見出し画像

【読書記録】追憶の烏(阿部智里)

【あらすじ】
人間の代わりに「八咫烏」の一族が支配する世界「山内」。猿との大戦後に正式に即位した金烏・奈月彦は、大貴族の四家の負担を増やし、娘の紫苑の宮を跡継ぎとすべく動いていた。外界に留学中の雪哉はその日、信じがたい一報を受け取るー『楽園の烏』に至る20年間に何があったのか?(あらすじより)

【感想(ネタバレあり)】

八咫烏シリーズの第2シーズン!しばらく追ってなかったけど、第1シーズン読み返して、第2シーズンも読まなければ!となって楽園の烏読んで、えっ、なんでこうなってるの?空白の20年間になにがあったのーーーとなり速攻買って読んだ1冊。

序盤は雪哉が見守る中、新年の挨拶の儀式で紫苑の宮が朝廷デビューしたり、花祭りで雪哉がこっそり紫苑の宮を連れ出してお花見したりする中で、紫苑の宮が雪哉に本当に懐いていること、雪哉も紫苑の宮を本当に大事に思っていて、できることなら普通の八咫烏としての幸せを手に入れてほしいと思っていることなど、2人の仲の良い姿を見てほっこりする(これが後の展開で心を抉ってくる)。

ちなみに花祭りでは真赭の薄と澄尾の子ども(しかも双子。1人は病弱で療養中。)が出てきて、きみたちくっついてたのね〜!と嬉しい気持ちに。身分違いの叶わない恋はそれはそれで…と思ってたけど、くっついてたらくっついてたで嬉しい。

花祭りのあと雪哉は外界に留学するんだけど留学中に、金烏崩御の知らせが入る。なぜ!急にそんなことに!しかも、奈月彦は帰ったら雪哉に意見を聞きたいことがあるって意味深な感じで言ってたのに!気になる!

奈月彦が死を察して、死に水を取らせるために息も絶え絶えに浜木綿の元に来たのは泣けた。本当に信頼し合った、同志のような親友のような兄弟のような素敵な夫婦だったんだな…尊い。そして辛い。

雪哉は報せを受けて急いで山内に帰って混乱の中で、長束と今後の算段を立てつつ、下手人の痕跡を探しに奈月彦が招陽宮から抜け出して向かったと思われる桜花宮に向かう。そこで同行していた千早と一緒に見つけちゃうんだよね、最後まで奈月彦を守ろうとした同期の明留の無惨な姿を。明留と一番仲が良かった千早の気持ちを考えたら胸が張り裂けそう…奇襲されて抵抗しているから遺体の損傷もひどくて、下手人に噛みついて離さなかったのか下顎も砕かれて…きっと千早に明確な落ち度があったわけじゃないけど、自分が奈月彦の警備を任されていた責任者で、主だけではなく親友も失ったとなれば、山内衆辞めちゃうのもわかるな…

奈月彦暗殺の首謀者は間違いなく長束の母親、紫雲の院である夕蝉。だけど紫雲の院は、なかなか自分が首謀者だという証拠を残さない。実行犯はトカゲの尻尾として見捨てられてしまう。

ところが今回のトカゲの尻尾は、なんと奈月彦の実の妹である藤波の宮とお付きの女房である元藤宮連の滝本だった!藤波の宮ここで出てくるんだーーーっていう驚きよ!1巻の烏に単は似合わないで、東家のあせびに利用されて人を1人死なせちゃって出家させられてたんだけど、1巻以降一切、名前すら出てこなくて(出てきてたとしてもおそらく1巻のエピソードが語られるときに出るくらいでストーリーを進める上では全く話題にならない)、存在すら忘れてたのに!でもそれは他のキャラクターも私達読者と同じで、本当にまさかと言う感じ。

藤波の宮は大好きだった兄の奈月彦を刺して自ら命を絶ってしまう。自分が過去に突き落として死なせてしまった八咫烏と同じ場所、同じ方法で。藤波の宮が奈月彦を指した理由ははっきりと描かれていないからわからないけど、奈月彦のことを異性として好きだったみたいだし、事件後の辛い生活や奈月彦が出家後一度も自分を気にかけてくれなかったことも合間って衝動的に刺してしまったように思えた。愛と憎しみは紙一重というか…

滝本は藤波の宮の尊厳を守るために、紫雲の宮を裏切り、紫雲の宮が事件の首謀者、実行犯は自分だということを告発して、紫雲の宮は無事に捕らえられる。これで一件落着と思いきやこの作者は毎回オチを2個用意してるんですよ…中オチと大オチの2つあるんよ…これは中オチなんよ…

