文化観光とはストーリーテリングである
文化庁が推している文化観光。
詳しく書かれていることは読んでもらうとして、要するに文化財を見る・体験するにしても、すべて何らかのストーリーを語らなければ満足を与えられないことに気が付きます。
また文化庁では高付加価値を云々…ということをやたら推しているのですが、高付加価値と高単価をごっちゃにしている印象があって、そこはちゃうやろっ!とメッチャ思っている僕の心境は置いといて…。
わざわざ文化観光と書いてますが、世の中の観光資源はすべて文化観光に該当すると言っても過言ではないくらい、範囲が広いと捉えていたほうが商機を逃さないと思います。(っていうか過去遺物だけが観光資源ではない)
文化観光という切り口でユーザーを見たとき、代表例となるのが諸星めぐるさんの諏訪探訪の動画。独特のテンションを味わってほしい。
文化庁のセミナーとか聞いていて違和感アリアリなのは、諸星さんのような人をたくさん知っているから。
おそらく想像できないんだろうな…ヲタクの世界を。
ガチで文化観光を商用ベースに乗せるには⁉
僕らは今、5市2町の行政区を超えたエリアで、文化観光のブランディングを手掛けてみています。(2024年8月現在進行系のためこういう表現で)
ツアー商品開発のために必要な情報整備、しかけ整備、個人旅行客向けのセグメント別情報整備、商品開発などの企画をまとめる仕事がメインです。
文化庁が推しているやり方から結構ズレて企画をまとめていますが、冒頭にぶっちゃけていることが思考のベースで、マネタイズを考えると…ねぇ。
(観光庁のセミナーでも高単価推奨とか端々で言ってて、ユーザーの実像が見えていない感じという意味で頭オカシ…w←敵に回す表現)
さて、その中で統一ブランドを確立する軸…今回は「街道」。
街道中の「〇〇宿」が観光立ち寄りポイントとなるわけですが、現状全ての街道宿はストーリーテリングがうまくできていません。
各宿の成り立ち履歴説明はウェブやパンフレットに載っているのだけど、行政観光のプロモーションではそこが限界で、まして宿と宿をまたいだ信仰に関係するものや文化・習慣の伝搬について、エンターテイメント(昔話等)を元に現代アレンジして伝えるような手法は使えないのが現状です。(行政区がまたがるのでクリアできない複雑なムリゲーに挑むことになる)
つまり商用ベースに乗せるための土台が整備できないのです…。
だから民間でやろうじゃないか‼
商業観光地としては整備が追いついていないけど、そこそこ人を集めている場所は存在します。その場所の中でも商業者間では温度差があって、全員が前のめりではない中、前のめりの商業者で連携して、ちゃんとサービスとして成立するものを作ろう!
そうした気持ちを持った人たちにとって、行政区の壁は高く、もっというと壁の前後に堀があるくらいのイメージが最適な答えとなっています。
そうした現状を打破できるのは、行政の壁を軽々乗り越えられる民間での動き。しかし高度成長期から今まで、エリア観光は行政にまかせてきた歴史があり、マーケティングはJTBなどの大手ツーリスト会社に任せてきた感覚がなかなか抜けきらない…正確には何をどうしたらよいかわからない状態で、手探りで始まったのが今回の流れです。
ぶっちゃけステークホルダーが見つけづらいというか、間接的ながら行政観光の手助け(入り込み客数指数への影響)にもなってしまうかもしれない。という懸念が出てくると、予算組とプロジェクトの設計が難しいのです。
コンテンツ企画から世界観を作る
広域を統一したブランドで結ぶ時に必要なものは「世界観」。
シンボルマークやゆるキャラじゃねぇ。それは何らかの世界観フックがあってはじめて機能するもので、今の世代はその前提が崩れ始めていることを捉えないといかんのです…(そこを忘れて流行りに乗ってるだけのところが多いと思ってる〈優しい表現〉)
世界観っていうモヤッとしたものは、コンテンツ企画を考える時に最も重要なものの一つ。
広域エリアを観光ブランドとして統一する時にもやることが似てます。
コンテンツの王道であるゲームやアニメ、漫画の場合、実在しない世界を作り上げることがほとんどなので、異世界ファンタジーなどがわかり易い例ですが、前例作品の世界観を土台にしてその上に組立てていくという苦労をしてます。
