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2019年11月 東国三社巡り

 東国三社巡り……茨城県にある鹿島神宮、息栖(いきす)神社、そして千葉県の香取神宮を詣でること。霊験あらたか。江戸時代には伊勢参りのあとに、参拝する人が多かったとか。
 まぁ、個人的には割合近くに神宮があるから行ってみようか、という感じで旅を思い立つ。

11月23日(土)

 朝8時前に起き、天気予報をチェックして暗澹とした気持ちになるも、神宮詣りだし案外何とかなるかもと、安易な心構えで家を出る。禊(みそぎ)としての雨も悪くないっすかね、とも。多分、初めて長傘を手にして旅に出ます。
 が、地元の駅に向かう途中で既につま先が濡れる(長靴は歩きにくくなるし、晴れたら荷物になるし、やめておいた)。東京駅で、駅弁だらけ混雑だらけの店に行き、時間もなかったし、いなり寿司を購入。神社っぽい選択。
 9:40の鹿島方面高速バスに乗車。出発前にトイレを済ませようとしたら、トイレ付近に座ってたおっちゃんに「まだ開いてないで、走ってからや」と言われ、「ではまた」と退散。そしたら、出発直前に「兄ちゃん、トイレあいたでー」と後ろから声を掛けられ、当然他の乗客にも聞こえ、ありがたいけど苦笑い。この件が初ツイート。
 まぁいなり寿司をパクつきながら、雨景色の中、高速に乗って一路鹿島へ。というかほぼ満席。すげーな。そんでもって、窓の外には降りしきる雨。雨。雨。すげーな。11時過ぎに鹿島セントラルホテルで下車し、まずはホテル内の待合室に避難し、憂鬱な思いで外を見やる。細い雨だが、雨量が多く、風まで出てきて、横殴り。こんな中、2.5km歩いて息栖神社に向かうの? と自問自答する。タクシーを使うという手もあるが、それじゃあなんか参拝という感じがしない……行ってやらぁ!
 上は防水ジャケットだが、下は単なるジーンズ。でも風が弱まったのか、しとしと降るばかり。けど、確実につま先に染みていく。途中、ベイシアという巨大スーパーに立ち寄り、長靴コーナーをながめ、いやぁ、やっぱりないよな、と退店。足を濡らしながら歩いて行きます。少なくとも予約した佐原のホテルにチェックインできる15時までは、濡れたまま過ごすことに。まぁでも、知らない町を歩くのって、楽しいよねとわずかながらでも気持ちを前向きにしていく。というわけで、30分ほどして息栖神社に到着。傘持ったまま撮影って難しい。人影はまばら。雨がそぼ降る参道を行き、まずは一社目と二礼二拍一礼。賽銭で取り出した財布はすでに濡れて革が変色してる……。三社巡りをしている人は、三社共通お守りを買って、そこに残り二社でシールを買って貼って、三社巡りお守り完成させるらしいが、まぁ雨でそんな気持ちの余裕なしだし、参拝したという事実が自分の中にありゃそれで充分なので、そのまま来た道を引き返す。
 そしたら、なぜか風が再び強くなり、目の前からびゅうびゅう吹きつけ、傘を握る手が痛くなるほど。ジーンズの前面が濡れていく濡れていく。そんな調子で2.5kmって、本当もう苦行みたいなもんでした。行きにも寄ったベイシアに12時半頃戻ってきて、さぁ昼飯だと、普段ならうまい店探しを行うが、当然外を出歩く気は失せているので、ベイシア敷地内のモスバーガーに避難。テーブル上のナプキンで太股を叩いて、わずかながらの脱水。ちなみにジーンズの前面だけ濡れているので、席が濡れるということはない。テリヤキチキンとコーンスープで温まりながら、鹿島神宮へ行くバスを待つ。少しでも雨が弱まってくれたらと願うものの、窓の外はなんだか土砂降りみたいな感じ。嗚呼。やっぱり来月に延期したほうが良かっただろうかと後悔をしてももう遅い。乗り掛かった舟なので、そのまま路線バスに乗り込み、鹿島神宮へ。バス内でやや冷える。
 鹿島神宮、という名のバス停がなく、どこが近いのだろうと考え、宮中、というバス停名に目をつけ、宮中なら、もう内側なんだろうと思い下車。町の中。どこここ。でも割とすぐ近くだった。こういうときは運転手に尋ねるべきですね。というわけで二社目。二社目と言うと、何だか就活みたいだ。
