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さよなら小説工房わたなべ旅1(てづバ大阪旅日記)

初日

 早朝4時半起床。キャリーケースをころころ言わせ、品川駅へと向かう。当然眠い。東京駅ではなく品川駅発なのは、そちらのほうが大阪への到着がわずかに早いから。えぇ、今回、搬入にものすごく余裕のない到着となります(最も早い時間の新幹線です)。けれどまぁ、品川の駅弁でもある貝づくしを食らい、珍しく山容をくっきりと披露している冨士を窓の向こうに眺め、旅を楽しみつつ一路大阪へ。
 新大阪駅、本町、コスモスクエア、とすいすい乗り換え港湾方面へ向かい9時過ぎに中ふ頭駅へ。イベント「アート&てづくりバザール(通称てづバ)」は10時スタートなので、もはや同業者の姿は見当たらず。が、まぁ会場は駅から直結らしいので……と余裕をかましていたら、駅の窓の向こう、遠くに見える会場。どゆこと、と思いつつもキャリーケースを急き立てます(どうやら、連絡通路があるという表記を自分が直結と勘違いしていたようで)。ほどなくしてATCホール、という名の会場に到着。が、どこからそのホールに入るのだろうと、人の見当たらぬ建物内を余裕を失いつつあちらこちと。ようやくお客さんの列を見つけ近くのスタッフさんに、出展者はどこから? と問えば、今確認してきますと予想外の答え。少し待ってから、奥のエレベーターで上がって下さいと案内を受けて奥へ向かったものの、上がるとは何階だろうと、エレベーターのボタンに迷う。試しに2階を押せば、無機質などこかの通路。イベントの様相がかけらもなし。何だこれ、1階に戻って確認するか、いやでもホール自体は地下なんだから……と、続いてB1を押せば、似たようなのっぺり通路。が、すぐそこの鉄扉の向こうから賑わいが。この向こうがイベント会場か、とそっとドアを開ければ、設営中の皆々様。ここだ。もはや正規の搬入ルートではないが、開場30分ほど前にして、ようやく辿り着く。その後は、落ち着け落ち着け言い聞かせながら、せっせと設営。何とか時間に間に合う。

 で、過去の来場者数から、申し込んだ時点でこれは結構な赤字になるかもと予想はしていました。が、まぁ最後だし喜んでくれる方がいるならそれでいいや、とも思っていました。したら、思いのほか買って下さる方がいて、(いきなり結果を書きますが)楽しい二日間を過ごすことができました。ある程度の売上げが確保できている、という前提も大いにあるだろうけれど、やっぱりお客さんと話している時間が──特に今回から持ち込んだアート作品について話しているときが、とても楽しい。
 客観。トップの画像の奥にも映ってますが、販売するのではなく展示するための作品を今回飾っておりました。額の前にいくつかペンを置き、「『客観』あるいはそれに類する言葉を書いてください」と記していました。こちらからお願いすることもあれば、お客さんのほうからペンを手に取ることもあれば(お願いを忘れることもちらほら)。この作品、この説明だけではすごくわかりづらいけれど、明確な意味を込めて展示していました。お客さんにも考えてもらいつつ、もちろんその意味を説明いたしました。ここで種明かしするのは簡単だけれど、以前の名古屋旅日記で書いたように、考えることそのものがアートだと思っているので、ここでは書きません(このページの下部に、色んなお客さんが書いた沢山の「客観」の写真を載せておきます)。ただびっくりしたのは、介護の現場で多くの「客観」に接せられてきた方は、こちらが説明をする前からその意図を汲み取っていました。そのときはすごいと感嘆するばかりでしたが、今になって思えば、想像するよりもかなり大変な仕事なのだろうと感じております。

 さて、販売の話はこの程度にして、メインである旅のほうを綴りたいと思います。先述の通り、思いのほかの売り上げで気分が良かったので、初日の夜からわくらくしておりました。商売道具は会場に預けっぱなので、足取り軽く、大阪の街──ホテルのある大国町へと繰り出します。とはいえ、もちろん眠いし、台風接近で雨雲が南東のほうに控えているし、のんびり観光している余裕はなさそうです。チェックしておいた餃子屋行こうかなぁ、と思うものの駅からは少し離れてる。とりあえず地下鉄の駅から上がって、まずはホテルの位置を確認しとくか……と行けば、何やら良さげな感じの木の温もりのあるガラス張りカフェ。ほー、とメニューを眺めるも、そこまで値段も高くない。大阪らしい食べ物ではないが、まぁ、たまにはこういうのもいいかもしれん、けれど今はもう少し行こうか。お次は冷麺のお店。うーむ、少し温かいものが食べたい気分。というか地図を見れば、ホテルを通り過ぎてる。あれ、と戻れば、先程のカフェの建物がそのホテルで。というか肌にぴつぴつ雨の先触れ。なら濡れないよう、もうここにしましょか、とドアをくぐる。感じのいいお兄さん。ハンバーグプレートに……別に水でいいのだけれど、カフェだし、旅先だし、ということでジンジャーエールを添える。
 木の椅子に、木の机(何だこの描写)でいただくハンバーグ。美味し。水もあとから持って来て下さいました。

