CEO Flow解説:事業状況に合わせてPull Managementで事業を成長させる方法
こんにちは。Magic MomentでAccount Executiveをしています、渡邊(@Yusuke_W8)と申します。
以前noteに投稿させていただいた洋書の解説シリーズが非常にご好評いただいておりまして、ありがたいことにたった1週間で3000PV近くもご縁をいただけたので、またも苦手な英語と向き合いながら新しい投稿を書いてみることにしました。もしよければそちらのnoteのリンクも貼らせていただきますのでお読みいただけたら嬉しいです。
今回解説するのはSalesforceの黎明期にインサイドセールスを立ち上げたアーロン・ロスの
「CEOFlow: Turn Your Employees Into Mini-CEOs / Aaron Ross」
です。日本語だと「CEOFlow:従業員をミニCEOに変える方法」みたいなタイトルになると思います。
ちなみに彼の著書の中には、営業・インサイドセールス必読の『成功しなきゃ、おかしい 「予測できる売上」をつくる技術』(実業之日本社)といった名作がいくつかあります。(営業関連の皆様はこっちも必読です!)CEO Flowは日本語訳版がなかったと思いますので、今回テーマに選びました。
私は本書を読んで、スタートアップだけではなく、大手企業も含めて、権限移譲をどのように行い、それを実現するためのカルチャーやその浸透に向けて何をしなければならないのか?という点の参考になると感じました。
上記のような”権限移譲”や”カルチャー”に悩んでいらっしゃいそうな、フェーズが変わるタイミングの事業にいらっしゃる皆様に、ぜひ読んでいただけたらと考えています。
CEOフローとは
早速解説をしていきましょう。
フローとは
まず最初に、フローとはどういう状態かについて。この概念は「フロー体験 喜びの現象学」の中でチクセントミハイにより提唱されました。状態としては下記のように定義されています。
この状態に至ると、下記のような感覚でことにあたることができるようになります。スポーツの世界では”ゾーン”と呼ばれている感覚ですね。
この状態に至るためにはいくつかの条件が(全てではありませんが)必要と言われています。明確なゴールがあり、直接的かつ素早いフィードバックがあること(自分の行動の結果が間接的にしかわからない、または10年先に現れる、といった形だと難しいという意味です)、そしてスキルレベルとチャレンジのバランスが取れていることで自己効力感を感じれる状態であることなどが挙げられます。下記の図の右上の状態ですね。
本書の中ではチクセントミハイの主張として、組織をフロー状態にするためのいくつかの提案が書かれています。
そして、組織的なフロー状態を実現できているときは、政治的なふるまいや好き嫌いによる判断が存在せず、ルーティーンもちゃんと改善されていくといいます。
もちろん、組織に完全などはあり得ないと思いますので、上記は”理想の状態”と捉えていただいて差し支えはないと思います。けれども、組織のケイパビリティと、ほどよくストレッチが効いたゴールへみんなが主体性と自己効力感をもって向かえている、そんな状態(いわゆるモメンタムがある状態)と言えるのではないかと思いますので、ひとつの目指すべき姿としては考えるに値すると思います。
誰もがCEOのように考える
CEOのようにそれぞれの構成員が考え振る舞うと、(視座を引き上げ意思決定を行える状態にする)意思決定がそれぞれのレイヤーで行われ、問題が全てエスカレーションされる状態から、各セクションで解決されていくようになります。この状態によって組織がフロー状態になっていくことを、本書ではCEOフローとしています。
ケーススタディで描かれるAES社では、CEO Flowを実現するために、
①mini CEOを育てること
②蜂の巣状の組織構造をつくること
の2点を挙げています。それぞれ解説していきましょう。
ケースからみる手法①mini CEOを育てるために、意思決定をメンバーにさせること
会議などのサポートはあれど、全ての意思決定は最終的には一人の意思決定者が行うべきです。これはポジションにかかわりません。リーダーは伝統的な役割や会社全体の意思決定に時間を使うため、細かな意思決定はできません。”それって私の時間を使うべきもの?”というのがよくある最初の反応でしょう。
会社を危機にさらすことなく、個人のレベルをひきあげるために、”アドバイスプロセス”というシンプルで、議論的な方法をとることができます。
上司に”メンバーや同僚に聞いてください”とAskするのではなく、”役員などではない普通の”意思決定者が、意思決定に影響しうるリーダーや同僚にアドバイスを求めるようにします。考えを主導し、問題を発見し、状況に密接に関わる人が意思決定者となるのです。
意思決定の前にアドバイスを求め、より大きな問題にはより大きな粒度でアドバイスを与える必要があります。このプロセスが回り始めると、下記のような影響が起きるようになります。
ケースからみる手法②蜂の巣状の組織構造をつくること
”蜂の巣状”とは、ミツバチが個別に動きながらも、蜜を巣に届けるために調和の取れたやり方で活動しているというところから着想を得て名付けたものです。タスク単位ではなく、ビジネス単位で組織を再構成し、それぞれのビジネスに必要な要素(予算、スケジュール、補償、支出、購買、品質管理)などでレポートをさせるようにしたのです。