反面、今回の舞台となる街道は実在するので、イメージの元となる「歴史・文化」という世界観設定を組み上げるには膨大な実資料が存在します。
それを使えるなんて、なんて楽なんだ…。
じゃあ今までなんでやってこなかったのか?(しゃない理由っす)
一言で言えば、今までやったことがないから発想さえ出てくるはずもなく、またかつてと今では情報伝達の速度が違うから取り組むタイミングがちょうど今なんですよ。(だから過去事例なんて存在しない)
JR東海の「そうだ、京都、行こう」キャンペーンが始まったのが1993年。その少し前の1987年に「シンデレラ・エクスプレス」のキャンペーンが始まっていますが、当時こうしたキャンペーンはマスメディアを使って展開できたため、あまねく日本中の人たちがほぼ同じタイミングで「知っている・見たことある」時代でした。
そして同時に1993年にテレビ離れが加速し始め、視聴時間がジワジワとネットに取られていった流れが始まります。
そして2021年、ついにマス広告がネット広告を下回るに至ったわけですが、その間実に28年もかかっています。
また観光業界は2019年にインバウンドがピークに達しており、一時的に団体ツアー時代(昭和50年代)のような状況が作り出されていました。
しかしコロナ禍後に国内旅行を考える人々の行動変化が顕著に現れ、居住地半径200キロ程度の移動になってしまったことと、中国大陸からのインバウンドがバカみたいに激減した中、入り込み客数を指数にしていたセクションが次の指標を定めて、その施策アイデアを観光振興に取り込むなどということを率先してできるはずがないじゃんというのが現状。
具体的に何が起こってるかといえば、情報伝達速度が上がったことと、自分の興味や居心地の良いグループ内だけで情報シェアができる仕組み(SNSやメッセンジャーアプリサービスなど)が簡単に使えるようになったこと。
なによりみんなが一律のタイミングで同じ情報を見ないようになったのがとても大きな変化。それも30年近くかけて変化してきたので掴みにくい。
(マーケ用語でリーチしないとかリーチしてもコミットしないっていう)
またそうしたコミュニティが活発に情報交換をしてるか? というとそうでもなく、なんとなくつながっているコミュニティが多く、その現象のことを岡本健(近畿大学教授)は「コミュニティのゾンビ化」と命名しています。
岡本先生はもともと観光学からサブカル系の研究(アニメ聖地巡礼など)に入っているので、観光関係の人は知っておくべし人の一人。
ゾンビ化しているコミュニティは情報リーチしても活性化しにくい特徴も。
真剣に埋もれた価値観と向き合う
さて現場に思考を戻すと、今の観光資源となっているハズの歴史と文化財については、ゲームアイテムレベルでの説明しかされておらず、観光客にとってもバックボーンの設定を知らなければ楽しめる要素がゼロに近い状態です。
ではその設定はどのように伝達するのが良いのか…
これには幾つかの方法があり、セグメントによってアプローチが違います。
専門書としての出版やパンフレットにしたりといった印刷物によるアプローチはよく使われる手法で、ウェブサイトに何らかの形で掲載するのもよく使われる手法です。YouTube動画も今なら一つの手段ですが、指標を見誤ると大変なことに…(機会があったら別の記事で)
しかしいろいろ見ていても…世界観をしっかり設定して、エンターテイメントとしてエリアブランディングをしている例は見つかりませんでした。
(2024.8月現在)
世界観を整理する
博物館や図書館、公文書館や教育委員会など、行政側で調査・分析したレポートや歴史をまとめた本など多くの資料が点在しています。
ほんとメッチャあって、探しきれんくらい存在するんすよ…。
ただどれも利用想定が「資料」や「教育」に絞られているため、どういった人に資料内の歴史や文化財が刺さるのか、どういった形で表現するとリーチするのかといった視点ではまとめられていません。(あたりまえ)
まずやることは、それをとにかく一覧化してペルソナと突き合わせ、古地図と国土地理院地図を突き合わせて様々な切り口でプロット。
それを元に現地調査をして、資料に書かれていない痕跡などを見つけ、分析資料に加えて一通り整理の元が完了します。
(早くてもだいたい半年くらいかかる)
はっきり言ってメチャクチャ大変なので、やってみてっ!
