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“あの社長”その2 小ネタ社長たち


『引き寄せの法則』というものをよく聞く。

なりたい自分を想像したり、欲しいものを声に出したりするとそれらを引き寄せるっていうあれである。

私の場合、意識しなくても動物全般とちょっと変な経営者などを引き寄せるらしい。
動物はかわいい。動物好きだからどんな動物でも引き寄せられたものはかわいい。子供のころは毎年3~5回はコウモリが家に迷い込んできたし、玄関にウンコが落ちてる!?と拾おうとしたらツバメが寝てるし、実家で化粧してたら鏡の中、私の背後から見知らぬ漆黒のラブラドールレトリバーがこちらを覗き込んでるし。(実家は雑種)
あぁかわいい。


でもあの社長たちがかわいかったためしがない。でも比較的後々になるとネタになるから感謝だ。


今回は“あの社長”その1 情緒不安定・歌う社長のようなエピソードでなく、サザエさんのエンディングのような小ネタ社長をチマチマ紹介する。



几帳面とは…な社長


この会社は一人目妊娠中にアルバイトとして数週間だけお世話になった。DTPなどがアナログからデジタルへ急速に移り変わる時代に、アナログにしがみつくあまり社員が一人もいなくなってしまい、とりあえずのアシスタントとして雇われた。

仕事柄か、とてもセンスのいい社長さんで会社のインテリアやBGMなどにもこだわりがあり、常に酒が飲みたくなるようなJAZZが流れていた。

そしてアナログにしがみつくだけのことはある、とても細かい性格の人で、CDは絶対にABC順だし、雑誌のテキストが1mmずれているだけでも気づくようなタイプだった。
私はと言えば真逆で、ベックのCDジャケットを開けたらウルフルズのCDが入っているし、パンツが無くなるまで下着泥棒されないと取られていることに気付かないようなタイプである。

が、しかし。この会社のおトイレ、今まで見たことないくらいに真っ黒のサボったリングがくっきりなのである。

他にできる仕事もないので暇なら掃除をしていた私が「トイレブラシはどこにありますか?」と聞くと、「トイレブラシってさぁ、あれ一本あるだけで急に所帯じみない?俺嫌いなんだよね」ときた。


いやいやいやいや、トイレブラシいやならしまうとこ作ればいいじゃない?それよりもこの岩場のカキみたいにちょっと立体的にへばりついてるサボったリングは気になんないの?なんなの??


結局、後にも先にもあんな立派なサボったリングは見たことないままその会社とはおさらばして、のちのち移転していたようだけど。移転先でもサボったリング、育ててますか?社長。。。



呑めれば採用。バブル忘れられない社長。


就職氷河期の底の底だったころ、求人自体が少なかったので、見かけた求人は手当たり次第応募していた。
その中で珍しく「急募」「学歴不問」「経験不問」「まずは社長に付いて仕事を覚えていただき、慣れたら全ての業務をお任せします」という何でもアリの求人。あやしい。あやしすぎる。この就職氷河期に誰でもいいからとりあえず来てみてなんて。

とりあえず応募してみると即面接。
小さなオフィスビルのワンフロアがその会社だった。
ノックして入ると、20人分くらいのデスクとパソコン。その一番どん詰まりに社長の席。不思議なことに出迎えてくれた女性と社長しかいない。
「あれ?取材?みなさん取材ですか??出払ってます?」とそわそわしていると、履歴書を出すより先に「お腹減ってる?お酒飲める?ランチ行こう!ランチ!ランチ面接!!」
女性の方は私はいいですと断っていた。
なに?ここだけバブル?よくテレビで見た人材確保のために企業が学生にご飯奢るみたいなやつ??

自己紹介もないまま会社の前の小さなイタリアンレストランに連れて行かれて「とりあえず」と赤ワインで乾杯させられ、ワインを飲みながら履歴書に目を通す社長。
社長「いつから来れるの?」
私「現在無職ですので、採用いただければすぐにでも…」

その後は仕事の話などは一つもなく「お酒はどれくらい飲めるの」とか「普段は何飲むの」とかそんなことばかり。
そして会社に戻るわけでもなくランチが済んだら解散である。


「なんだこれ?」と思っていたらその日の夜に会社にいた女性から電話があった。
「社長は採用でって言ってますが、カッカさんはよろしいですか?あの、私今月いっぱいで辞めてしまうのでできるだけ早く引継ぎしたいんですけど」

おやおや?おやおやおや?
私「引継ぎって、他の社員の方は…?」
女性「あれ?社長から説明受けていません?んも~。。実はご覧いただいた通り今会社には社長と私だけです。まぁ、借入でもできれば小さな事務所に引っ越すんじゃないですかね。で、仕事は社長ができるんですけど、とにかくデジタルに疎いんで、データのデジタル処理とか、デジタル入稿とかサポートしてもらうだけでいいんで!」

聞いてねぇし。酒しか飲まされてねぇし。
借入しないと引っ越しもできないって!!潰れんじゃん!もうそこまで来てんじゃん!!

