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2022年9月 青森旅1

初日

 朝5時半に起きる。すたこらさっさと地元の駅から大宮駅へ。はやぶさに乗る。買った駅弁は秋っぽいもので、特に地方色はなかったけれど、まぁ美味かった。そんなこんなで二時間半くらいで八戸駅に到着。少しひんやりを感じつつも、西口を出ればかっちょいい箱形の黒っぽい大きな建物が。建物の壁面をデジタル文字が走っている。なんだあれ、と思いつつも(フラット八戸という、新しくできたアリーナのようで)、バスに乗り、十和田市へと移動。刈り入れ直前だろうか。田んぼでは陽を浴びている黄金色の稲穂が頭を垂れている。空気が涼やかで、空も高く、いやはや遠くへきたもんだ。自然とわくわく。
 そうして十和田市で降車。美術館前。いきなり巨大お化けのお出迎え。美術館に隣接っぽくもないのに、アート作品が平然と置かれていることに驚きを覚えるとともに嬉しくなる。とりあえず銀色の何かが中を覗き込んでいるトイレで用をすませ、まずは芝生広場をぐるり。草間彌生さんの水玉作品の向こうに街並み。すごいぞこれは。まずはお馴染みのかぼちゃの中に入り込む。中は、カラフルな光が点々と(瀬戸内海の直島にもあるけれど、直島のは内部が光っていなかったはず)。その他、子供やら動物やらにも水玉。この水玉は異物感の顕れだろうか、なんてことを思う。というか、同じ芝生で保育園でお散歩中の子供たちがお化けに見下ろされながら遊んでいる。もう子供たちにとっては当たり前の光景なのか、あまりアート作品には見向きしないで走り回っている(外部に置かれているとはいえ、基本は座ったり触れたりはしないよう注意書きがある)。アートが当たり前にある十和田。いいなぁ。
 そうして屋根を除く家の外壁がぶくぶくと肥え太ったファットハウス内部へ。中ではその家自体が英語で喋る映像作品が流れていて「私は家? それともアート? 建築はアート?」みたいな自問が繰り返されていて、ただそれを聞く。何言うてんの。

 さて、ようやく道の向こうの美術館に行こうと思ったが、何だか既にお腹が減っている。時刻は11時前。うーむ、朝が少なすぎたか。腹減りでは、アートにも集中できないしということで、早いがお昼にすることに。あらかじめチェックしていた十和田バラ焼きの店が開くのが11時なので、それまで観光物産館やコンビニでお菓子なんかを買って時間をつぶす(青森でも電子マネーのsuicaという単語が通じるのかどうか分からず、お会計時の「suicaで」が小声になり聞き返される。JR東日本エリアなのだから、筆頭交通系ICと言えばsuicaのようで。しかしこの問題、割と別のJRエリア行ったとき困るんだよね)。そうして屋台風のバラ焼きのお店に入店。豚肉と牛肉から選べたので、牛で。玉葱と一緒に自分で焼きます。うん。美味しいが、何だか牛丼に似ているなぁ。

 そうしてようやく十和田市現代美術館へと。リンゴやら花の馬やら、機械的な赤い巨大蟻を眺め、奈良美智さんの女の子が描かれた壁画を仰ぎ見る。外からでも充分楽しめるが、いよいよ入館。チケットを求め、大きなリュックをロッカーに預け身軽になって展示室へ。いきなり現れたるは、まぁ有名な作品だけれど超リアルな巨大な中年女性の像。相手が作り物であることはそのスケール感から見て取れるけれど、あまりにも精緻なので自然と相手の人となりやら背景を想像してしまいます。というか普段ここまで人間を凝視することってないから、それだけで特殊な体験。
 以前、別の日記でも述べた通り、思考することこそが自分はアートだと思っているので、もうあれこれ思ったり考えたりするだけで楽しい。この赤い糸は血の繋がりだろうか、ディヴィッド・リンチっぽいな、気味が悪いけれどそれが生命なんだろう、解説を読んで「それはちょっと無理がない?」とか。天井の穴に頭を突っ込んだら小さな沼地の水面に出る、という作品は、何度出たり入ったりしても、思考がギョッとして楽しい。ただ、自分なりの解釈なり楽しみ方を見つけられた作品もあれば、まるきり分からんという作品もあれば。一つ浅はかだったのは、天井から斜めに鏡が配置された作品。実際にはオブジェのある床に寝転がっているだけでも、鏡による錯覚で建物の壁面にへばりついているように見える。「これ、アートというより、トリックアートじゃ?」と思ったが、あとから解説を読んでみて、「見る/見られるといった相互関係~」みたいなことが書かれていて、あぁなるほどとなる(まぁ、そこまで理解してるわけじゃないけれど)。
 基本、視覚的に楽しい現代アートが多かったように思います。写真撮影OKなのも良いです。もうみなさんよく撮影されていました(自分が撮影をお願いされたり)。十和田市現代美術館は、アートにあまり興味のない人でもきちんと楽しめる美術館のように感じました。そうしてリュックを取り出し美術館をあとにして、付近をぐるぐる彷徨って、サテライト会場であるSPACEへ(目、さんが造った建物を四角にくり貫いたギャラリーです。要はそのへんの建物を横から天津飯が気功砲で四角くくり貫いたとでも思ってください)。中では映像作品が公開されていたが、難解というよりも音声と映像が二つ流れていて何だか集中できず、どういうことだろうと解説を読むも、文章と音声がバッティングしてこれまた集中して読み取ることができずといった感じで、よく分からないままその展示をあとにしてしまう。映像作品て、どこがスタートなのかも分かりづらく、自分にはちょっと難しいなと感じるばかりです。
 その後、少し歩いて地元のスーパーへ。節電中なのか店内は暗く、明日の朝食にと青森のご当地パンを買い求めました(コンビニよりこっちのが安かった……。そしてセルフレジでsuicaが使えず慌てました)。というか、知らないスーパーの商品陳列を見ていると、全然知らない場所に来たなぁ、という感覚に襲われます。

