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昔の話 ビデオ屋のバイトと、路上ライブをしていた中野くん④

中野くんは音楽と、彼女の話をするときだけ、少し元気になることがわかった。

中野くんの、彼女と作った歌を聴いたバイトの日。

それ以降、私は中番の夕方勤務から遅番の深夜帯に入ることが多くなり、引き継ぎくらいであまり話すことがなくなった。

その間に私は付き合っていた彼氏のことをあまり好きではなくなったり、
向こうも私のことをあまり好きではなくなっただろうなと思ったり、日々将来の事を考えるでもなく、
ただ学校とバイトの合間に好きなものを食べて、映画を見ることだけを楽しみにしていた。

それだけだった。


2ヶ月くらい経った頃だろうか。
久々に中野くんとまた、同じシフトになった。

忙しいからほぼ喋らなかったり、暇なときは5分くらい駄話をして、へえ、お笑い好きなんだね、とか、バンド仲間と飲んでる時は結構はしゃぐしダイブとかする、なんて話を聞いた。
ある日のバイトの日。その日は中野くんと二人勤務の中番だった。

「久しぶり、中野くん、元気だった?」
「はい、まぁ、元気です。」

相変わらず会話は続かなかった。

でもまぁ、なにか違和感がある。中野くん、元々喜怒哀楽が乏しいけれど、こんなに元気なかったっけ。もうちょっと会話もキャッチボールできていたはず、私。

中野くんの休憩中、私は暇を見計らってパソコンを開いた。たまにこっそり覗いていたので、すぐに検索ワードに入力した。
中野くんと、彼女のブログだ。

一番上のブログのタイトル、
「嫌なこと」をクリックした。

〝最近、バイト先で嫌なことがありました。前からちょこちょこ世間話をしている時に、自分のことを根掘り葉掘り聞かれたり、なんか説教っぽい事をされる事はあったんですが…〟

さーーーーっと血の気が引いた。
もしかして、これ、私のことか?たしかに色々聞いた。それが根掘り葉掘りだったのかも。
そんなに、嫌な思いさせたか。

えー、でも、そんなに嫌だったかな。
普通に話してるつもりだったけど。
やだ、私、説教めいたことなんてしたっけか。

そんな事をグルグル考えながら、
ゆっくり下にスクロールした。

〝そして、また、彼に言われたことに、ちょっと嫌だなあと思って〟

ん?彼?と、言う事は?
私ではない…?

はてなマークいっぱいのまま、下にスクロール。

〝彼は大学のサークル活動や飲み会をたくさんやってるとの事で。僕が、大学にはそんなにたくさん友達はいないとか、サークルには入っていないとか、将来の事、あまり決まってないとか、そんな話をして。〟

〝そしたら…「サークルとかで普通、学生は社会性を養うんだよ。先輩に、社会人になってからの事も聞けるし。なんにも入ってないなんて損してる。だからコミュニケーション能力少ないんだよ。
ちゃんと色々考えた方がいいよ。人生損してる。」って言われました…〟

ここまで読んで、誰がこんな事を言ったのか、わかった。
こんな事を言うのは、今私が付き合っている彼氏という存在の男だ。


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