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アニメ過去作のリスタートはどのファン層に向けているのか【日経COMEMO】

『鬼滅の刃』大ブームで沸くアニメ界ですが、
もうひとつのブームが「過去の人気作のリスタート」です

■大人になったかつての子供たちに届く

東映アニメーションが、自社の女児向けアニメ『おジャ魔女どれみ』(1999年)シリーズ20周年を記念して、映画『魔女見習いをさがして』を制作。2020年11月に公開することになりました。

物語は、どれみたちを知っている大人たちを描くもので、メインと想定される観客は、当時の女児(幼児期~小学生)。現在の20代~30代前半の女性にあたります。

そして『プリキュア』シリーズ劇場版最新作『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』(21年3月公開予定)では、現在テレビ放送中の『ヒーリングっど♥プリキュア』に加えて、2007年放送『Yes!プリキュア5』と続編のキャラクターが登場することが発表されました。

当時見ていたのは、幼児~小学校低学年である3歳~8歳。当時5歳だった人であれば、現在18歳ぐらいになります。

観客として想定されるのは、“大人になったかつての子供たち”です。

東映アニメーション作品の強みは、幼児から大人まで、アニメファンではない「一般層」も視聴していることです。
アニメファンでなくても、「子どもの頃ファンだった作品の続き」であれば映画館に足を運ぶことが期待できます。さらに言えば、20代の頃からアニメに接していれば、2世代、3世代にわたって自社作品を鑑賞する習慣をつけてもらえるかもしれません。

■20代にとってアニメは身近な娯楽のひとつ

アニメファンではない一般層という話をしましたが、今の10代~20代にとって、アニメ鑑賞は、音楽やゲーム等と同様、気軽にチョイスされる娯楽のひとつです。今から4年前の2016年には『君の名は』(2016年)の大ブームがありました。また、2015年にはインターネット映像配信サービスAbemaTVが開局しています。
(※アニメ配信の歴史については、日経COMEMO オピニオンリーダーでもある数土直志氏の著書『誰がこれからのアニメをつくるのか?』星海社 に詳しいです)

2012年~2016年はスマートフォンが急速に普及。
同時にAbema、Netflixなどアニメファンに手厚い配信サービスが普及していった時期にあたります。

2016年にはブームを報じる記事もありました。
ネットテレビ「Abema TV」 ポケット茶の間に若者集う(2016/8/31)

全国いつでも録画不要でアニメが観られる環境が、『君の名は』ブームと同時期に整備されていったことが、ライトなアニメファンを増加させた一因になっていそうです。

『鬼滅の刃』ブームの中核を担うのも、こうした10代20代のライトなアニメファンだと思われます。
『君の名は』は「高校生カップルが観に行くアニメ映画」という点も話題になりましたが、その時点で中学、高校生だった人たちが現在20代になり、『鬼滅の刃』や『名探偵コナン』などの観客になったと考えられます。

■アニメファンに響く過去作は90~00年代に集中

20代においては一般層とアニメファンの境はなくなりつつありますが、30代以上になると、アニメを見る層と見ない層に二分される傾向があります。

冒頭の、アニメ界でブームが起きている過去作リスタートですが、最も話題になるのは、コアなアニメファン向け作品です。選ばれる作品は90~00年代に大ブームを起こしたものに集中しています。コアターゲット層は30代以上です。

なぜリスタートに選ばれる作品が90~00年代に集中しているのか。
なぜ30代以上なのか。

ここでは『シャーマンキング』(初アニメ化/01年)『東京BABYLON』(同 92年)の2作品を上げて説明します。これらの作品は、新作決定が発表されると、Twitterのトレンド欄を席巻しました。まだ新作が公開されたわけでもなく「制作決定」が報道されただけで、ファンにとっては絶大なインパクトがあったことがうかがえます。

