昔の話　ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん（終）

中野くんはその後すぐ、新しいバイトを始めたとかで、ビデオ屋を辞めてしまった。
私はそのあと彼氏と別れた。中野くんに暴言を吐いたことが原因とかなんでもなくて、どうでもいいことで別れて、居心地が悪くてビデオ屋を辞めた。

そのあと一度だけ、中野くんの彼女らしき人をビデオ屋の最寄りのホームで見かけたことがある。
中野くんのブログに写真が載っていたことと、中野くんからけっこうふくよかと聞いていて、パッと分かった。
実は、めちゃくちゃ中野くんのブログを、私はひっそり追っていたのだ。
ふくよかで、とても可愛らしい、素の顔がニコニコとしている子だった。

ダラダラと長く描き続けたが、この文章を書いたのは一年くらい前で、久々に実家に帰って仕事から現実逃避して、そうするとやる事がなくて。
なんとなくiPhoneのアプリを整理していたら、この一年全く開いていなかったnoteが奥の、奥の方にあった。

残っていたこの文章をなんとなくちょっとだけ手直しして上げながら、
今、中野くんはなにやっているんだろうと気になった。

調べようと思ったけれど、中野くんの下の名前が思い出せない。彼女とのバンド名？も覚えていなければ、どこに住んでいたかも知らないし、連絡先も交換していない。

わずかな記憶の中から、そういえば、路上ライブ以外にも、〇〇町の小さなカフェバー▲▲でたまにライブをやらせてもらっていると言っていた。

なぜか私はそのカフェバーの名前だけを覚えていた。

中野　〇〇町　カフェバー▲▲

とか、色々駆使して検索すると、なんとヒットした。

中野くん、10年以上の時を経て、まだ、彼女と、バンドを続けていた。
ドランクドラゴンの鈴木拓そっくりだった中野くんは、何故か今はアフロっぽいパーマをかけていて、どちらかと言えばラーメンズに似ていた。
彼女は大人になって、ふくよかな美人になっていた。

彼らの音楽を聴ける媒体は、今はyoutubeになっていて、とても綺麗な、彼女の声量や声質を生かした、クラムボンでもX JAPANでもHYでもない、2人の音楽だった。

もしもどこかで中野くんとすれ違ったら。私は大学生の頃と比べてはるかに太った。ふくよかと表現された彼女さんとは比べ物にならないほどに。そして老けた。そしてそもそも中野くんは私の事を覚えていないだろう。
すれ違ったら、私だけ、あ、中野くんだ、と思うかもしれない。

私はなにも進んでいなくてダラダラと生きてしまって今を迎えてしまったけれど、中野くんは全然違った。今でも彼女と一緒に日々を丁寧に生きているのか、彼の仕事ぶりのように。

たぶん、ちょっとだけ中野くんに恋心を抱いていて、彼女がちょっとだけ、羨ましかったのだ。

なにかしなきゃなぁ、と思いながら、また年末をぼんやりとすごしてしまいそうだ。