真の金烏である奈月彦がいなくなってしまったので、前金烏代で奈月彦と長束の父親である捺美彦から、金烏代の地位を移譲して長束が即位し、奈月彦の娘の紫苑の宮が日嗣の御子となるはずだった。でも捺美彦が金烏代の地位を譲ったのは、もう1人いた息子、凪彦。まず凪彦誰?ってなるよね?今まで全く出てこなかったから。

年は2、3歳だから猿との大戦後、捺美彦が金烏代下りて引っ込んでしまった後に作った子ども。しかも相手はなんと、東家のあせびの君なんですよ〜〜あせびの君も藤波の宮と同じで、1巻から今まで全く出てこなかったのに!ここに来てまさかの新金烏代の母親ポジションに!てか奈月彦のお嫁さん候補で来てたのにその父親とできちゃうの!?何歳差なん!?なんで〜〜誰でもいいんか〜〜

ここで東家と南家が組んで紫雲の宮を陥れて奈月彦を暗殺→紫雲の宮も切り捨てる→金烏代に凪彦を立てる までが仕組まれていたことが判明する。まさかこんな展開になるとは…

浜木綿はもちろんブチギレで、若宮の屋敷となる招陽宮を占拠し、招陽宮は凪彦ではなく紫苑の宮がいるべき!兵を挙げて裏切り者を掃討すべきと主張。気持ちはわからなくはないけど、そんなことしたらたくさんの八咫烏の血が流れてしまうと反対する雪哉。

そんな中、大天狗が奈月彦の遺言書を持ってくる。その遺言書をには「全て、皇后の思うように」。雪哉絶句。でも浜木綿は当然だという。
「お前はただの一度だって、奈月彦を選ばなかった」と。

雪哉は主君に仕えてからすべてを捧げてきたと思ってきたつもりだったのに、主君は雪哉を信頼してくれなかった。なぜ、と思う雪哉の脳裏に浮かぶのは、2巻の「烏は主を選ばない」で出てきた長束の部下。主君のためにやっているんだと綺麗事を並べて自分の欲望に目が眩んでいた男。雪哉に「君もいつか、分かる時が来る。」と言っていた男。この人のこの言葉が、今になって雪哉に刺さるとは…作者怖すぎ…

雪哉は奈月彦本人ではなく真の金烏というポジションに尽くしていたのだと、奈月彦本人を見ておらずそのことを奈月彦には見透かされていたんだと、そしてそのことに奈月彦が死ぬまで気が付かなった自分に、愕然とする。

自分は何に仕えていたんだろうと自問自答する雪哉を連れ戻しに紫苑の宮がやってくる。雪哉は紫苑の宮に、自分と一緒に逃げてくれないか尋ねる。紫苑の宮がそれを断った瞬間、雪哉はもう今までの雪哉じゃなくなってしまう。今までも結構化物っぽい感じがあったけど、この瞬間からもう1段階上にいったというか、より恐ろしくなった感じ。今の雪哉が本当に心を捧げられるのは、紫苑の宮だけだったんだと思う。その紫苑の宮に拒絶され、雪哉は絶望しちゃったんじゃないかな。「烏は主を選ばない」で金烏の地位を捨てなかった奈月彦と紫苑の宮の姿が少し重なってみえた。この瞬間から雪哉は奈月彦や紫苑の宮個人に尽くすことはせずに、山内の存続のためだけになんでもやる存在になっちゃった気がする。

雪哉は浜木綿を叛逆の意思ありとして捕えようとするんだけど、浜木綿は招陽宮に火を放ち紫苑の宮と姿を隠して逃げ出す。招陽宮の鎮火の指示を待つ部下に雪哉は燃えるに任せろと未練なく言う。招陽宮は雪哉が奈月彦に仕えていたころの記憶が詰まった思い出の建物。それを未練なく見捨てる姿に、雪哉と奈月彦一家の決別が現れている気がした。

最後、真赭の薄と澄尾の子どもの片割れである葵(病弱な方)が官吏登用試験に来るんだけど、これがまた紫苑の宮にそっくり。葵が男社会の山内の朝廷でどのように活躍していくのか、いつか雪哉をギャフンと言わせてくれるのかを楽しみにしている自分がいる。

いつも文庫版出るまで待つんだけど、最新刊が2…24年の2月に出てて、文庫になるまで全然待てそうにない!

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?