2作品の共通点は、制作された年代が違っても「90年代~00年代に中高生だったアニメファンから絶大な支持を得た」ところにあります。

先に挙げた『シャーマンキング』(初アニメ化/01年)は「週刊少年ジャンプ」連載作品。霊能力者(シャーマン)をめぐる世界観と個性的なキャラクターが人気でしたが、アニメ化によってさらに多くのアニメファンの心をつかみました。

90年代は、アニメ作品がファミリー向けと、深夜放送も含めたアニメファン向けに分かれていった時期でした。『シャーマンキング』の音楽制作は、『新世紀エヴァンゲリオン』で製作委員会方式を確立したキングレコードが担当しており、人気声優・林原めぐみがヒロインと主題歌に起用されました。そして、のちに『鋼の錬金術師』『機動戦士00ガンダム』等のヒット作を生み出すことになる水島精二監督がキャラクターを立てる演出方法を取ったことも相まって、アニメファンに響く作品として支持されたのです。

『東京BABYLON』は、まだアニメファン、いわゆるオタク層向け作品が少ない90年代初頭に、コミックを中心にアニメファン層に支持された作品です。作者は、『X』『カードキャプターさくら』等を手がけている作家集団CLAMP。この『東京BABYLON』が初期の代表作になります。

現代の東京を舞台に、人間に取り付く怨霊を払う陰陽師が活躍する、現実とファンタジーが交差する物語は、「トップスのチョコレートケーキ」などバブル期の華やかな東京生活の描写と相まって、全国のアニメファン的なマインドを持つ読者から、絶大な支持を得ました。国内コミック総売上数は1億部を突破しているそうです。

90年代には、10代のアニメファンが好むマンガやアニメが激増しましたが、『東京BABYLON』も、その先駆けとなった作品のひとつでした。1975年生まれなら『東京BABYLON』連載開始時には15歳と思春期真っ只中。どれだけのインパクトがあったかが想像できます。

■アニメと消費が結びつくのは団塊ジュニア以降

アニメファン人口のボリュームゾーンのひとつは「団塊ジュニア世代」近辺の70年代生まれの層です。子どもの頃は“ジャンプ黄金期”で『ドラゴンボール』『キン肉マン』を読み、「ファミコン」で『ドラクエ』で遊んだ彼ら。85年頃から参加者が急増したコミックマーケットを通じて同人誌に触れた人も多く、子どもの頃からアニメ・マンガ、ゲームの娯楽が充実し、「オタク文化」で育ちました。

彼ら以前は「ないなら自分で作る」と、オタクコンテンツを作っていった世代です。『新世紀エヴァンゲリオン』の庵野秀明監督(1960年生まれ)もそのひとりです。90年代は、こうしたクリエイターによるオタクコンテンツが花開いた時代でもありました。
70年代生まれは、上の世代が作った90年代以降のオタクコンテンツを「ユーザー」として楽しむようになった最初の世代です。また、彼らが次世代クリエイターとなり、新たなオタクコンテンツを生み出す流れもできました。

アニメを楽しむことが「消費」と結びつくのは、団塊ジュニア世代以降となります。人口数だけではなく、消費にまつわる文化的な素地も重要なポイントです。
アニメの消費文化自体は、80年代に高額なOVAを50年代、60年代生まれの社会人男性が購入することからスタートしていますが、広く普及したという点では、90年代オタク文化に触れた70年代以降の世代の参加が鍵となります。

■過去ヒット作と現在のIPビジネスが結びついた

先日も『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ(アニメ化2006年)原作小説の再始動が発表されて話題となりましたが、今、リスタートする理由には、業界のIPビジネスの成熟が関わっています。

現在アニメ業界で行われている配信、イベント、ライブ、グッズ物販等のIPビジネスを、それがなかった時代のヒット作で行おうということです。

大人になり自分のお金が使えるようになった人口の多いアニメファンと、IPビジネス展開が容易になったアニメ業界、双方の一致点が、今の90年代~00年代過去作リスタートということになります。

過去作のアニメリスタートが、アニメ業界とファンに何をもたらすのか。
新規ファンの獲得も含めて、今後の動きに注目したいところです。

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