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2022年4月 浜通り旅3

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 小学校を出て、さらに北へ。請戸漁港へ。新しい設備の漁港です。確か5年前には漁港が再開したことが話題になっていました。ただ、観光客向けの漁港ではないので、特に何かをするでもなく、大人しく通り過ぎます。
 川にぶつかり西へと堤防の上を進みます。が、堤防の上ということもあって横風がもの凄く強い。斜め前に歩こうとして、丁度まっすぐ進めるみたいな強風に、少しビビる。が、その後も堤防の上を行き、内陸部へ、浪江町の市街地へ。
「ゴミの収集方法が震災前に戻りました」というようなステッカーが、ゴミ出し場に貼られている。車通りも多く、歩行者も見かける。確実に人々の生活がこの土地に息づいているといった印象を受ける。5年前に浪江町を旅したときは、結構静かだったように思うのに、イオンもできて、何だか以前とはだいぶ変わってきた感があります。ただ、以前も立ち寄った仮設商店街の「まちなみまるしぇ」は、タイミングの問題かもしれないけれど、どこかひっそりとしていました。
 その代わり、ではないかもしれないけれど、近くに新しくできた「道の駅なみえ」には、かなりの人が集まっていました。入口をくぐるとゆるキャラの「うけどん」がお出迎え。個人的にはかなりかわいいと思う(今気づいたが、請戸だから、うけどんか)。物産店の品数も豊富。パン屋には「なみえ焼きそばパン」なんてのも売っていやがる。酒蔵が開設した飲食店もあるし(結構繁盛しているっぽかった)、目を引いたのは、無印良品があったこと。すっごく充実した道の駅だなぁ。
 が、列車の時間がかなり迫っているので、そこそこに駅へと向かいます。次来るときは、もっとゆっくりしよう、ご飯も食べよう、てなことを思いつつ、急ぎ足で浪江町を歩いて行く。

 浪江駅は、役場や道の駅から少し離れた位置にあり、5年前は駅前から延びる通りには「解体予定」というシールを貼られた家屋が多かったように記憶している。今回また通ってみて同じシールは見当たらなかった、ということは解体されたということだろうか。
 浪江駅舎に入る。5年前は、駅舎の中にパンの自動販売機が出来たということを町の人から聞いた記憶がある。しかし今回、その自動販売機はなかった。町に商店が増え、需要が減ったのだろうか。
 というか列車出発5分前に駅に到着。あぶねえ。ここからは浜通りを電車で南に下ってまいります。空いた車内の海側のボックス席を一人で使い、隣にリュックを置き、車窓を眺める。初日に降りた双葉駅を過ぎて少しすると、木々の向こうに、いくつもの赤白のクレーンがその頭をのぞかせていた。あぁ、多分、あの場所で今も。地図を開けば、やはりその方角と、位置。その場所に立つのは、まずはこの地に生きてきた人々だとは思うけれど、自分が生きているあいだに、あの場所に立てる日は来るんだろうかと、思う。

 12時半頃、夜ノ森駅に到着。よのもり。ここもsuicaタッチだけの無人駅。というか座っていた時間がある分、歩きの疲れがどっと出る。しかし今日はまだ歩きます。と、駅前の放射線量を測るモニタリングポストの数値が、これまで見かけてきたものの倍近くある。まぁ、安全の範囲内ではあるんだろうけれど、やはり他の地域より高いというのは少し気に掛かるものです。ていうか腹減った。

 夜ノ森駅前から延びる通りを歩く。おそらく鳥獣の被害だろう、荒れた家が多い。猪なんかが窓ガラスを破って、屋内に入り込むことがあるのだと5年前も聞いた覚えがある。ただ少し行くと、真新しい住居に、きれいな車が停まっていたりする。
 桜並木。旅の少し前にニュースでも流れていたけれど、夜ノ森は桜のトンネルが有名で、桜祭りでは出店が出て観光客で賑わうのだとか。ただ、自分が歩いた頃はもう葉桜で、測量だか工事だかの仕事をしている人は見かけたけれど、静まり返っていました。道路を左右から覆う、桜の葉。アスファルトにはやや萎びた花びらが。一人、てくてくと歩いて行きます。

 並木道を抜け、田畑の合間を抜ける道を歩いて行く。そうしてぽつと顔に。雨。空の色は鈍い。まだまだ弱いが、予報より少し早い。というかご飯食べたい。
 少し行くと、原子力の国際研究機関の建物があったりする。そうして富岡町の役場。車がたくさん停まっている。道を下っていくと、国道6号が近いからか交通量が多い。もうすぐチェックしておいたお店にたどり着く……が、その手前で「川俣シャモ」ののぼりがはためいている。ラーメン定食屋、という感じのお店。店先まで行くと、唐揚げ定食の文字。ああ。字面だけで口ん中が、唐揚げになりました。予定変更。川俣シャモだ!
 で、唐揚げ定食。見た目はボリュームたっぷりで、多分川俣シャモを使っているとは思うのだけれど、一口で分かるニンニク利きすぎ感。肉質は柔らかくてジューシーで美味しいのに、自分には味付けが少し残念な感じでした。まぁ、でも満腹です。ごちそうさまでした。

