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【シない二人】#16 着火

離婚

ずっと打ち消していた言葉だが
前回親友達と会った後から
少し意識するようになっていた

性の不一致というのは離婚事由としてアリだけど
そんなの周りに何て言うの?
恥ずかしくて本当のことなんて言えない

それに健次郎と別れて
誰かとまた一から関係を築いて結婚…
そんなことできる?
健次郎ほど長い歴史と共に
信頼関係を作ってきた相手に
今後出会えるとは思えない

だからと言って
このまま永遠に誰ともシないで死ぬなんて
想像しただけで恐怖

考えすぎてよく眠れなかった
「土曜日なのに目覚めちゃった…」
まだ日が昇ってまもないくらい
週末にこんな早起きもったいないなー…
「あれ?」
フト隣に寝ているはずの健次郎が
既にいないことに気づいた
今日は土曜日にしては珍しく
昼から出勤って言ってたはずなのに
こんなに朝早く起きたんだ

私も二度寝できそうにもないし起きちゃおうかな
寝室からリビングのドアを開けた途端

「!!」

健次郎がビクッと反応し
咄嗟に見ていたスマホをパッと隠した

「え…、何?」

「何でもない!」

「何でもなくないじゃん!スマホ見せて」

「いや、えっと」

さらに隠そうとした彼は逆に手を滑らせ
スマホ画面が私の方を向いて転がった

「…これ…」

画面の中で濃厚な絡み中のAVが流れる

は…?
言葉が出ない
なに
どういうこと

一瞬にしてパニックになり呆然と佇む

青ざめている健次郎は
慌ててスマホを回収して黙って下を向いたまま

「え…何、AVは見るの…?」

数分の気まずい沈黙の後、やっとの一言

「いや、見てるっていうか」

「見てるじゃん」

「ん…まあ…」

「なんなの、なんなの本当に……本当に
馬鹿にしてるの…」

この3年間の
色んな感情が絡まり合って湧いてきて
自分でも信じられないくらいの
激情に飲まれそうになる

「ふざけるな!!」

気づけば私は泣きながら大声で怒鳴っていた

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