 で、ちょっと歩き疲れました。ので、美術館前の通りのベンチでトンボと一緒に休みました。そもそも昨夜遅くまで荷造りをしていたので、少し寝不足気味です。その後バス停前に移動し、家族連れが水玉広場で遊んでいるのを眺めつつ、リュックを枕にベンチでうとうととします。ほんと、アートが行き交う人に馴染んでいて良い街です。アートで町興しは割とあるけれど、ここまで自然な感じになっているケースってあまりないのではとも思います。
 そうこうしているうちに予定のバスが。さようなら十和田。またいつか訪ねたいものです。

 さて、道を西へ。学生さんが通学に使っているバスでもあったようだけれど、途中から乗客は自分一人に。相変わらず田には稲のあたたかな光が波打っています。そうして下車したるは、奥入瀬渓流温泉。まずは橋を渡って、温泉民宿南部屋さんにチェックイン。部屋に荷物を預け、しばし部屋で休んでから温泉街を散策に。といっても、特に見るようなものはなく、温泉宿がいくつかあるくらいで、ただ見慣れない景色を新鮮な心地で眺めるばかりでした。というか、実は今日のお泊まりは素泊まりのため(食事付きプランは完売でした)、この温泉街で夕食を確保しなくてはなりません。事前の調べでは営業してる店は二店。一店は平日夜は営業してないとのことで、その通りであることを確認してから、もう一店へと向かいます。あちこちをやたらとトンボが飛んでます。そして人をあまり見かけません。で、近くなってきたもう一店の飲食店は民宿兼食堂。「本日の営業は終了しました」の札は掛かっているものの、その奥には「営業時間17:00~」の表記が。今はまだ16時半。これなら大丈夫だろうということで、大きな川に架かる橋へ。川にの中に流木が散乱しているのは、少し前の豪雨の名残だろうか。そうして川を渡りリッチな感じの星野リゾートを眺め、その先にある渓流館へと。奥入瀬渓流歩きの観光案内所みたいなところです。えぇ、明日の朝歩くつもりなので、事前に情報を仕入れておこうかと(早朝は開館してない)。というわけでカウンターで地図をもらい、山歩きの際に毎度気になっている熊鈴についてご質問。奥入瀬ではつけてる人はいますか? と。熊の目撃情報はあるものの、ほとんどの人はつけてないとのこと。まぁ一応熊鈴は持って来たけれど、渓流のすぐそばに車道も通ってるし、あまり必要がなさそうな感じ。お礼を言いカウンターをあとにして、壁面に飾られた大きな地図に見入る。基本、奥入瀬渓流と言えば、この渓流館のある焼山という地がスタート地点になるのだけれど、この少し北には川を渡る出合い橋という大きな木製の歩道橋があるようで。うむ、元々の予定では今いる渓流館あたりから歩こうかと思ってたが、撮影するならそっちのが「映え」そうだし、明朝はそっちから行ってみようか。館内にはカフェの併設されたお洒落なリンゴ専門店もあり、ここでは明日の朝食時に食べる奥入瀬ヨーグルトと、青森リンゴジュース、そして明日のための奥入瀬の天然水を購入。さぁ、もうすぐ17時。というわけで先程の食堂まで10分くらいかけて戻ると、17時過ぎてるのに変わらないままの店先。あれ、まさか、これは。ノックもして、目の前から電話をしても、うんともすんとも言わず。民宿の食堂なのだから、毎日営業しているかと思っていたが、今日は民宿自体も休みか? ていうか、ここが閉まってたら夕ご飯食べられないじゃん! 念のためと思い、休みであることは確認してきたが、もう一つの食堂に電話するもコール音のみ。これは、万事休すだ。明日の朝食用のパンはあるから、何とかなるが、何とかなりはするが……それだと朝飯抜きで行くことになる。ならば──と、先程のリンゴ専門店に走る。あそこには、アップルパイがあった。閉店時間は17:30。走れ、アップルパイ。まぁ、17:20くらいに着く。わずか三十分で二度の来店(先程とは違う店員さんだったので、気まずい思いはせず)。飲食はもう店仕舞いなのでできず、テイクアウトのみとのこと。というわけで、小さな子供の拳くらいの大きさのアップルパイと、クランブルという初めて目にする言葉の菓子を購入。これと十和田市で買ってきた菓子やらパンがあれば、何とかなるだろうと、少し安心。ていうか夕食がアップルパイって。というわけで店員さんとこの可笑しさを分かち合いたく、これまでのいきさつを軽く説明し、「夕飯にアップルパイを買い求める客なんて初めてでしょうね」なんてことを言う。そしたら微笑みながら、(今のご時世色々と面倒なので詳細は書かないけれど)サービスをしていただいた。口をついで出たのは「あら、嬉しい」。何だか本当にそう思ってなさそうな反応っぽく読めるかもだけれど、いや、本当嬉しかった。やっぱ旅って、人と話してナンボです(コロナ前はよくやっていた、地元の酒場で気炎揚げ、なんてのはいつできんだろう)。

続→

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