The Qualified Sales Leader解説④Championを握れているとはどういうことか
こんにちは。Magic MomentでAccount Executiveをしています、渡邊(@Yusuke_W8)と申します。前回に続き、”The Qualified Sales Leader: Proven Lessons from a Five Time CRO”の第4弾、解説やっていこうと思います。
前回はChampionをどのように見極めていくか?について解説していきました。今回はChampionをどう握るのか、というさらに核心にせまっていくので、前作を読まれていない方は一読いただくことをおすすめします。
本noteを理解いただくために必要な前提知識↓
では、今回は4回目、見極めたChampionをどう握っていくか、について解説していきます。
Championを握れているとはどういうことか ←今回の内容
Championからの信頼を獲得する
すべてはここから始まります。信頼を獲得するまでは、前回ご紹介したような、見極めるための質問や依頼はすべて、エンゲージメントを下げることにつながります。商談は一連のプロセスであり、その中でも最もこのプロセスが前後してはいけないものだと認識し細心の注意を払いましょう。
大事なことだから、何度でも書きます↑
彼らChampionは小さなペインには見向きもしませんし、準備をしていない営業とは交流しようとしません。何もなければ、ペインもなければ、緊急性もなく、払うお金も、営業への信頼もないわけです。パートナーとなるには、そう言う初期状態から、話を聞くことにreadyになってもらうために、まず信頼獲得から始めなければなりません。
信頼を獲得する
Championの信頼を得るために前提となる基本スタンスは下記の2つです。
売り急ぐ営業は嫌われるというのは常ですが、彼らは顧客・ユーザーをきちんと知ることなく提案してしまっているので嫌われているわけです。
では、具体的にはどんな準備をしていく必要があるでしょうか。本書の中ではシンプルな3つのステップとして紹介がされています。
そしてこの3つをぐるぐると、終わることのない問いかけの連続によって、信頼を勝ち得ていくのだと述べられています。わかったふりをせず、顧客の課題に真に耳を傾け続けるスタンスこそ重要だということです。
どんな企業であっても、そこにユニークな独自性や価値の源泉が隠れています。また、日本においては、特にSaaSを提供する会社にとっての難しさとして、SIerというプレイヤーにより、特殊で複雑に絡み合ったシステムの繋ぎ込みの状況を理解する必要があります。その時に、1を聞いて10を知るなんてことはどだい無理な話で、最初から全て学ぶんだというスタンスで、調べればわかるものを除いては、質問の量が多ければ多いだけ、顧客を知ろうという真摯なスタンスであると認知してもらえるでしょう。
Championはどのように信頼を評価するか
Championは3つの期待に対して信頼性を評価します。
ソリューションのビジネス価値
ビジネス課題を解決するに信用できるのか?ROIの観点で、現状のペインを解決してあまりある将来的な旨味があるのか?ビジネスゴールに向けて大きなインパクトをもたらしうるソリューションなのか?
会社として発揮できる価値
プロダクトを用いて実行する際に、Championへの支援が機能しうるのか?ユーザーがソリューションに適応する手助けが機能しうるのか?環境にプロダクトが適応するように支援できるのか?
営業が示した体験価値
購買プロセスにおいて、営業が信頼をどれだけ積み上げることができたか?導入を成功裡に収められる味方でいることを、デモンストレーション中に示すことができたか?全体を通じて、いち営業からビジネスパートナーへの関係性の昇華ができたか?
