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昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん①

ここ一年、あまり元気がなかった。
誰の役にも立たなくて、足を引っ張ってばっかりで、落ち込んでばかり。

最近のコロナにまつわる事や閉塞感、
芸能人の自死とか、

そういったあまり明るくないニュースの打撃を、自分にはあまり関わりがないのに、
なんでもないふりをして、実はもろに喰らっているのかもしれない。

休日に一人閉じ籠って夕暮れの暖茜色でぼんやりとしている時間は何ら変わりはしないのに、ひとたびアパートの外に出れば劣っている自分に戸惑う。
順応する努力もしてないくせに、戸惑って落ち込んでいる。



思い出す中野くんのこと。

ぼんやりと過ごす日々の中、普段出てこない昔の記憶がちらほらと泡のように出てきた。嫌なものも素敵な思い出も。

ふと、大学生の時にバイト先にいた中野くんを思い出した。もう10年以上前の話だ。
中野くんは今、元気に暮らしているんだろうか。


大学生の時、ビデオ屋でずっとバイトをしていた。理由は簡単で、従業員ならDVDを新作でもなんでも一本100円で借りられるからだ。
ビデオ屋で働いていなければ「ソドムの市」や「ピンクフラミンゴ」は見ていないし、「気狂いピエロ」も見てなかっただろうな、たぶん。

その時、そのビデオ屋で私には彼氏がいた。
180の身長と、それなりのコミュ力。どちらかと言えばカッコよかった(気がする)。
小学校からやっているサッカーが上手でその繋がりで友達が多い。
少し態度が横柄だった。

だけどコロナ渦で時間を持て余す今、その彼氏との〝楽しかった思い出〟は、
記憶の泡として浮かび上がってこない。

「そういうマイナーな映画見る自分のこと変わっててかっこいいと思ってるんでしょ?」

「〇〇さんがお前の事、エクステとかつけて調子に乗ってるように見える。可愛くなくなったって言ってた。エクステとりなよ。」

「今日のデートはスロットに行こう。葡萄ちゃんはやっちゃだめ。女の子なんだから。隣で見てて。」

…腹立つな。
ムカついた思い出しか出てこない。
けど、自分に寄り添った言葉をかけてくれなかった思い出も、それだけ自分がそういう関係性しか構築できなかったと言う、
コミュニケーション能力の成績表でしかないのかもしれない。

同棲しようかなんて話もあった。でも、その先のビジョンが浮かばない。
ダメな人間のくせに、彼氏の嫌な部分を見つけては見下していた。そして、そんな自分が嫌になった。
なんとなくの日々を過ごしていたある日。

学生中心で入れ替わりの激しいビデオ屋で、新しいバイトスタッフが入ってきた。

それが中野くんである。
中野くんは本当に瓜二つ、ドランクドラゴンの鈴木さんにそっくりだった。

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