葡萄と無花果

映画や本の感想について。etc。

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最近の記事

昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん(終)

中野くんはその後すぐ、新しいバイトを始めたとかで、ビデオ屋を辞めてしまった。 私はそのあと彼氏と別れた。中野くんに暴言を吐いたことが原因とかなんでもなくて、どうでもいいことで別れて、居心地が悪くてビデオ屋を辞めた。 そのあと一度だけ、中野くんの彼女らしき人をビデオ屋の最寄りのホームで見かけたことがある。 中野くんのブログに写真が載っていたことと、中野くんからけっこうふくよかと聞いていて、パッと分かった。 実は、めちゃくちゃ中野くんのブログを、私はひっそり追っていたのだ。 ふ

    • 昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん⑤

      中野くんのブログで、 中野くんに嫌な上から目線の説教を言ったであろう男が自分の彼氏だと気づいた頃、ちょうど中野くんが休憩から戻ってきた。 「中野くん、この、昨日のブログ。」 「あ、見ました?」 「もしかして、早番の橋本くん?」 「あ、そうです、そうです。よくわかりますね。」 そりゃわかる。まったく同じ言葉を吐かれた。 なぜなら私もサークル活動には入っていないからだ。 「…最悪だ。」 「まぁ、でも気にはしてないんですけど。」 中野くんのブログはまだ下に続いていた。それを

      • 昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん④

        中野くんは音楽と、彼女の話をするときだけ、少し元気になることがわかった。 中野くんの、彼女と作った歌を聴いたバイトの日。 それ以降、私は中番の夕方勤務から遅番の深夜帯に入ることが多くなり、引き継ぎくらいであまり話すことがなくなった。 その間に私は付き合っていた彼氏のことをあまり好きではなくなったり、 向こうも私のことをあまり好きではなくなっただろうなと思ったり、日々将来の事を考えるでもなく、 ただ学校とバイトの合間に好きなものを食べて、映画を見ることだけを楽しみにしてい

        • 昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん③

          「へえ!音楽って、バンドとか?」 「あ、はい、まぁ、色々…。」 また少しトーンが下がった。 私が急に食いついてしまったから引かれてしまったのかもしれない。もしくは、プライベートをオープンにするのを躊躇されたか。 「えっと、音楽、何聞くの?」 「色々聞くんですけど。一番はやっぱりこれですね。」 中野くんはさっと両腕を胸の前に、バッテンを作り、そのまま狭いビデオ屋のカウンターの中で、垂直に上に飛び跳ねながら、 「エーーーックス!!」 と、小声で叫んだ。 えっ!怖!一

        昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん(終)

          昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていたでいた中野くん②

          ビデオ屋のバイトは大学生のバイトが大半を占め、映画が好きか、音楽が好きか。 学生以外だとバンドを組んでいたり、俳優さんもいて、楽しいこともあった。 私がバイトを始めて一年くらいだった頃、中野くんは入ってきた。 中野くんは、ドランクドラゴンの鈴木拓さんにそっくりだった。 本当にそっくりだった。 メガネも似ていたし、喋り方とか、佇まいとか。とにかく似ていて、この人本当に鈴木拓の弟とかじゃないのか?と思うくらい、鈴木拓に似ていた。 唯一といえば、中野くんの方がだいぶ小柄なこと

          昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていたでいた中野くん②

          昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん①

          ここ一年、あまり元気がなかった。 誰の役にも立たなくて、足を引っ張ってばっかりで、落ち込んでばかり。 最近のコロナにまつわる事や閉塞感、 芸能人の自死とか、 そういったあまり明るくないニュースの打撃を、自分にはあまり関わりがないのに、 なんでもないふりをして、実はもろに喰らっているのかもしれない。 休日に一人閉じ籠って夕暮れの暖茜色でぼんやりとしている時間は何ら変わりはしないのに、ひとたびアパートの外に出れば劣っている自分に戸惑う。 順応する努力もしてないくせに、戸惑っ

          昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん①