見出し画像

昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん⑤

中野くんのブログで、
中野くんに嫌な上から目線の説教を言ったであろう男が自分の彼氏だと気づいた頃、ちょうど中野くんが休憩から戻ってきた。

「中野くん、この、昨日のブログ。」
「あ、見ました?」
「もしかして、早番の橋本くん?」
「あ、そうです、そうです。よくわかりますね。」

そりゃわかる。まったく同じ言葉を吐かれた。
なぜなら私もサークル活動には入っていないからだ。

「…最悪だ。」
「まぁ、でも気にはしてないんですけど。」

中野くんのブログはまだ下に続いていた。それを中野くん本人の前で読んだ。

〝別に彼の言うことを正しいとか思ってなくて、だからと言って自分が正しいとかでもなく。
彼は彼、僕は僕で好きに生きればいいと思うんですけど、簡単に人に、「人生損してる」なんて言葉の悪意を向けてしまう攻撃性にやられました。しつこくてちょっと落ち込みました。〟

うわぁ、そういえば最後にあった時に、なんかニヤニヤしながら言ってたな、中野くんて友達少ないらしいよ、とかなんとか。

「…気にしない方がいいよ、中野くん。」
「あ、はい、気にしてはいないです。」
「嫌だね、本当。気にしないでね。」
「はい、気にしないです。葡萄さんて橋本くんと付き合ってるとかじゃないんでしたっけ。」

中野くんは私の事をどうとも思っていないので、私の彼氏らしき人が暴言を吐いて嫌な思いをしたことも、それを綴ったブログを私が読んだことも、全く気にしていない。

中野くんが元気ない気がするというのは、本当に、ただただ私の思い込みで、本当に、別に気にしていなかった。レポートの提出日で寝不足らしい。しっけえうるせえなあいつ、ぐらいの気持ちだったようだ。

逆に私が落ち込んだ。
バイト後半戦は、私の顔から喜怒哀楽が消えた。

なんでって、中野くんと同じセリフを彼氏に吐かれて、私は落ち込んだからだ。
大学の授業はそんなに真剣に受けてないし、
サークル活動などで人脈作りもしてない。
将来も曖昧で、誰かが一生懸命に作って形にした映画をただただ傍観して、
バイトで稼いだお金を、高校生の頃から少しずつ始まった嘔吐過食症に費やしていた。

なんで私のように本当なんにもしていない人と、
中野くんが同じセリフを吐かれてしまうのだろう。

少し前に見た中野くんのブログには、こんなことが綴られていた。

〝僕は本当はX JAPANとか、kissとか、そういうのが好きで、今彼女とやっている曲とは全然違うんですが、彼女は歌うのがとても好きで、彼女が気持ちよく歌える歌を、これからも2人で作っていけるといいなと思います。〟

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?