平井 亙_Progettista

こどもとデザイン・平井亙事務所 代表。「と和」プロジェクト メンバー。主要なテーマは「…

平井 亙_Progettista

こどもとデザイン・平井亙事務所 代表。「と和」プロジェクト メンバー。主要なテーマは「保育・幼児教育」「日本の美」「デザイン」「アート」「レッジョ・エミリア」。

最近の記事

映画「フィシスの波紋」から学ぶ(1)

 映画の冒頭で、京唐紙・唐長 十一代目の千田堅吉さんは、絵具を配合するときに分量を計らないと語っている。紙は漉く時の気温や湿度、漉く人によって一枚一枚違う。それを最初から決められた配合で色を作っても良い色は出ないと。彼はそれが使われる場所を肌で感じ、一枚一枚の紙と対話しながら、熟練の技と感性で色をつくり擦り上げていく。 そこにひとつとして同じものはない。  映像を観ながら、それはあたかも、子ども一人一人が育った環境や性格も違うのに、一つの基準で指導するのは違う。子どもの声無き

    • ハロウィーンに思う

      
毎年この時期になると思うのですが、日本人って本当にお祭り好きですよね。日本の伝統的な祭りならまだしも、クリスマスにバレンタインにハロウィーンと、本来はキリスト教の宗教行事までノーテンキに楽しんじゃうという、良く言えば柔軟性があり、悪く言うと何のポリシーも持っていない。盛り上がるし、経済効果もあるのだから良いじゃないかという意見もあるが、元はと言えば流通業界が販促の為に仕込んだプロモーションに踊らされているわけで、かつては踊らすために笛太鼓を叩く側に居た私からすると、それに何

      • 子ども番組とステルスマーケティング

         ステルスマーケティングというと、消費者に広告であることを隠して行う宣伝行為のことで、広告主と無関係を装い芸能人やインフルエンサーという社会的に影響力のある方が、金銭や商品の見返りに商品やサービスを紹介・宣伝する行為で、一般消費者は純粋に有名人が紹介している=良い商品と思い込んで購入する傾向が高く、このような消費者心理を巧みに利用したマーケティング活動に対し、10月1日から消費者庁の規制が入ることになりました。  消費者に影響力を持つということでは、地上波で放送されている子ど

        • 「日本の美を子どもたちに(6)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          幼児教育における「アート」と「日本の美」  現代の日本において、幼児教育における「アート」の積極的な取り組みは、創造性や表現力の発達に寄与する素晴らしい活動だと思います。しかし、同時に、日本の伝統的な「美」や「美意識」を体験する機会が減少していることを私は非常に危惧しています。独自の風土や伝統的な生活様式から生まれた「美」は、私たちのアイデンティティの一部であり、失われることなく受け継がれるべきものであり、伝えていく責任があると考えます。それが、未来の世代にも豊かな文化を

        映画「フィシスの波紋」から学ぶ(1)

          「日本の美を子どもたちに(5)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          歴史の光が照らし出す未来〜美とデザイン  20世紀最大の人類学者・哲学者と言われるレヴィ=ストロースは、1977-86年に日本を5回程訪れ「月の裏側」という日本探訪記を残しています。その中で、彼は日本について次のように述べています。  彼の目には、日本から発信される最先端のプロダクツやサービスにおいても、通底する伝統の美意識や価値観が感じられたのでしょう。そして、日本人に対しては と高く評価しています。これらの文章からは、私たち日本人が過去から現代においても変わらず「

          「日本の美を子どもたちに(5)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          「日本の美を子どもたちに(4)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          ケの美とデザイン  最近はあまり使われなくなりましたが、日本には「ハレの日」や「晴れ着」で代表されるような、非日常の祝祭的な意味を持つ「ハレ」という言葉と、それと対比して日常を表す言葉「ケ」があります。慎ましやかな日常があるからこそ「ハレ」が輝き、美しいのです。しかし、企業は経済的利益を優先し、広告的に「ハレ」を大量生産し生活者の購買意欲を煽った結果、日常がハレ化して本来の「ハレ」の価値が薄れてしまい、逆に「ケ」(日常)の価値が低下し、何もない日常が貧しいことであるかのよ

          「日本の美を子どもたちに(4)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          「日本の美を子どもたちに(3)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          保育の五領域を活性化するデザイン思考  日本の保育所保育指針では、子どもの資質・能力を成長させる5つの領域として「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」が示され、この指針をもとに各施設で保育計画が立てられます。5領域は相互に影響し合うことで、総合的な発達を促すのが理想ですが、実際には領域ごとに分断されているケースが多いように思います。この5つの領域を結びつけるのに力を発揮するのが「デザイン(思考)」です。「デザイン」は環境・状況・他者といった客観的視点からスタートし、

          「日本の美を子どもたちに(3)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          「日本の美を子どもたちに(2)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          美とデザインの幼児教育〜レッジョ・エミリア市の実践  幼児教育の分野で国際的に注目を集めるレッジョ・エミリア市。日本では子どもたちの創造的な活動やアトリエリの存在がクローズアップされがちですが、それは表面的なことで本質ではありません。レッジョの人々をこのような教育に駆り立てたものは何だったのか?そこにこそレッジョの幼児教育を理解する上で重要なポイントがあります。それは、第2次世界大戦時にファシストによって支配された経験です。レッジョの人々は、権威に従順に迎合することの危険

          「日本の美を子どもたちに(2)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          「日本の美を子どもたちに(1)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking

          日本の美・デザインの系譜 〜 Sense of Transienceとともに  言葉の概念は時代と共に変化するものですが、「デザイン」に関しては「環境(状況)との対話」であり「問題解決」であるというのが現代の通説になりつつあります。その通説に沿って「日本の美」を概観してみると、それは西洋哲学に基づく「アート」として表現されたものとは異なり、極めて「デザイン」的な特質を備えていることが分かります。その根底には、日本独自の自然環境(風土)が大きな影響を及ぼしています。  

          「日本の美を子どもたちに(1)」〜Sense of Transience & DESIGN Thinking