(無理やって思ったら依頼してください😁)
またこうした資料、専門家がまとめているので、その道の人ならわかる前提で編集されています!
資料同士の紐づけが素人では全く手に負えない部分が…。
ところがメチャクチャエンタメに持っていくために重要だったりするんですけどね。(諸星さんの諏訪動画参照)
だから巷の丸投げ型歴史謎解きゲームは一律でつまんないものになりがち。(再び色んなところを的に回す表現😅)
世界観の設定からキャラクターデザイン
世界観が出来上がれば、その世界で許容できる範囲が決定できます。
今回の場合「精霊」が使えました。(妖怪はダメ)
どういう線引やねん‥って思うでしょ?
でもちゃんと線引ができるんですよ。一定のルールに従えば。
あとは表現する媒体を想定して、最大公約数を見つける表現を探す作業。
このあたりは生成AIを使うことがとても効率的。
ある程度の方向性をビジュアルで、かなりの解像度で関係者に見てもらえることで、かなり早い段階からイメージを共有できます。
例)「酵母の精霊」を擬人化していく過程
まずはStableDiffusionで生成。基本的にImage to Imageを使うことが多いですが、今回は条件をCopilotでテキストに変換してプロンプトを作ってもらい生成。ここがスタートになるわけです。
世界観資料を見ながら、ミーティングでどっちが使いやすいかワイワイ決めます。グッズ展開とかも考えて、他のキャラクターとの組み合わせもこの段階でシミュレートできるのが良いです。
ある程度イメージの共有ができたら、頭身を調整してオリジナル化の元。
生成AIからラフ画へ変更。
AI以前はこのくらいのラフ画で最初にみんながイメージ共有するので、AIを利用するとみんなの解像度が一気に引き上がった状態からスタートできるのです。これはキャラクターの完成図に慣れていない人が集まっている場合に大変有効です。
そしてこの段階で大きな方向転換…
天然酵母はかなりワイルドな印象を全面に出したいととある方面から。
衣装の方針は変わらないので、ポーズと髪型を変更してラフに…。
一応生成AIでシミュレートしてイメージを共有し直し…
クオリティを上げつつ…紆余曲折を経て…
このようにまとまりました。(途中経過全省略)
現時点ではまだ完成初期段階のβ版。
ここまででやったのは酵母の粘りを表現しつつ、ワイルドな衣装へ変更。
粘りの表現を旗や帯の代わりに綱でイラストレーターに表現してもらったという流れ。結局ラフはラフなんですよねぇ…💦
この流れで他のキャラクターもデザインして…
大きさの対比も決めながら集合(無理やり集めたよ…)。
今回、精霊はちょっと小さいという設定で現在進んでいます。
キャラクターを世界観の中で動かす
言うなればここが埋もれた価値観とも言えるもの。
キャラクターが生まれた背景はそのままストーリーに落とし込めます。
今回の場合はなぜ天然の酵母が街道文化とつながるのか?(それこそナゾ解きストーリーに持ち込みやすい)
他のキャラクターとの関係は?
全員が集まった時にどのようなストーリーが生み出されるのか?
そこから派生するストーリーでキャラクターはどうやって振る舞うのか?
キャラクターの裏側に今回の場合は街道文化がすべて紐づいているため、現地に行くと関連する文化財が見られたり、実際に食すことで体感できたり、実在人物の場合は悩みや葛藤を通して今があることなど、感情共有がしやすくなるといった利点もあります。
キャラクターを通すことで、歴史文化の捉え方が身近になる
身近になると何が起こるか…。
関連するものやサービスを買いやすくなります。開発もしやすくなります。
ここ大事。
観光って今まではステークホルダーが観光に直接関係する業者に限られていたのですが、コンテンツ関係のクリエイターにもマネタイズポイントが発生します。さらに…民俗学系の人文オタクの人たちともコラボレーションが作りやすくなることで、学術という方向でもイベントが組みやすくなります。
このくらいの土台ができれば、博物館だけに限らない、フィールドワークでの博物ツアーも組むことができます。
そうしたところから得た利益を文化財保護・保存に回すことができると、はじめて文化観光の目的が達成できるものと考えています。
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