もちろん採用はお断り。が、その後、3回ほどその女性から「どうしてもダメ?ど~してもイヤ?」と電話がかかってきた。

絶対いや。



社長とじゅん子の秘密


上の2つのエピソードでもそうだったけど、新卒のころはまだまだバブルを忘れられない社長さんも多く、かといってベンチャー企業なんてのは出始めも出始めで、ブラック企業やセクハラパワハラを訴えるなんて概念もそんなになかった悲しい世代。企業を選んでる余裕もなかった。

一瞬入ったけど「ここはやべぇ」とおもって即退社を決めた会社があった。

そこの社長はバブルを擬人化したらこんな感じだろうな。というほど黒光りしたみのもんたであった。もんた社長は形だけのバブルではなく、会社の売り上げの割には羽振りが良かった。一番下っ端の私にも週に1度はランチをごちそうしてくれ、それが毎回、1人前5000円のうな重とか、昼からテーブルがクルクル回る中華とか。
でも一つ嫌なことがあった。
年のころは50中盤くらいの社長秘書という名の愛人じゅん子である。(仮名)
社内で唯一の女子だった私がもんた社長に手を出さないようにけん制していたのか、はたまた本当に女同士としてかわいがってくれたのかわからないけど、とにかく常にじゅん子に見られ、指導された。

まず入社して早々、百均で買っていったスリッパを持参したら、往年の浅野敦子のトレンディーな演技を200倍に煮詰めたような言い方で「んも~ぅ、そんなことだと思った!私がね!特別にスリッパ用意しておいたの!他の社員の子にはしたことないのよ!女同士だから特別ね!」と言われ、出てきたのはあの独特の花柄の織物で有名なおばちゃん御用達ブランドのヒールのあるスリッパだった。

そして、幼少期からピーコのファッションチェックでの「つま先の開いているミュールやサンダルを履くときは素足!ストッキングの縫い目なんて見せちゃダメ!」というピーコの言葉を信じて素足でいたら、「んも~ぅ!ダメダメ!二十歳を過ぎたら素足なんてダメよ!私のこれあげるからどーぞ!」
と、ひざ下丈の肌色ストッキングをくれた。膝丈バミューダパンツにひざ下丈ストッキングである。とんだ罰ゲームだ。


そんなことが続く中、「女同士、みんなに内緒で飲みに行こうか!」と誘われた。さすがもんた社長の愛人だけあってじゅん子もバブリーである。移動はもちろんタクシー。入り口でコートを預かってくれるちょっといいレストランでじゅん子流女論を語り、気分が良くなったところで「2件目レッツゴー!」(言い方がすでに80年代)

ついたところはスナックだった。そこで何も言わずともママが出してくれたボトルにはハートのチャームに「もんた♥じゅん子」と書いてあった。

あ、だめだな。と思った瞬間だった。


ちなみにここまで書いてきたが、スリッパのプレゼントやファッションアドバイスや女性論披露までご指導いただいたものの、決して見た目は浅野敦子ではない。
女らしさとフェロモンともんたへの愛を練って固めた土偶だった。


「もんた♥じゅん子」を見てしまった私は、その後普通に社長と秘書さんとして関われるわけもなく、直属の上司がまだ30代前半なのにタモリ式入浴法を実践していて体を石鹸で洗わないため体臭がひどくて頭が痛いのもあり、さっさと見切りを付けて辞めてしまった。

唯一の女子従業員がたったの1か月で辞めてしまうことに怒るかと思ったけど、じゅん子は土偶の顔で器用に田中みなみのような表情を作り出し残念がってくれた。そしてお別れにスリッパとおそろいのハンカチをくれた。


じゅん子のくれたスリッパとハンカチは、実家の母でさえ使わないままだった。



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