The Qualified Sales Leader解説②Scopingの3つのジャーニー
こんにちは。Magic MomentでAccount Executiveをしています、渡邊(@Yusuke_W8)と申します。前回に続き、”The Qualified Sales Leader: Proven Lessons from a Five Time CRO”の解説、やっていこうと思います。
前回は本書の要諦として、B2Bセールスのプロセスは不可逆な一連の流れであり、現在の商談プロセスを正しく見極めるためのスキルと、適切なタイミングで適切な相手にコミュニケーションを取ることが必要であるということをご紹介しました。
本noteを理解いただくために必要な前提知識↓
上記が前回ご紹介した顧客の登場人物への理解と、B2Bセールスのプロセス全体像です。2回目以降は、私が特に参考になったと感じる点を抽出し、まとめていこうと思います。(なので、網羅的に全て解説するわけではなくすみません・・・もしご要望があれば、追加でも解説しますね。)
というわけで、今回は第2回、より具体的な内容として、Scoping(取組み範囲の特定)についての解説を行っていこうと思います。
Scopingの3つのジャーニー ←今回の内容
Scopingの3つのジャーニー
Scoping、日本語にすると”取組み範囲の特定”になるかと思いますが、こちらに関しては大きく3つのジャーニーが発生すると言われています。
先ほどの”B2Bセールスのプロセス”を見ていただいた方には、プロセスを超えてEconomic Buyerとのミーティングが入っているじゃないか、とか、Validation Eventのような価値実証のところまでいっているじゃないか、と思われるかと思います。まさにその通りで、最初にScopingを行ったものが、後のプロセスで変化をしていく、ということなので、ジャーニーと言っているわけです。
また、POVの後に、営業は下記の2つにYesと言えるかどうかが、大きなチェックポイントだとも言っています。
Championから上申し、案件を前に進めるためにまずは原案としての”Scoping”が必要になるわけですが、同時にこの原案は、Economic Buyerとのミーティングや、価値実証を経て、何らかのファクトの発見や、反対者を退ける過程の中で、変容しなければならないということを言っています。
考えてみれば、Championへのヒアリングや議論で決めた原案で全てが進むなんて、そんなことはあり得ないのですが、我々営業は往々にして最初に決めた原案こそ正解で、「それを納得いただくのだ!」と鼻息荒く思ってしまいがちです。Economic Buyerの声に耳を傾け、価値実証で得たファクトを冷静に踏まえながら、しっかりとこの原案をリアリティのある提案に仕上げていく必要があるわけです。
成果物として作成すべき3つのドキュメント
この3つのジャーニーを経て、作成する(正確には更新し続ける)成果物が下記の3つになります。逆にいうと、この3つが完成されるイメージを持ちながら、プロセスを進行していくのがよいでしょう。
見積もりはあまり説明はいらないでしょうから、上の2つについて、それぞれの成果物を作っていくうえでのポイントを解説していきましょう。
As-IsとTo-Beを比較し、コストの妥当性を示す
差別化ポイントで価値訴求する
提案するソリューションの価値そのものが、導入によるAs-IsとTo-Beの変化差分になります。このとき、まず考えるべきなのが、自社ソリューションのユニークな差別化ポイントと提供価値が結びついているか?という点です。
エンタープライズ企業は、人・モノ・金が揃っている企業体です。さまざまなソリューションを試す体力もありますし、リソースをふんだんにつかってさまざまな方法で現状抱えている課題を解決することが可能です。また、複数のソリューションを形式的にでも検討することを定められている企業もあるでしょう。
こうした社内外の競合に対して、ガチンコで勝負したときにも勝てるユニークなポイントをいち早く見出し、この価値を基軸にAs-IsとTo-Beの差分を埋められることを訴求していく必要があります。論点となっているペインに対して、一般的にはどういった手段をとって解決をしようとするのか、人や時間をつかってでも解決しようとするのかどうか?を理解しておきましょう。
既存顧客における特徴的なユースケースや、現状のカスタマーの利用状況をつぶさに観察し、最も大きな顧客価値を創出する使い方が何なのかを常に問い続けることで、ユニークな提供価値を磨いていくことができるでしょう。この提供価値がハマるかどうかを、きちんと提案先へヒアリングし、この価値を提案可能かどうかを見極める必要があるわけです。
定量化の方向性
価値訴求のポイントが決まったら、次に定量化を行います。概念的な変化はもちろんですが、定量的な数値としての変化を示していく必要があります。例えば、下記のような方向性になるでしょう。
そして、納得感をもって上記を支持しやすくするために、いくつかの問いを立て、事業シナリオを補強しましょう。
ソリューションを導入してもペインを解決できなかったらどういう結果になるか
ソリューションを導入してもペインを解決できないとしたら、何がその邪魔になったのか
もしソリューションを導入しなければ、どうなるのか
もしソリューションを導入しなければ、二次的にどういうことが起きるか
あくまでこれらは、リスクについて必要以上に言及するホラートークではなく、”手なりでこのまま進んだときの未来”としてリアリティのあるシナリオの範囲にとどめると良いと思います。