 こっちは流石に神宮ということもあって、人手が多い。そんでもって雨はまだまだ降り続いているが、風が弱まったので、まぁ足は濡れたままだが、さっきよりは楽。幸い11月の割には気温も高いので、がたがた震えることもなし。というわけで、拝殿で合掌。中では神前結婚式が執り行われていました。花婿花嫁の背中に向かって手を合わせるというのも、何だか妙だったけれど、まぁ致し方ない。
 鹿島立ち、という言葉があるようで、この宮は何かを始めるときに御利益があるのだとか。実は雨にも関わらず、旅を決行したのにもそういう思いがあります。最近何かと、人生の岐路に立ってんなぁ、と思うことが多かったので(ブログを再開したり、Twitterをやり始めたりしたのも、そういう顕れです)。
 少し時間があるので、だだっ広い境内を歩きます。したら、途中から砂利敷きじゃなくなり、ぬかるんだ泥道……。でもみなさん歩いて行く。もうここまで来たら雨も泥も関係ないので、杉(多分)の並木道をずんずん突き進む。途中、鹿のぴぃぴぃ鳴く声に足を止め、奥宮まで向かう。個人的にはこちらのほうが、古めかしくて、文字通り奥ゆかしくて、厳かな感じ。賽銭を取り出そうと、リュックを前に回し……落とす。泥の中へ。背面が泥にまみれる。やっちまった。でも、ちゃんと気持ちを静かにして手を合わせます。
 さて、電車の時間もあるので、来た道を引き返します。リュックの泥は手で払うだけ払ったが、まぁ汚い印象までは拭えない。当然手も汚れたので、初めて物理的な意味合いで手水舎で手を洗います。傘の柄も洗います。当然柄杓の柄も。参道で写真撮影を頼まれたり、塚原卜伝って寄生獣に1コマだけ出てきたよなぁ、とか思ったりしながら、駅へと向かっててくてく。雨はだいぶ小降りになっている。駅でsuicaは出場のときしか使えないということで、物凄く久し振りに切符を購入。改札で判をもらい、今さら旅情が沸き立つ。しかしなかなか大きな駅で、乗降客も多いだろうに、電子マネー未対応とは意外でした(来年の春からは使えるとのこと)。
 車内は空いていて、暖か。ポケットティッシュでリュックの泥をいくらか拭い、携帯で雨雲レーダーを見やる。思えば息栖神社のあたりも、鹿島神宮も、ちょうど雨雲レーダーで感知できない千葉の二本線(千葉の高層ビルが雨雲レーダーを遮っているらしく、ちょうど千葉→銚子方面に雨雲レーダーの切れ目が二つ入っていて、実際には雨が降っていても、レーダーだと何も映らず)の中に含まれているので、雨雲レーダーはさして役に立たず。しかしこれ、この近辺にお住まいの方は不便だろうね。靄のかかった田園風景を窓の向こうに眺めながら、宿をとってある佐原へ向かいます。すでにチェックインの15時は過ぎているのでホテルに着けば、ようやく足を乾かせる! 大浴場であったまれる! とほくほく。途中、電車の待ち合わせで香取駅にしばし停車。雨は弱い。三社巡りのラスト、香取神宮はここから2km。今日はもう疲れたし、佐原からバス出てるし、明日の朝行こうかと考えていた。でも車内で暖まってだいぶ回復した。雨も弱い。切符は一つ先の佐原まで買った。いや、しかし、今の気分なら──。
 香取駅で途中下車。suicaじゃないから、切符はやや損したが、仕方あるまい(無人駅っぽく、切符は小さな箱に収めます)。そうして小雨の中、傘を差して、民家の合間を歩いて行きます。ぽつんとした喫茶店に、田んぼに、起伏のある道。やはり旅はこうでなければ。直線的に移動するよりも、歩いて、その町の生活感を目と肌でしみじみと感じ取り──。雨は降り続けているし、靴の中はびしょびしょだけれど、気分が昂揚してきます。濡れているのが普通だと思えば、へっちゃら。道の途中、なぜか千円札が二枚落ちていた。雨に濡れた二千円。どういう状況だろう。近くに交番はないし、香取神宮の賽銭箱に入れるのも躊躇われるし、そのまま通過する。
 そうしてたどり着いた香取神宮の参道。ここだけお土産屋というか、茶屋で賑わっている。大鳥居をぱしゃり。三社目です。左右に整然と灯籠が並んだ砂利の坂道を、上っていきます。途中、格子とガラスでデザインされた、やたら新しめな和風建築が。どうしてか人がたくさん向かっていきます。まぁ、今は参拝。香取神宮は黒々とした屋根を冠していて、なかなか重厚な赴き。こうして雨の中、東国三社巡り完了です。手を合わせ、目を閉じているときに激しく起きた強い気持ちは、御利益によるものか、はたまた決意の顕れか。とにかく、何事も後悔のないようとことんやります。
