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昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていたでいた中野くん②
ビデオ屋のバイトは大学生のバイトが大半を占め、映画が好きか、音楽が好きか。
学生以外だとバンドを組んでいたり、俳優さんもいて、楽しいこともあった。
私がバイトを始めて一年くらいだった頃、中野くんは入ってきた。
中野くんは、ドランクドラゴンの鈴木拓さんにそっくりだった。
本当にそっくりだった。
メガネも似ていたし、喋り方とか、佇まいとか。とにかく似ていて、この人本当に鈴木拓の弟とかじゃないのか?と思うくらい、鈴木拓に似ていた。
唯一といえば、中野くんの方がだいぶ小柄なことぐらいだろうか。
鈴木拓に似ているあまりに、裏で皆中野くんのことを鈴木と呼んでいたし、思わず「鈴木くんさぁ…」と声をかけるスタッフが本当に何人かいた。
中野くんのバイト初日。
声を発した時には、いや、もう自動ドアが開いて顔を見た瞬間には、バイトスタッフ全員が中野くんのコミュニケーション能力の低さを察した。
本人は自動ドアが開いた瞬間にスタッフに向かって会釈をしたつもりのようだったが、彼の首は10度も傾いていなかった。鋭い眼光でこちらを睨んでいるように見えた。
店長に連れられてスタッフルームを案内されていく中野くんの背中に、
「また暗そうなの入ったなぁー。」
と言ったのは、チャラい先輩だった。
バイトを一緒にしてわかった事は、中野くんはやはり少し暗かった。コミュニケーションがそんなに上手くなかった。
そして、仕事があまり出来なかった。
仕事ができないのは私も同じだった。
でも、仕事の出来なさと言うのは私と中野くんではジャンルが少し違い、
中野くんは飲み込みが遅い、そして、コミュニケーションが得意ではないせいであまり接客が得意ではない。だけど、丁寧な仕事をしていた。
一方、私は自分の雑さや凡ミスの多さや抜けを、なんとか(自分で言うのもなんだが)接客上で通用する愛嬌でまかないきれてはいないがなんとかギリアウトでまかなっていた。
皆に鈴木拓に似てるといじられ、コミュ障をいじられ、その中で丁寧な仕事をする中野くんを、私は密かにすごいな、と思っていた。
最初は目も合わせてくれなかった中野くんも、
3回、4回と、シフトがかぶるうちに、ポツポツと目を見て返事を返してくれるようになった。
5回目にシフトが被った時。質問をしてみた。
「中野くん、バイト馴れた?」
「いや、まだですね。」
「そっか。中野くん、映画好き?」
「いや、詳しくないです。」
会話終了。
「…じゃあ、音楽は?」
「聞きます、聞きます、好きです。自分でも音楽やってるんで。」
音楽の話になると、中野くんは会話が二行になる。
そして、少しだけ声のトーンが上がる。
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