ってらっしゃるし(この間の豪雨の影響?)相当な荒れ模様で。けれど、自然の中を行くのは楽しいものです。それと車道が割と近くを走っていて、煩わしく思ったこともあったけれど、それゆえの安心感もありました(鈴は鳴らさなかったけれど、やっぱ熊の目撃情報は気になるわけで)。渓流はそのところどころでは落ち着いていて、何度か立ち止まってあたりを見回すことも。もちろんその荒々しさに目を奪われることも。流れを覆う緑のトンネルにも、ときおり美しさを覚えておりました。
 8時半頃に石ヶ戸(いしげど)休憩所に到着(巨大な岩盤が斜めに落ちていて、その下には寝泊まりできるような空間があり、ここに住みついた女盗賊が通りかかった男どもを殺しまくったとか何とか)。あまり広くはないけれど、観光バスも立ち寄るような立派な休憩所です。軽食もあったけれど、まぁ腹はまだ保っているので、水だけ購入して歩き続けます。しかしこの辺りから、他の観光客が増えてまいりました。なるべく他の方の映り込みは避けたいので、このへんからはカメラが変な方向に向くことがちらほら。しかしどうしてかそこまで撮影を苦には思いませんでした。
 渓流歩き。まぁ、文字通り渓流沿いを歩くコースなので、割と似たような景色が続きます。きっと一人でただ歩いて立ち止まってを何時間も繰り返していたら、飽きが来るような気がしました。ジンバルカメラを持って歩くという行為は、撮影のあれこれを考えながら歩くことになるので、そういった飽きを紛らわしてくれたように思いました。もちろん、撮影しているからこその制限もあるから良いことばかりではないし、何よりそんなことしてて旅を楽しめるんか、という思いだってないわけではありません。けれど、このへんは以前に比べて撮影に慣れてきたこともあり、撮影当時のデメリットと、あとから動画で自分の旅の感覚を共有できる楽しさとのバランスが取れてきたように感じております。まぁ、いざとなりゃ録画を止めればいいのだし。
(道中、数十名のツアー客の渋滞につかまったときは、誰が悪いわけでもないけれど割とヤキモキしました。何とか声をかけて、一人また一人と前に行かせてもらいましたけれど)。

 と、そんな感じで、落差はさほどないけれど横にどでかい銚子大滝といった瀑布まで参りました(道中、縦に落ちる滝は川の左右にいくつかあり、結構な見応えでした)。どうして銚子なのかと思えば、十和田湖をお酒の銚子(とっくり)に見立てた場合、この滝が注ぎ口にあたることからと看板に書いてあって、そのときはなるほどと思ったけれど、よくよく考えれば、それなら銚子ではなく注ぎ大滝とか、そういうネーミングになるのでは、とこれを書きながら疑問に思う。まぁいいか。もうすぐ終点=十和田湖ということは伝わってくるので、脚にも力が入ります。
 そうして滝を越えれば、あとはもう川の流れ穏やか。これまでの荒々しさとは打ってかわり(阿修羅と名付けられた激流もありました)、平和な様相の水面が続いております。遠くに川を渡る橋のようなものが見え、階段があり、奥入瀬渓流終点と書かれた古い看板があり、交通量のない車道があり、その向こうが──十和田湖でした。橋の上から見下ろす、音のない湖面。右手には遊覧船が停泊しています。奥入瀬渓流の終わりは、何とも静かでした。タイムトライアルをしてるわけじゃないけれど、3時間ちょっとで歩き終えました。というか、山中湖みたいに騒々しい感じじゃなく(昔のイメージかも)、何もない感じのこの静けさが、疲れた体には嬉しいものです。近くのベンチに腰を落とし、ここに来てようやく体を見下ろせば、黄緑色の小さな木の実?草の実?が腹や脚にたくさんくっついている。一つ一つ、そっと剥がしていきます。お疲れさまでした。

 しばし湖畔のベンチで呆けます。抜けていく風すらも穏やかで、何だかずっとここにいたくなる。とはいえ慌ただしいものでバスの出発まであと20分。とりあえずバスの発着場を確認しておきます。そしたらチケットの発券機がお土産屋の中にあって「満員の場合は、次の時間の乗車を~」みたいなことが書かれていて、バスを一本逃すと数時間待ちぼうけなのでバス停から離れられなくなる。もうちょっと外連味のない十和田湖をながめて、ぼんやりしていたかったんだがなぁ。
 そんなこんなで待ったバスが来てみれば、まぁかなり余裕を持って座れる感じで。そりゃ平日だしそうだよなぁ、と。というわけで、早々に十和田湖に別れを告げ、奥入瀬渓流沿いの車道を逆戻り。あんだけ歩いて来たのに、味気ないなぁ、と思いつつも、次の目的地へと向かいます。時刻はまだ昼の11時。今日はまだ歩きます。

続→

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?