また、あまり感謝されず、事業部の問題を正確には理解していないと感じていた、コーポレート横断での人事やIT部門を減らすことで、逆に各部門がビジネスの全体像を理解するようにもなりました。
結果として従来型とは違う、下記のような結果がもたらされるようになります。
また、上記を実現するには10の重要な原則を守っていく必要があるといいます。
ここで書かれているAES社の手法ですが、私は非常に似たやり方で事業を伸ばした例を身近で知っています。私の古巣のリクルート、Hotpepper事業を一気に拡大した際の手法です。詳しくはぜひHotpepperミラクルストーリーをお読みいただければと思います。
私が入社した時にはすでに各編集部の横断的機能は本社に集約されていましたが、当時はPL責任を各編集部で負うなど、各編集部がかなり独立性高く運用されており、かつ経営未経験の先輩方が手あげ制で全国に編集部を立ち上げていくという形をとり、各編集部がナレッジをシェアしあいながら事業を大きく伸ばしていきました。のちに、現場営業としても、営業推進として横断機能も担当していた私からすると、各編集部があの量の仕事を執行していたというのは狂気とも感じるのですが、こうした運用の結果、事業が大きく伸び、またのちにたくさんの経営者がここから輩出されていったのでしょう。
CEOとマネージャーが意識するべき3つのポイント
上記のような権限移譲を行う手法でCEOフローを実現していくときに、CEOを含めたマネジメントが意識するべきは3つです。
原文ままですが、上記3つの詳細は下記になります。
Trust:信頼性
Transparency:透明性
Alignment:整合性
これらは一朝一夕でなるものではなく、進捗はベイビーステップです。それだけ、マネジメントにかかる負荷、工数は大きいものになるでしょうから、辛抱が必要です。
CEOやマネージャーにとって、これらを全て実行するのはとても説明コストが高く、限られたリソースでは難しい場合もあります。またフェーズによっては物理的に無理という場合もあると思います。例えば、上場してからはインサイダーの観点から、従業員に対しての情報開示はかならず制限されます。どれだけ透明性が高い運営がされていたとしても、創業当初からこうした情報に触れ続けてきた古株メンバーからしたら、情報がわからなくなり意思決定がしづらくなったり、寂しい、信頼されてないのではという感情的な気持ちも起きてくることでしょう。
ベストエフォートをしていくことはもちろん、事業のフェーズによりここの絞りがゆるくなったり広くなったりしていくことも含めて、事前にメンバーに伝えていき、影響を最小限にとどめていく必要があるということでしょう。
CEOフローシステム
ケースと意識すべきポイントの解説を経て、最後にフローシステムの全体像について紹介されています。まずは、前提として、CEOが陥りがちないくつかの神話から解き放たれるための示唆から始められています。
従業員の力を最大化することについての5つの神話
従業員の力を最大化するために、CEOが意識すべきことは、こういった神話でがんじがらめにされることではなく、次のような役割になります。
CEOとしての役割
マネジメントとして求められるものよりも、直接的であることや、入れ込みすぎないという点に言及されているのが印象的でした。CEOのリソースは有限です。その中で、無駄な説明コストを払わずに直接的にどう伝えるか、というのは非常に重要ということだと思います。上記の役割をもとに、従業員がリードする職場をつくるにはどうしたらよいのか?その原則が下記になります。
従業員がリードする職場をつくる7つの鉄則
ここで述べられているのは、一朝一夕では進められないということ。また、この考え自体が、短期的なスピードとはトレードオフにあるということが言えると思います。適切な事業フェーズ、タイミングで、上記の原則をもとに、下記のステップでひとつずつ歩を進めていきましょう。
CEOフローは一歩ずつ進める
従業員は、意識的にも、無意識的にもCEOやマネージャーの影響を日々受けています。この辺り、ちょうどナレッジワークの麻野さんが興味深いnoteを書かれていたので、ここにリンクを貼らせていただきます。
上記のCEOフローを1歩ずつすすめることも、常にこれを共有し続けることもそうですが、CEOフローの構築よりも早く進むであろう、事業のフェーズによってCEOと従業員の接点は変わり続けていきます。そしてその接点量は事業が成長すればするほど、通常は少なくなっていくもので、伝えるということに対してのコストが大きくかかっていきます。
googleでは(少し古い記事だが)、20年以上もTGIF(金曜夕方の全社ミーティング)を通じて、CEOや経営陣の声を生で全社員に毎週届けていますね。
全社員x会議時間だから相当のコストです。それでも麻野さんが指摘しているような従業員が想像で生み出してしまうさまざまな産物を軽減することや、本書で述べられていたようなミニCEOを全社で生み出し続けるための、一つの手法として行われているのだと理解しています。
全ての事業にCEOフローは必要なのか?
