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科学の力でお酒を再発明する海外サステナビルスタートアップ

友人との親睦や、取引先との会食、家族との団欒など、食事や人と過ごす時間をより楽しいものにしてくれる「お酒」ですが、昨今のステイホームで友人と会う機会や仕事の会食などが減り、お酒を飲む頻度も減りました。

健康を気遣うという意味では非常に良いことなのですが、お酒の楽しさはやめられないもので、私もたまに飲む機会があるとついつい飲み過ぎてしまいます。


古くから自然の中で作られてきたアルコールには様々な種類がありますが、基本的には穀物や果物などの糖分を発酵する製法で作られています。

自然由来の製法で作られている印象がありますが、海外でもよく飲まれる蒸留酒などは、その蒸留工程で強い酸性水を排水したり、加熱にあたって多くの二酸化炭素を排出したりするため、環境への負荷が指摘されています。

加えて人体への影響という意味でも、「酒は百薬の長」とは言えど、少なからず健康への悪影響があることが様々な研究から指摘されています。

私自身も飲み過ぎはよくないと思いながらついつい飲んでしまうのですが、お酒を飲む楽しい時間をより長く味わっていくためにも、体にも環境にも負荷の少ない「新しいお酒との付き合い方」が必要になってくるでしょう。


今回は、世界を見渡して私が気になった、人間関係をスムーズにし、我々の生活をより楽しいものにしてくれるお酒について、サステナブルなアクションに取り組む三社をピックアップし、未来の事業のヒントを探っていきます。


1. CleanCo, UK

2019年創業のロンドンのスタートアップで、ノンアルコールおよびローアルコールのスピリッツを製造・販売しています。

製造しているスピリッツは、ジン、ラム、ウォッカ。いずれも伝統的な蒸留製法で作られ、それぞれのスピリッツが持つ風味や味わいは残しながらもアルコールとカロリーを抑えた商品を販売しています。

アルコールを少しだけ楽しみたい人や、アルコールが苦手な人にとって、通常と同じ香りや味わいを再現しながらアルコール分とカロリーのみを抑えることに成功したスピリッツは、様々なシーンで長く楽しめる商品として人気を博しています。

ビールやワインなど、同じようにノンアルコールの製品はたくさんありますが、通常のアルコール製品とかなり味が異なったりして、どこか物足りなさを感じてしまうことが多いです。その中で、CleanCoはその差異を極限まで減らし、風味や味わいはそのままにアルコール分だけを抑えた商品を生み出しています。

彼らは今後も様々なスピリッツを生み出していくということで、私が好きなウイスキーや、焼酎などの他の蒸留酒もそのうち生み出されるのではと期待しながら、次にイギリスを訪れた際にぜひCleanCoのスピリッツを味わってみたいと考えています。



2. Air Company, US

こちらは2017年にブルックリンで創業されたスタートアップです。空気中の二酸化炭素と水からアルコールを生成する手法を開発し、その手法により製造したウォッカを販売しています。

二酸化炭素からエタノール(アルコールの化学名)を生み出す製法自体は、様々な機関で研究され科学的には実現可能な技術として知られていますが、多くの量のアルコールが得られる(収率が高い)手法はなかなか生み出されていませんでした。その中で、AirCompanyは太陽光と水と空気だけで多くのアルコールを生み出す技術の開発に成功しました。

冒頭でも書いた通り、アルコールを製造する際、その蒸留工程で多くの二酸化炭素を排出する企業が多く問題視されつつある中、AirCompanyでは製造1リットルあたりで8本の木が吸収するのと同じ量の二酸化炭素を削減しています。

研究開発の分野でも、昨年新たに非常に高い収率で二酸化炭素からエタノールを生み出すことのできる触媒が発見されたこともあり、二酸化炭素から飲料や燃料としてのアルコールを生み出す企業が今後ますます増えていくことでしょう。



3. SinFooTech, Singapore

こちらは2016年に創業されたシンガポール発のスタートアップです。

豆腐の製造工程で生まれた大豆由来のホエイプロテインをつかったアルコール飲料を製造・販売しています。

今ではスーパーフードの一つとして世界中で楽しまれている豆腐ですが、その製造工程で多くの大豆由来のホエイプロテインが副産物として生成されています。

我々日本人にとっては「おから」として知られるものですが、世界中の膨大な豆腐の需要に比して、食品としての「おから」のニーズはそれほど多くなく、また「おから」自体の品質劣化が早く、日持ちしないこともあって、一部が食糧や家畜の飼料として活用される他は、大部分が廃棄されています。

SinFooTechはその廃棄される「おから」に着目し、特殊な製法で発酵することで、アルコール飲料を生み出すことに成功しました。咲智(Sachi)と名づけられたこのお酒は、日本酒のような味わいで度数7%のアルコール飲料として、レストランなどで提供されています。

大豆の栄養成分であるイソフラボン(ポリフェノールの一種)がお酒に含まれているため、ポリフェノールの抗酸化作用で知られるワインと同じような効用が期待できるとのことです。

日本酒の味わいを持ちながら、ワインの抗酸化作用を持つこの「咲智(Sachi)」が世界の日本料理店を席巻する日もそう遠くないかもしれません。



今回は、我々が日々楽しんでいる「お酒」が、様々な手法で環境や健康に配慮した製品へと進化している様子を感じることができました。いずれも人々や社会が感じている課題意識を、科学技術の力を使って解消しようとするスタートアップの姿勢が垣間見えます。

科学技術の力を使って生み出された新たなプロダクトは、周囲の環境自体を変え、既存の価値観を変える力を秘めています。2000年以降、通信技術が社会を大きく変えてきましたが、今後バイオテクノロジーや化学など、これまで以上に多様な技術が様々な領域で、我々の価値観を変えていくことでしょう。

次回も引き続き、私自身の事業開発の参考に、世界のSustainability Businessについてリサーチしていきたいと思います。

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