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地域文化って何だ? 「その土地らしさ」の正体を模式図で説明する試み

某所の観光ブランディングを行ったときに、「その土地らしさ」を説明する必要があり、そのときに使った図です。ミーティングの席で盛んに「〇〇らしさ」という言葉が出るものの、漠然としていて具体的に何をどうすればよいかわからなくなるパターンに陥ることを防ぐためのものです。

図はかなり単順化してあります。しかしこれ以上単純化はできないとも思っています。図の見方は、下層から上層へ向かうにつれ、表面化(見える化)すると考えてください。
「〇〇らしい」という人は、この図で言うところの最上段とその一段下のこと(日常風景と非日常風景およびそれらが組み合わさった状態の景観)を頭の中に思い浮かべて話していることが殆どです。
そのために記憶のある風景・景観でなければ共感を得られませんし、過去に見たことのある風景・景観に引っ張られてしまいます。

景観保存地区が全体的な印象として相似しているのは、この図で上層2段の表面的な目に見える部分を主に保存しているからであると考えられます。

なおこの図が役に立つのは観光ブランディングを行うときで、他地域との差異はなにか? を考えて、ブランディング策定チームで共有する時にメチャメチャ恩恵を受けられます。(それなりに知識は必要ですが)

1.文化の階層を分解

文化という言葉も漠然としています。実はこれ、大きく3つの階層に分けられます。そうして分割することで、どの階層について話しているのか、交通整理がしやすくなります。

・思想

「思想」とは、人々の考え方や信じ方のことです。

平たくいえば地域で信じられている神様のこと。
日本に住んでいるなら、季節ごとの行事は馴染み深いわけですが、これが地域によって微妙に違ってきます。それらを調べて深堀りしていくことで、その地域に住む人の年間の動きがおぼろげにわかってきます。
なお、思想は個人で深く理解することはありますが、全くの個人のなかで完結すること(スタンドアローン)はあり得ません。なぜなら過去におきた問題、事件、事象の対処や対応など、集団での思考をまとめた、いわば集団思考のデータベースであり、アーカイブでもあるからです。

・思考

思考とは、何かを考えることです。

思想と混同されますが、明確な違いは「個人の思考」と「集団の思考」が分かれること。思想(過去の事例)から問題、事件、事象の対処や対応を引用しつつ、現在おこっている問題などに対応するため、過去を参考に調整したり、新しい対応を考えたりすることです。

・地域共通の価値観

その地域で人々が大切にし、かつ共有している考え方やルールのことです。

最も身近なものはお金です。お札、コインの価値観というのは裏付けがないと成立しません。(何かと交換できない)
同様に地域の中だけでお金の代わりとして代用されているもの、物々交換時の双方が納得する量や質に関連するものもこうした中に入ります。
地域信仰の御札やお守りについても同様で、〇〇神社の御札を祀っているので、地域で暮らしていても安心があるというような、地域の人たちが共通に納得できる価値について共有している思考材料のことです。

これらが地域文化の根底を形成している大きな3つの要素で、目に見えるわけではありません。

風習

地域文化に内包しても良さそうな部分ですが、ここより上層は目に見える現象として観察できます。
先の思想・地域共通の価値観・思考に基づいて行動するため、その行動パターンはある程度固定化されます。

・日常行動

こちらは普段の生活なので、仕事や学校、買い物などの時間や日程で行動パターンが決まります。
この行動は1年を通して圧倒的に多いため、あまり意識すること無く過ごしていることが多いでしょう。しかし先の地域文化が日常行動にも影響を与えています。つまり他地域との差異がここにも生まれるのですが、地域外の人が観察をしないと見つけ出すことは難しい部分です。

・非日常行動

休日や余暇がここに充当されますが、地域行事については歴史が積み重なっている非日常行動がある地域(大きな祭りなど)は日常行動にも影響を与えることがあります。(祭り囃子の練習など)
こちらは他地域と完全に見た目の差異がわかりやすいので、観光資源化されやすい傾向にありますが、下層に当たる地域文化の思想までしっかりたどり着けていない例も多く見られます。(なんせ深いので…)
最近では祭り以外にご当地マラソンなどのイベントも日常行動に影響を与えるようになっています。こちらも非日常行動と日常行動のリンクと考えると理解しやすいかもしれません。
つまり、こうしたこと全般が非日常行動に当たります。

建物や道路、公園や寺社仏閣および景観

上層2段に関するものです。
ここは目に見える部分なのでかなりわかりやすいです。
また個体として存在する家屋・建造物、道路、公園や寺社仏閣を俯瞰で全体を見たときに、町並みとして見られます。個体の集合体が町並み景観を作っているのは理解しやすいでしょう。

当然地域文化から影響を受けて家屋・建造物、道路、公園や寺社仏閣は成り立っています。
個々の家屋などに関しては強い影響は受けていないように見えますが、その地域の工務店が影響を受けている可能性が高く、全国規模であるハウジングメーカーも多少気を配っていた時代もあったようです。
最近はその傾向が薄れているように感じますが…
寺社仏閣・文化財になっているものに関しては言わずもがな。
行政都市計画も地域文化を考慮して立ち上がれば町並み景観を切り口とした観光資源と並列した日常生活空間がデザインできるように思えるのですが…

以上が「〇〇らしさ」について考えるうえで、要素を分解した図です。

この図からは読み取りにくいかもしれませんが、町並み景観を特徴づける最も重要な要素…実は「細部の意匠と所作」なのですが、それに気がつく人はこの図くらいの理解はとっくにしているかと思います。😀


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