 そうして国道6号を南下し、小雨の中たどり着いたのは「東京電力廃炉資料館」。東京電力が運営している資料館です。今日は東京電力の側から、廃炉の現状を学んでいきます。ただ、廃炉、という言葉とは裏腹に、何だか洋風な外観の建築。とはいえ一歩踏み入れると、黒を基調としたシンプルなデザインの内装。受付で名前を告げ、予約時間まで少し間があったので(コロナ対策で予約者のみの見学になっている)、ロッカーに旅の荷物を預け、福島の木々がふんだんに使われた明るいスペースで少し待たせてもらう。浜通りの簡単な観光案内やら、日常的に受けている放射線量のグラフなんかが飾られている。それを見れば、先程の夜ノ森駅で見た数値よりも、飛行機に乗ったり、一部の他国にいることのほうが浴びる放射線は多いのだと、思い出す(5年前も少し勉強はして旅したのです)。

 ほどなくして係の方が、お見えになる。この時間は自分一人。まずは福島県だけでなく、社会全体に迷惑をかけたお詫びから入られて恐縮する。原発がどういうものかもよく知らなかったし、その電力が福島県で使われることはなく首都圏に送られているという状況だって、まるで知らなかった。とはいえ、そのシステムを自分が享受していたことは事実なので、一概に東京電力ばかりを責められない、という感覚を抱いている。ので、東京電力の社員というだけで頭を下げられると、困ってしまう。こちらも少し頭を下げる。

 そうして展示内容とギャップのある資料館の外観についてのお話があった。何でも元々この館は、地域の人々に原発を知ってもらうための場所で、電力といえばのエジソンの家をモチーフにしているのだとか。なるほど(テスラは?)。
 次いで二階に案内をされ、映画館のような何十席もあるシアタールームへ。自分一人なので、思わず「貸切ですか」と苦笑い。明かりを落とされ、語られるのは反省と、震災のあらまし、その被害。一貫して重いトーンで映像は進行していました。
 明かりがつき、次は原子炉の仕組みについての解説へ移動する。燃料棒の模型。ペレットと呼ばれる、磁石っぽい見た目の少し大きな錠剤くらいなウラン燃料。これが細長い鉄の筒にたくさん詰め込まれている。それらが溶融して、冷え固まったものが燃料デブリと呼ばれ、現在格納容器の底に貯まっていて、今も取り出せずに、大量の放射線を発しているという現状(認識に誤りがあったらごめんなさい)。

 続いて、各号機の状況について説明を受け、原子炉の構造についての映像も見て(基本、映像の前には椅子があるので、疲れた体には嬉しかった)、コロナのため見学時間に限りがあるので、ということで次に見る映像を自分が選ぶことに。福島第二原発についてのものか、震災当時の制御室の再現映像か、東京電力の反省と教訓についての映像か。正直、制御室の映像が一番気になった。けれど、対策本部のやりとりは確か全編動画が上げられていたはず、と思い直し、ここだけで見られる映像という意味合いが一番強そうな「反省と教訓」を選ぶ。が、思い違いをしていた。ネットで見られるのは対策本部のやりとりで、管制室ではなかった……。まぁでも廃炉資料館なのだから、「反省と教訓」こそが一番その意に適っているのかなぁと。映像そのものは、東電自身がではあるが、その体質を厳しく批判し、そこからの改善について語られていたように記憶している。

 再び一階に戻る。ここからはややトーンが異なり、壁も白などの明るい色になり、廃炉作業の現状について語られる。使われているロボット、処理水についてと、その海洋放出と風評被害への対策、各号機の進行状況、防護服の変化、労働環境の改善等々。最後に四角いモニタールームで、原発の空撮映像を見る。やはり電車から見たクレーンの見えた場所が、そうだった。

 廃炉にはあと3、40年かかると言われている。廃炉の最重要課題だと思われる格納容器の底に溶け落ちた燃料デブリの取り出しだって、まだ見通しが立っていない。本当、自分が生きている間に、あの場所がまっさらになるんだろうか。

 最後にいくつか資料をいただいて、ありがとうございましたと礼をお伝えする。何だかいろんな資料館を巡るたびにそれしか言っていないような気がするけれど、本当に来て良かったと思える場所でした。願わくば、コロナ対策で見学に制限がかけられていて、見られなかった展示も結構あったので、次は自由に見て回れる状況のときに伺いたいと思います。

 さて、ガラスの自動ドアの向こうを見る。雨である。ざーざー言ってる。傘はない。館内のスタッフさんにバス停の位置も聞いたが、目的の富岡駅までは1.1km。約10分で歩ける距離。そのあとはホテルに行くだけだから、少しくらい濡れても……と、防水も兼ねているジャケットを一旦脱いで、リュックを背負い込み、その上からジャケットを羽織る。フードもかぶる。前はぱんぱんで閉じられない。えいままよ。わざくれ!

 雨ん中、行くぞ!

続→


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