こうした期待と、パートナーがそれを実行できるかをはかっている期間は、不安の解消をおこなっているとも言い換えられるでしょう。不安が明確になり、差分が埋められることを示す必要があります。ここは、できるだけ速やかに、少ないストロークで顧客が安心できるゾーンへ導いていくことで信頼を勝ち得ることができると思います。
顧客のニーズと自社の価値のすり合わせにおいて、合意点に至るまでの巧拙を抽象化してみるとこんなイメージになるかなと思います。
勘所がある営業は、きちんと顧客と合意点に辿り着くことができます。上記表でいう右側の2つですね。しかも初回でほぼニアピンまで持っていける右下の営業がもっとも信頼されます。ついで右上。質問の回数は多いけれども、真摯なスタンスはしっかりと伝わると思います。一方で左側は顧客と合意点には辿り着けません。左上のように勘所の悪い質問をし続けると、顧客のリソースばかりを奪い、途中で愛想を尽かされてしまいます。左下は、初回商談で分かった気になってほぼ質問をせず終わってしまっている状態で、全く噛み合わずに終わる形になります。
ゴルフくっそ下手で断念した私が言うのもなんですが、ゴルフに近しいのではないかと思うんですよね。風やグリーンのコンディションを読みながら(アイスブレイク)正しいフォームと筋トレ(ロープレと準備)で強烈な一打でニアピンにつけるイメージ。やっぱり筋力がなければ、右上のように何打も打たなければならない訳で。左下、左上、右上、右下の順で、うまく真摯なスタンスは崩さないまま、少ない質問数で相手との合意にこぎつけられるように、トレーニングをしていきましょう。
余談にはなりますが、生粋の体育会人間である私は、正しいと思われる手本の所作と、それに近づける反復練習によって無意識領域にできるだけ多くの所作をもっていけるか、ということを大事にしています。陸上部の頃は走行フォームを無意識化にもっていくまで何度もビデオ撮影⇄走行を繰り返していました。サッカー部の時は首振りや基礎的なボールコントロール。ラクロス部の時はクレードルとよばれるボールキープの技術や、毎日の壁打ちによるパスキャッチ、途中からはダッジとよばれるフェイントの際の、足首の向きと足の設置面といった細かい部分まで、無意識下にするために気持ち悪いくらい反復練習をしていました。商談もスポーツと同じ、限られた時間内での一瞬の判断で結果が変わるものです。相手を観察し、複数用意した手札から適切な一手を打つ、その判断に視覚と脳のリソースをあけておけるかが重要なわけです。
そして、営業においてのそれは、リクルートで教わった”念仏”と呼ばれるスクリプトレベルまで落としたトップ営業の型を何度も何度も練習することでした。複雑で変数の多すぎるエンタープライズセールスこそ、この基本の所作を習得し、”相手を見る”ことに集中するのが本質的だと私は考えています。
Championの現在地を知る”アイスブレイク”
本書には記載がありませんでしたが、ゴールがあればスタートがあるということで、上記の信頼を勝ち得る上で営業により差が出るのが、現在地を知ることなのではと私は考えています。これまでさまざまなイニシアチブをリードしてきたChampionであっても、その商談においての前提知識や理解度は下記の変数によりばらばらです。
類似領域への過去検討やソリューションに利用者として触れた経験
管掌領域の担当の長さや、キャリアの踏み方による課題への解像度
プロジェクトの有無、あれば進行度合い
そしてこれらの情報は、実は半分雑談のようなアイスブレイクの形で聞いていくこともできる内容です。(この領域のソリューションを実際に導入されて手を動かしていたのですか?この部門は長いんですか?プロジェクトはだいぶ進行されたのですか?等)
私はこれまでアイスブレイクは、趣味の話のようなテーマでも何でもよいと思っていましたが、帰り際のエレベーターまでの雑談のような機会がなくなったコロナ以降では、より意識して商談冒頭のアイスブレイクを緻密に事前準備しておくと、商談の結果が段違いに変わってくると思うようになりました。
ChampionのPersonal Winを知る
さて、上記のアイスブレイクで空気感をつくり、本音を引き出して把握しておくべきなのが、”Personal Win”です。主に、下記のようなものがあります。
”Personal Win”は、何を重要視しているかという価値観そのものであり、Championほど影響力を持っているのであれば、一定その会社のカルチャーと重なる部分が大きいと考えています。
このときに、ワークエンゲージメントを左右する4つのPの観点で、お客様の会社のカルチャーがどのPに寄っているか?という仮説を持って問いかけをしてみると、比較的捉えやすいのではと思っています。
例えば、人を大事にするカルチャーの会社なのであれば、
「御社は社員を大切にされている印象で、生産性の改善にむけたさまざまな取り組みを記事で拝見いたしました。すごいですよね。〇〇さんも、生産性にはこだわりが強いんでしょうか?」
という質問になりますし、名誉・待遇を大事にするのであれば、