 さて行きがけに気にかかった人の流れについていきます。なんだかガラスの向こうに結婚式みたいな受付が見える。あ、これは場違いだと思い、引き返そうとしたら「天皇陛下御即位奉祝雅楽演奏会」なるポスターが。まもなく始まる。無料。何かの縁なので、行ってみましょう。受付で伺えば、全部で二時間ほどだが、途中退席も可能とのこと。バスの時間もあるので、流石に最後まではいられないが、ほぼ満員の席の端っこにちょこんと座り、あまり耳慣れない雅楽の調べに耳を傾けます。まわりを見回してみても老若男女、人は様々で旅人でもあまり浮かない状況。壇上のお題目の紙をめくる、神職装束に身を包んだ子供たちが可愛かった。第一部を静かな気持ちで拝聴。なかなか得がたい体験をすることができました。というか、予定変更してなかったら、こういった機会にもありつけなかったわけで、やはり気の向くまま動いてみてよかった。というわけで、休憩と同時に退席。香取神宮から佐原駅へ向かうバス停へ。
 時間が少しあったので、参道の茶屋で焼団子を。閉店直後だったが、お店の中でどうぞと、ほっとした心地で椅子に腰を落ち着け、団子を頬張る。焼き立てで、タレが甘辛く、人心地着く。ごちそうさまでした。そうして乗客が駅まで俺しかいなかったバスで、佐原に到着。暗くなった駅前を歩き、ホテルにチェックイン。暖房をつけ、裸足になり、服を広げ、ドライヤーで靴を攻め、全力で乾かす。なお、靴下は一泊にも関わらず四足持ってきました。そんでもって大浴場で心ゆくまであったまる。しあわせ。
 団子も胃袋から失せ腹が減ったので、半乾きの靴やら服やらで、まだ小雨の降り続ける駅前を散策。しかし開いてる店が少ない。何だか酒という気分でもないので、居酒屋は違うし……、と思っていたら、かなり良さげの雰囲気のパン屋が。パン。好きは好きだが、今はもっと温かいものが食べたい。でも美味そう。じゃあ、さくっと食事をしたら、デザート代わりに菓子パンでも食べようか、というわけでアップルパイと、1/8のピザ(デザートじゃないね)を購入。「旅の者なんですが」とレジで、周囲の飲食店について尋ねるものの、この時間だと付近には少ないとのこと。うーん。まぁ、駅周辺をぐるりとして、再びつま先が濡れてきたので、外観は今一つピンと来なかったが、お客さんが割と入っていた駅前のラーメン屋へ。豚骨醤油。まぁまぁ、うまかった。ごちそうさま。パンを食べるなら、牛乳が欲しいなと、近くのコンビニで地元の「かずさ牛乳」瓶をお買い上げ。旅をしたら、なるたけ地のものを食したいのです。
 部屋に戻り、メッシュのスリッパの心地よさに再び足を通し、パンをパクつく。うまうま。出来たてを食べたかったなぁ(今調べたら、チェーン店だったよ)。しかし「かずさ牛乳」。うまい! 何だろう、旅先で飲む牛乳はどれも美味しく感じるのだけれど(東京ではもっぱら北海道牛乳)、これも旅情のなせるワザだろうか。そんなこんなでテレビを見つつ、ぼんやりしつつ、眠りにつく。

11月24日(日)


 8時に起き、着替えて朝食バイキングへ。もう服は完全に乾いております。やっはー。しかし外は土砂降り。まぁ、もう少しすれば止むらしいので、バイキング会場へ。朝食はとりあえず白いご飯と、味噌汁と、梅干しと納豆がありゃいい。しかしこういうバイキングのウインナーって、美味そうに見えて、いざ食べると見た目とは裏腹に、ということが多いなぁ。
 さて、フロントで佐原の地図をいただき、どういう風に佐原の町を巡ろうかと思案しながら、荷物と部屋の整理に取りかかる。そんなこんなで気づいたらチェックアウトの時刻。お世話になりましたと、閉じた傘を手に佐原散策へと繰り出す。雨は止んでました。