 で、すぐそこのホテル、ソビアルなんば大国町へ。検温して、手をすりすりの消毒アピールをしつつ、フロントへ。予約していた渡辺です。新しいホテル。大浴場が決め手でした。一通りの説明を受け、ロビーにお菓子のサービスがあるとのことで、小さな紙コップにあられを注ぎ、部屋へ。つっ、かれた。まずは良く分からないけれど恒例になっている、電気ケトルでお茶を淹れて、しばしベッドで休みます。気になるのは台風。雨はどうやらまだ降っていないよう。温かなお茶と、ロビーからくすねてきた乾き物でやる。うん、美味しい。というか今日はもう風呂入って寝ましょうか。そうしましょう。きれいなお風呂に、広々とした湯船、外も見えないけれど外気に触れられる気持ち露天風呂。いいお湯でした。おやすみなさいませ。

 と、真夜中。くくくと笑いながら目覚める。
 夢を見た。何だか宣材の撮影現場のようだった。テーブルを挟んで向き合った二人。真面目そうな雰囲気。そこで繰り出された台詞は「最近、クソのキレが悪くって」。
 もうダメでした。夢の中なのに笑いが止まらなかった。何だそれ、身に覚えのない台詞。笑いながら目覚めるなんて、記憶にないからこれが初めてかもしれん。夢うつつの中、ベッドの中でしばらくくくくとやっていました。

2日目

 朝6時半に起きるが、これでも9時間寝てました。連休中で朝のバイキングが混み合うかもしれないよみたいな案内書きを昨日見かけたので、そそくさと朝食会場へ。7時前だというのにすでに満席近く。そして、どれもこれも美味しい。自分で具材を取る海鮮丼まであったのは恐れ入りました。青葱を振りかけた具材たっぷりの味噌汁にほっとします。朝からかなり食べました、のはイベント中はたいてい昼飯抜きでゼリーだけなので、そのためにというのもあります。
 さて、2日目。昨日に比べ、少し暇した時間もあったけれど、買い求めて下さった方がいただけで……と、店番しながら安穏と読書していられるのも昼過ぎまででした。「東海道新幹線、翌日午後から運休」との報がスマホに飛び込んで来て、事態は一変。商い中は本当はあまりスマホをいじりたくないのだけれど、まさに自分は翌日の夕方の新幹線で帰る予定でした。まさか……帰れない!? 明日の午前中に切符を早めることができるのだろうか、と当然考えるが、旅行会社のいくつかの番号に何度電話しても「大変混雑しておりますため……」の機械音声もしくはツーツー。切符と旅行の案内書を読み込み、運休の場合でも振り替えはできずに、新たに切符を買ってね、キャンセルになった分は返金、となっているから、これはもう今のうちの翌日午前の切符を確保せねば、と慌ててスマホで予約。とりあえず一安心。

 そんな感じで、どうしようどうなるんだろうと東京から遠征組の方々と話しつつ、閉会のお時間。接客に集中できない時間もあり、今思い返すと申し訳ない気持ちにもなるけれど、大阪の皆さま2日間ありがとうございました。小説工房わたなべの販売は、これにてひとまず終了と相成ります(今後についてはまた後日書きます)。
 で、今日はキャリーケースと一緒に帰ります。てきぱきと片付け、昨日と同じ道順でホテルへ行き、まずは荷物を預け、明日は帰りの時間が早まったし、今日くらいは観光らしいことをしよう、少しくらい飲もうと、夜の大国町をさまよい歩──こうと思ったら、ホテルからすぐそこ、マンションも兼ねていそうな建物の2階に古そうなお好み焼き屋が。お好み焼きかぁ、アリだけれど、自分で焼くタイプだろうか、それともお店でだろうかと検索すれば、クチコミに広島焼きの文字。大阪来て広島焼きってどうかと思ったが、広島焼きのような複雑な手順が求められる鉄板焼きなら、まさか自分で焼くことはあるまいと推測し、階段を上がっていく。ダンボールの上に無造作に置かれたキャベツ一玉。ちらっとしか見えないがなかなか年季の入った店内。鄙びたガラス戸のすぐ向こうでお客さんが歓談中。これは、ちょっと、入りづらいなぁ……と、一瞬、足が階段へと戻ったが、えいままよ。ここはいい店だと経験が告げている。というわけでのれんをくぐり一名ですと指を立てる。

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