「御社は皆さんが切磋琢磨して、野心をもって勢いあるカルチャーだと記事で拝見いたしました。すごいですよね。〇〇さんも、競争環境のなかで日々バチバチやられてるんですよね?」
といった質問をしてみるとその反応で価値観を推し量れるでしょう。
確認できた価値観をもとに、Personal Winが想起されるようなコミュニケーションを要所要所でとっていくと、自然と同じ目線で同じゴールをめざせるようになっていきます。
Championを教育する
Championを教育できないと、セールスプロセスの後半で負けることになるでしょう。Championがインターナルのミーティングで、競合や反対者に詰められた時に、地に足つけた論調で話をできることが重要になります。
Champion候補であると認識できたら、セールスは売ることでなく、教育することに変わっていきます。Championにインターナルの営業になってもらう必要があるのです。
Economic Buyerとのミーティングの前に、受け答えを完璧にするためのすり合わせ、という題目でミーティングをするのもよいでしょう。その際に、Economic Buyerから問われる可能性のある質問リストと、その回答について、反論、競合について、コストの妥当性、ビジネスインパクトの定量評価にいたるまで、ありとあらゆる準備をChampionが驚くレベルで用意をし、内容を共有しましょう。
どの営業組織も、オブジェクションハンドリングのようなトーク例を作っているかと思います。ただ、一般的なプロダクトへの質問の範囲にとどまっていることも多いと思います。”Economic Buyerからの抽象度を上げた問い”と”会社個別の細かな定量見立てへの問い”に対して、解像度高く準備をできることで、ぐっと商談が前に進む可能性が上がると思います。
何気ないストロークでこれを準備し渡せる営業に顧客は魅了されるでしょうし、きちんとわからないことも含めてこの質問集を完成させようとChampionと共謀できる営業は信頼されるでしょう。
Championを握れている状態とは
上記のように、信頼を獲得し、モチベーションの源泉となる"Personal Win"を把握してから、問いかけと教育でChampionを握っていく。
ただ、結果論として、握れているかどうかは、Championの言葉ではなく、実際の振る舞いと通過したプロセスから確認するしかありません。マネージャーであればメンバーに、メンバーであれば自分自身に、下記の問いを投げかけてみて、確認をしてみましょう。もちろん、100%握れている状態はありえません。Yesが多ければ多いほど、握れている状態だといえるので、そこを目指していきましょう。
こうした問いにYesと答えられるということは、顧客への働きかけ方を理解できているということであり、プロセスが正しく進んでいることを示しています。
ここで忘れてはならないのは、前回のnoteでもお伝えしたように、競合や反対者にもChampionがいるということです。明確な理由なしに、Economic Buyerとのミーティングまで、なぜか間があるときや、リスケになった時などは、見えないところで競合や反対者のChampionが働きかけをおこなっているか、実は自分達が相対しているのはChampionではなく、かませ犬として提案を要求されていただけだった、ということもあるでしょう。
原理原則(早い方がいい、安い方がいい、楽な方がいい、確実な方がいい)を常に忘れずに、違和感のある振る舞いをされたときに、敏感に気づけるようにしましょう。そして、それがなぜ起きているのか?ということに考えを馳せ、打ち手を打つか、カードを準備しておくようにしましょう。
問いと、原理原則と、違和感。この感度が優れている営業が、いわゆる”臆病でネガティブなシナリオを常に想定できる”エンタープライズ向けの営業だと言えるでしょう。
Championを握るために、スタンスと、スキルと、客観視を大切に
以上、7000字を超える大作となってしまいましたが、”握る”という言葉一つとってもいくつかの要素に分解できるということを解説させていただきました。
相手を理解するために、準備をし、私心なく問いかけを続けるスタンスは基本的な信頼の要素ですし、スキルは現在地とゴールの距離をはかり、少ない打ち手でそこに連れていくための磨き続ける能力です。そして客観的に振る舞いを見つめ、違和感に気づき打ち手を打ち続ける。変数が多いエンタープライズセールスの世界では、Champion候補の数だけ、やらなければならないことは違います。”できた”という状態があり得ないからこそ、ずっと磨き続けなければならないのです。磨く方向感の指針として、今回の解説が参考になりましたら幸いです。
さて、次回はいよいよ最終回、Economic Buyerとのミーティングで何を準備すればよいの?というテーマを解説していこうと思います。気づけば3万字近い大作になりつつありますが・・・w
最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
EBとのミーティングで準備すべきもの ←次回の内容
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