補足:何が変化のキャップになるかを考える
本書に記載はありませんでしたが、定量化された変化のインパクトを考えるときに、何か変化のキャップになる要素がないか?というのを考えるのはとても重要だと私は考えています。
世の中、リソースをつっこめば突っ込むほど売上が伸びたりするのであれば、皆すでにそうしているはずです。また、リソースすらも、伸びるのであれば出資してくれるプレイヤーが現れるはずです。そうならない理由が、ビジネスモデルや、マーケット規模、商材の性質や、組織の機能上の限界などにあるはずという前提に立って、引いた目線で提案を客観的に吟味しましょう。
提案するソリューションによって、このキャップをはずせるのか?また、キャップの範囲内でも大きく伸ばすことができれば妥当性があるのか?この辺りへの道筋が見えているのであれば提案としてはGoですし、見えないのであれば追加でヒアリングを行ったり、ときには提案を見送ることも誠実でしょう。実際に、3つのジャーニーの中で、ステークホルダーからさまざまな意見をもらいながら、この辺りのリアリティを高めていくことで、合意形成が進んでいくということになります。
意思決定基準やコストの妥当性を前提に、価値実証の計画を握る
As-IsとTo-Beの比較で示した変化とコストの妥当性が、本当に実現できるか?を検証し、意思決定基準に照らしてGoの判断ができるようにもっていく必要があります。意思決定基準に関しては、次回のnoteでのEconomic Buyerとのミーティングで詳しく解説しますが、「いくらなのか?すぐできるのか?確実なのか?簡単なのか?」といった観点に沿うかを念頭におきながら、ここでは妥当性の証明のために、何をどうやって実証するのか?という観点が重要になります。
あまり本書内では詳しく書かれていなかったので、一般的な内容も含めて解説しますので、理解を深めていただければと思います。
ソリューションの利用難易度の確認
新しいソリューションを導入するということは、一部または全体の業務オペレーションを変えるという判断をするということでもあります。このとき、全く運用が回らないということでは、まったく提供価値が効力を発揮しないことになります。一般的にはライトな順に以下の手法を複数用いて、証明をしていくことになります。
事例紹介
デモンストレーション
トライアル導入(PoC)
フィジビリティスタディ
業界によってリテラシーレベルに不安があるケースは、まずは事例紹介やデモンストレーションが不安を緩和してくれるでしょう。一方で、常にリスクへの説明が問われるエンタープライズ企業では、基本的にトライアル導入(PoC)やフィジビリティスタディでの検証が要求されるケースが多いと思われます。
ただ、リソースもかかるこうした重ための検証を、安易にセールスプロセスにおいてかなり手前の段階でしてしまうと、下記のような影響が起きてしまうので注意です。
このあたりは、Right Touch野村さんのnoteで詳しく解説されておりますので、激しく一読をお勧めします。
物理的に実現可能かの確認
米国では平均で100以上のSaaSを導入しているとも言われており、日本はまだそれほどではありませんが、それでも一般的に8~10程度のSaaSを導入していると。さまざまなSaaSやシステムをAPI連携している昨今では、ビジネスモデル上クリティカルになるオペレーションがソリューション導入によって影響をうけるのか、もしくは改善されるのか、という観点も非常に重要になってきます。
影響を受ける場合は、それによっての影響も導入時の妥当性の判断要素の一つに入れる必要があるわけです。
副次的なコストの発生
また、副次的に発生するコストにも気を配らないといけません。
たとえば、運用にOpsの人的リソースがどれだけ必要になるのか?
ソリューション導入時のインプットコストがどれくらいになるのか?エンタープライズ企業ともなると、従業員への説明コストに1日かかるだけで、売上やコストインパクトは数億にものぼります。この辺りも踏まえて提案をできるか、という観点も忘れないようにしましょう。
エンタープライズセールスでは、提案は通すものではなく、顧客とつくりあげていくもの
Scopingの3つのジャーニーで私が学んだこととしては、提案は1発で通すものではないということでした。原案を作り、それをもとにEconomic Buyerと対話をし、ステークホルダーとリアリティを磨いていく中で作り上げていくものです。
だからこそ、初回提案までのスピードと修正回数が重要になります。商談後すぐScopingのラフ案をその日には作成し、磨いていける営業と、うんうん1週間考えて提案を作る営業と、どちらが前に進めると思いますか?良い提案ができない・・・と悩んだり、知識が足りないので学ばなければと思う必要はありません。
弊社のBDRは優秀で、大手企業の役職者のアポイントをきっちりととってきてくれます。だからこそ、がっつりした提案を作らねばと気負ってしまっていました。ですが、エンタープライズセールスだからこそ、一にも二にも、まずは提案から始めようということで、だいぶ気が楽になりましたし、この方がお客さまと同じ目線になれるような気がしており、大きな学びとなりました。
以上、今回はScopingの3つのジャーニーとその際の成果物についてまとめてきました。次回のテーマは”Championを見極める”です。ぜひお付き合い頂けますと幸いです。
Championを見極める ←次回の内容
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