 まず向かったのは酒造。別に酒を飲みたいとかではなく、昔の酒蔵なんかを見てみたいと思っていたら、あれよあれよと雨が降り出し、酒蔵の軒下で雨宿り。酒造の方に「見学ですか?」と声を掛けられ、どうしようかと一瞬考えたもの、流れに身を任せて見学をお願いして、酒蔵の奥へと俺一人案内され、佐原の歴史や酒造りについての話に耳を傾ける。興味深かったのは、佐原にも昔は遊郭があったということと、今でも冬の間は東北から杜氏さん(酒造りの職人)が単身赴任でお目見えになるとか。あとは人口が減って、後継者が少なくなってきたなんて話も(しかしこういった話は、どこでも耳にするな……。何とかならぬものか)。「学生さんですか?」とも問われる(見えんだろ)。そうして別にそのつもりじゃなかったけれど、試飲へと誘われる。うまうま。やはり大吟醸はすっきりしている。で、俺一人のために色々案内してくれたのに、このまま左様ならというわけには行かないので、まぁそのうち飲むだろうと180ml瓶を買って出る(家で一人酒することって、まずないけどね)。ありがとうございました。雨も止みました。
 有名な小江戸佐原の風景、小野川の川沿いを歩く。川の両脇に柳が植えられ、左右には古い商家が建ち並び、今は飲食店やホテルとして再利用されている(このホテルめっちゃいい感じ)。そうしてやってきましたは佐原の偉人、伊能忠敬記念館。日本中を旅して、初めて日本地図を測量で完成させた御仁です。旅と地図は好きなので、勝手に親近感を覚えております。さして時間に余裕はないので、のんびり見ては回れなかったけれど、伊能忠敬の生涯を紹介する映像を鑑賞する。齢五十にして、暦学を志し、初の日本地図完成という偉業を成し遂げた伊能先生。「人生は一度切りなのだから、悔いのないように思ったことをやりなさい」という感じの言葉で締めくくられる。今気づけば、俺が三社巡りで思ったことと同じです。展示も見て回るが、どうやってあんなに細かい地図を描くことができたのか今一つ呑み込むことができず(今調べて、ようやく知る)。
 さて、佐原の町並みを写真に収めながら、細く曲がりくねった川沿いをぶらぶら歩く。雨が降っていないと、写真も撮影しやすいしやすい。しかしそれでもフリック入力に慣れていないので、twitterへのアップが覚束ず。旅の最中、何度PCのキーボードを欲したことか。そうして12時前に鰻屋の前を通りかかる。佐原では有名な老舗鰻屋。時間が早いためかまだ行列はできていない。鰻を食べる予定はなかったので、そのまま通り過ぎたが、換気扇から流れているのか店の裏には鰻のタレが焦げる良い香り。昼前だが、鰻なら提供されるまである程度時間がかかるだろうし、いや、もう……いただきましょう! というわけで小さな予定変更。すぐに席へと通され「じか重」を注文。鰻をご飯の上に直に載せるという意味で、用はお馴染みの鰻重です。質問しているお客さんが多数いたけれど、店員さんも慌ただしくしているので、お品書きにそう書いておけばいいのになぁ、と思ってしまう。さぁ、思ったより早く十分ほどでへいお待ち。重箱の蓋を持ち上げれば、はみ出た蒲焼き。見るからにふっくらしていて、よい焼き加減だ。手を合わせて、いただきます、とさっそく一口。うまい……! 身はしっかりと詰まっていて食べ応え充分。ややタレが多い気もしたが、一心不乱に箸を動かす。お新香も、吸い物もあっさりとしていて美味。ごちそうさまでした。
 腹を満たして、再び川沿いを歩き、何かの案内板で佐原の名産が「いも」と知る。小江戸と称され、古い商家が並び、老舗の美味い鰻屋があって、いもが名産と言えば、埼玉の川越と同じすなぁ。川越のほうが町としては大きいけれど、佐原には水郷という特色もある。どちらも良い町です。そうして私、いも──特に焼き芋には目がないので、自分への土産に買って行ければと思い、丁度いも専門店を見つけ、焼き芋はお土産とするには適さないので、スイートポテトを購入。そうして小野川から離れ、佐原の町並みに別れを告げる。また逢う日まで。最後にまた雨がぱらつき出したが、なんのその。
 出発4分前に佐原駅へと到着し、成田へ。京成成田から東京の大門へ。少し歩いて東京モノレールで流通センターへ。気にかかっていた文学フリマを一時間以上見て回る。あまりの書き手の多さに圧倒されつつも、奮い立つ。このときの成果はいずれまた。
 雨に打たれ、風に吹かれ、泥にまみれた東国三社巡り。
 実に良き旅路でした。

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