ここまで、CEOフローについての解説を進めてきました。
本書で述べられている事柄は、全体を通して働き手の従業員にとってはとても耳障りのよい内容が多かったと思います。そして、これをすべて体現できるCEOやマネジメントはどんだけすごいねん、とも感じてしまったのが正直なところです。では、全ての事業にとってCEOフローは必要なのかを考えていきましょう。
事業フェーズの進化とCEOフロー
前述のリクルートHotpepper事業のその後の流れも知っている私としては、また事業が成熟したのちにはコスト削減による利益創出の観点から、事業横断組織を構築することになったことも理解しています。ですから、本書の内容は単一事業で捉えた時に、事業が成長フェーズに入ったタイミング〜成長が鈍化し始めるまでがもっともワークする内容なのではと考えています。本書の著者アーロン・ロスも、その後大成長したSalesforceの成長期に在籍していたことから、本書の内容がそのフェーズにもっとも必要であるということの裏付けにもなるでしょう。
Push Management と Pull Management
上記のフェーズに関連する箇所として、本書のP32でPush managementとPull Managementという対比でも説明がされていました。馴染みのある言い方だと、トップダウンとボトムアップという言い方でも良いと思います。CEO FlowはPull Managementのかなりハイレベルな実現状態と考えて差し支えないでしょう。
これらはどちらが正解、どちらが間違いであるというわけではなく、両方を使いながらバランスさせるべきと書かれています。上記のような事業フェーズ(リソース、事業のPMFの度合い、プロダクトの成長など)だけでなく、事業特性によっても求められる度合いが変わると言えます。
事業特性による必要要件
例えば、私の前職のリクルートでは、SMB向けの営業がメインであることや、比較的若いメンバーが多いことから、ティーチングを行いながら、オペレーティブにやりきれるかが求められます。こうした場合はよりPush Managementなスタイルが成果につながっていくと言えるでしょう。
一方で、年次を重ねチームリーダーになった時や、大手クライアントの担当になった時には、急に”お前はどうしたい”という意思決定を求められるようになりました。これはメンバーの成熟度に加えて、新しい顧客価値の発見など、業務内容に正解がなくなっていく中で、求められる要件も変わっていく、変わるべきであるということです。対個人ではそうした形の調整が可能になりますが、全社方針としては、事業特性とマジョリティとしてどういったメンバーが多いのか、これは採用や育成の方針にも密接に絡めながらバランスしていく必要があると言えそうです。
加えて、成熟期以降は既存事業の漸進的成長と、新規事業による成長を目指すことになります。後者に関してはまた成長期において、同様にPush Managementよりのスタイルが求められるでしょう。
結論
事業フェーズ、事業特性、メンバーのマチュリティに合わせてCEOフローを導入しよう
本書で記述されたCEOフローを成立させるためには、CEOやマネージャーが在り方を”常に”語ることを前提に、事業フェーズと事業特性、メンバーのマチュリティによりPush Management(トップダウン)とPull Management(ボトムアップ)のバランスをとり続けていく必要があると考えています。
また、スタイル自体を大きくかえる必要がある際には、より丁寧に、できるだけまえもったアナウンスをしながら、コンフリクトを最小限に抑えて軟着地させていく必要があるでしょう。
粗々ではありますが、事業フェーズと事業特性、メンバーのマチュリティにより分類すると、下記のような図で表現できると思います。
上記図において、青枠で表現される事業に該当していれば、本書の内容を強く意識した組織とカルチャー作りが有用と考えています。また、事業によって全く上記の前提が異なるケースもあるでしょう。そうした場合には個別のフォローアップが必要なケースもあります。どんなケースであっても、シンプルな施策だけではハマらないのが事業というもの。うまくバランスさせながら、あるべき状態の議論の土台にしていただけたら幸いです。
本書はこれから経営を学ぶメンバーへのエールだ
最後に、本書はCEOやマネージャー向けの本であるだけでなく、彼らマネジメントから発されるメッセージの受け手となる、メンバーへのエールでもあると感じました。受け身になることなく、こうしたメッセージをきちんと受け取ると共に、どういうフェーズにある事業には何が求められるかを意識しながら、自身のキャリアや成長と紐づけていくのが良いと思います。
ぜひご興味を持たれた方は、原書も手に取ってみてください。
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