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2022年4月 浜通り旅4

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 雨の中の行軍。こちとら暴風雨の中、東国三社巡りもしとるんだ。この程度の雨なら、というわけで脚は濡れたもの難なく富岡駅に到着。駅隣の観光案内所で今夜のおつまみにと、清酒漬けイカソーメンを購入。ただ、列車の到着まで20分ほど、濡れた冷えたの足先で待合室にて待ちます。外を見れば、結構ざあざあと降ってきている。さっきよりも強くなっている。今日の宿泊、最寄り駅からのホテルまでの道のりを調べれば、700mほど。送迎はなし。アーケードが整備されているわけでもなし。雨ざらしでホテルに向かうしかないのか……。
 そんなこんなで常磐線に乗り込み、17時過ぎ、少し南のJヴィレッジ駅へ。5年前に旅したとき、この駅はまだありませんでした。2019年に開設の駅とのこと。が、着いてみたら屋根のない雨ざらしのホーム……。まじか……。というか、何だかホームが細いし、階段状になっている? こんな構造のホームを初めて見ました。じっくりと見たい気もするが、雨に打たれるだけなので、キャプテン翼の描かれた階段を──行かず、できるだけ雨をしのげるエレベーターで地上へ。ちょっとした丘の上に改札があり、丘の下にホームがあるといった感じの駅です。さすがに改札は屋根があった。しばし地図を眺めて、頭に向かうべき場所を叩き込む。というわけであとはダッシュでホテルまで。

 ホテル名が駅名にもなっていて、すぐそこにJヴィレッジはありました。が、ここはサッカーのナショナルトレーニングセンター。広大な敷地にいくつものフィールドが広がっています。つまりフロントまでは距離があります。整備された歩道をとことこと走っていけば、雨の向こうにガラス張りのキレイな建物が。今日はあそこに泊まるんだ、というだけでテンションが上がってまいります。
 そうしてホテルの裏玄関みたいなところから館内へ。温かな光。ぴかぴかの床面。解放感のあるフロント。息切れ。思ったよりは濡れなかったが、まぁとにかく部屋で休みたい、風呂に入りたいと、そそくさチェックイン。というか宿帳にあらかじめ自分の住所が印字されていたことに感動を覚える(ネット予約で事前に記入してるのに、宿帳に再度書かせるホテルって多いよね……)。一通りの説明を受け、一点気になっていたことをお尋ね。雨で服が濡れちまったので……「食事会場にナイトウェアは駄目でしょうか?」と。不可、とのこと。まぁ仕方がない。何とか乾くだろうか。あるいはランニングウェアで行くか。サッカーのトレーニングセンターなんだから、アリか。

 はてさてきれいなお部屋。早速濡れた衣服から解放され、とりあえずナイトウェアを着込む。暖房を入れる。窓からは雨に濡れるフィールドや、陸上のトラックが少し見える。
 Jヴィレッジ。日本サッカーの聖地とも呼ばれている場所。自分はサッカーにはあまり明るくないが、日本代表もよくここで練習しているようで(館内にもサイン入りユニフォームやら足型やらがたくさん飾られています)。神様の宿るピッチと、その芝のコンディションを称賛されていたこともあったとのこと。しかし2011年、その姿は一変しました。広大な敷地が着目され、Jヴィレッジは原発事故の対応拠点となりました。そのピッチは作業員の駐車場となり、館内にはたくさんの物資が搬入され、全身を白い作業着で包んだ人々が行き交っていました。やがて原発敷地内の線量が除染により低下してきたことで、対応拠点はそちらに移され、Jヴィレッジはサッカーのトレーニングセンターとしての復活を果たした、という経緯があります(館内の壁面にも、Jヴィレッジの歴史として、そのことが描かれています)。
 風呂に入る。一般的には夕食の時間なので、貸切です。一人で温かな大浴場に浸かり、脚を伸ばして寛ぎまくります。外気を取り入れた程度だけれど、露天風呂だってあります。やっぱ旅先では、広い風呂だなぁ。雨に打たれたこともあって、風呂の温かさ広さが嬉しくてたまりません。そうして遅めの夕食です。靴の先だけが少し濡れていたけれど、他は大旨乾いている。ので、ランニングウェア晩飯は回避。
 で、もう、ほんと、ここの料理が良かった。めっちゃ美味かった。天麩羅、刺身、海鮮鍋に、テリーヌ。ただ品数を並べましたってだけじゃなく、どれもこれも良いお味。特に海鮮鍋の味噌のまろやかさといったら。はぁ、たまりません。水と茶しか飲まない客にも関わらず、コップが空になった時点で来て下さる等、店員さんの心遣いも嬉しかったです。

 そして酒です。基本、白米に酒は合わないと思っている人間なので、部屋で一杯やります。というかコロナということもあるので、そういうプランに申し込んでました。そんなわけでチェックイン時に、福島の地酒のカップ酒を2ついただいてました(3種類から選べたが、どれも会津産でした。浜通りの酒が飲めたら良かったんだけどなぁ)。それを見越して富岡駅で買ったイカソーメン。以前、会津田島で呑んだ国権をちびりながら、やります。うまうまです。テレビはうるさいと思えてしまうので、タブレットで漫画を読みながら過ごしました。というか疲れたので、もう寝ましょう。おやすみなさいませ、Jヴィレッジ。

 最終日
 
朝六時過ぎに起きる。そうして以下の通りです。

 このあと、もちろん大浴場に直行し(朝食の時間なので、これまた貸切)、存分に身体をほぐしました。まっ青な空と青々とした芝のフィールドを眺められるのも良いです。
 さて、さっぱりとしたところで朝食です。夕べがとっても良かったので、期待してしまいます。そしてもちろん、美味かった。メニューとしてはホテルの和定食で特にこれはという逸品があったわけではないけれど、どれもこれも安心のできるお味でした。煮物も出汁がしっかり利いててやさしい味。味噌汁もお替わりができるということだったのでしてみたら、具材が少し変わっていたのにはたまげました(細かな具材忘れたが、一般的な味噌汁からあら汁っぽいのに変わっていました)。そうして食後にコーヒー。広々とした窓から、外を眺めます。目に鮮やかな芝生のピッチに、雲のない空。向こうには火力発電所の白い煙突が、すっと聳えています。ここが原発事故の対応拠点だったなんて信じられないくらい、穏やかな時間が流れています。奇跡みたいだなぁと、レストランから外をぼんやり見つめていました。

 部屋に戻る前に、館内に神社があるということで参拝してみることに。フロントで尋ねると、そこのエレベーターでホテルの4階に、とのこと。よもやこの旅初めての神社が屋内型の社とは、と若干軽んじた態度で、エレベーターを降りると、鳥居のない、こじんまりとした木製のお社が。近くでJヴィレッジ復活までの軌跡を語る映像が流れている。蹴球(サッカー)神社。由緒書きを読めば、震災前からある神社で、当時は自然と従業員の皆さんの心の拠り所になったのだとか。今ではJヴィレッジの経緯もあって、復活の神様と信仰されている、と。読んでいて、確かにと頷く。エレベーターを降りたときの心境とは異なり、しっかりと手を合わせます。すると隣の縦長モニターにおみくじが映し出されました。末吉。何だかなぁ、と苦笑しつつも、無料のおみくじって良いなぁ、とも思いました。

 さて、チェックアウト。今日は特に予定がありません。帰るだけです。ただ列車の時間まで間があるので、ホテルにぱんぱんの重い荷物を預けて、散歩に出かけます。まずはJヴィレッジを出て北へ歩を進めると、こんもりとした林の中に階段が続いている。何だろうと立ち寄れば、他人様の墓地で。失礼しましたと引き返す。というかあれだ、このへんは5年前に歩いた場所だなぁ、と出羽神社前の交差点で気づく。当然参拝。5年前は鳥居の真ん中の横棒が外れていたけれど……、と草地の中の階段を上っていくと、石の鳥居はΠみたいな形のままで。すぐ近くに3つに割れた中棒がまとめて置かれていました。ただ、社殿は以前も今も変わらずにきれいに保たれているようでした。
 そうして近くの道の駅ならはへ。ここも歩いて来たことがある。5年前はトイレだけが開いていて、他すべては休業中でした。今はもちろん開いている。温泉施設もあるようで。ジェラートのお店もあり、そういえば以前立ち寄ったときにガラス向こうのジェラートの看板を見て、食べたいなぁ、と思ったことがあったなぁ。というわけで5年越しの願いを果たす。バニラと耳慣れないベリー味をダブルで注文。ベンチで少しひんやりした風を浴びながら、ぱくつく。美味です。ただ、少し冷えちゃいました。

 その後、国道6号を特に何の目的もなく南下する。13時前の列車だが、お昼はどこで食べようかしらん。そういやこのへんは朝走った場所だなぁ。ほどなくして二ツ沼総合公園へ。坂を下って、池のほとりに佇んで、思い出す。来たことあるなぁ。以前は、一つ向こうの広野駅から歩いてきて、夏だったから結構暑かった記憶がある。そのときのJヴィレッジは原発事故対応拠点の役目は終えたものの、本来の役割を取り戻すため復旧作業中で立入はできなかった。
 公園内のレストランで……とも考えたけれど、夕飯朝食をいただいたホテルのレストラン「アルパインローズ」のランチメニューをスマホで調べると、福島県産の文字が。せっかく旅しているなら、というか確実に美味かったし、というわけでホテルに戻る。で、福島県産豚肉のしょうが焼きを注文。電車の時間が少し迫っていたから、ぱぱっと食べようと考えていたが、運ばれてくればナイフで切り分ける肉厚生姜焼き。こんな豪勢な生姜焼きは初めてだよ。もちろん美味い。しかしこのレストラン、近隣の皆さんもよく来るようで、お茶している姿がちらほら。ほんと、過去のことを思えば、信じられないほど穏やかで。あぁ、いいホテルだったなぁ。

 しょうが焼きを食べ終え、預けていた荷物を背負い、Jヴィレッジをあとにする。とってもリラックスできました。いつかまた泊まりに来たいな。スポーツジムやらプールもあるみたいだし、そのときは運動三昧でも良いかも。
 そんなわけでJヴィレッジ駅へ。丘、というより、崖の下に見下ろすホーム。発車5分前に着いたけれど、朝にあった地震の影響で少し遅れていました。いわき駅で接続待ちの特急ひたちに小走りで乗り換え、車両は自分しかいなく貸切。少し早いけれど、今回はのんびりゆったり帰ります。
 浜通り。きっとまた来ることでしょう。時間の都合で行けなかった資料館もあったし、廃炉資料館の展示ももっと見て回りたいし、南相馬の菓詩工房わたなべさんにも行きたいし、食も酒も、まだまだ楽しみたいものです。
 というわけでまたその日まで。それでは。 


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