見出し画像

サイバー攻撃から宇宙実験データを守れ!セキュリティ対策の最前線【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#9】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第九弾となる今回のテーマは、被害が急増するサイバー攻撃です。宇宙分野にも影響はあるのでしょうか。サイバーセキュリティに知見が深い、ワープスペース・COOの東とせりか宇宙飛行士が対策の重要性を議論しました。

猛威をふるうサイバー攻撃とは

©︎小山宙哉/講談社

せりか:東さん、よろしくお願いします! 今回はサイバーセキュリティがテーマということですね。東さんは前職がサイバーセキュリティに関連するお仕事だったと聞いています。

東:はい! ディープテック向けのサイバーセキュリティ技術開発をやっていました。というのも、僕自身もサイバー攻撃の被害を受けたことがあり、「これからはサイバーセキュリティが重要になる」と思ったからです。

攻撃に備えてセキュリティ要件が毎年上がっていくので、ソフトウェアの開発企業はそれをどう担保するのかが課題でした。

せりか:サイバー攻撃を受けるとどうなるのですか? 何か目に見える被害はありますか?

東さん:代表的なのは、データの破壊です。そして「データを直して欲しければ、お金を払え」と身代金を要求するのが常套手段になっています。犯罪者もマネタイズしなければならないので、お金を稼ぐ方向に走っているわけです。

以前勤めていた企業では、提供していたITサービスがサイバー攻撃を受けた結果、ユーザー企業にご迷惑をおかけしてしまい、裁判沙汰に発展するところでした。悪いのは攻撃を仕掛けたひとたちなのに、法制度が整っていないので、被害者の一人であるはずの僕が訴えられるところでしたね。

ちなみに、僕はクレジットカード情報が漏れてしまったのか、不正利用されて、知らないうちに数十万円分のキャラクターグッズを購入させられてしまったこともあります。悪質なグッズの転売に巻き込まれたのです(苦笑)。

せりか:それは大変でしたね……。企業や個人も標的にされてしまうなんて怖いです。今のお話を聞いてサイバー攻撃がどういうものなのかはイメージできたのですが、サイバーセキュリティとは何なのでしょうか。改めて教えてください。

東:医療に例えるなら、サイバーセキュリティは、ネットワーク上にある脅威から身を守るためのワクチンのようなものです。脅威によって、ワクチン……つまり対策も様々です。

せりか:サイバー攻撃の被害を予防するための手段がサイバーセキュリティということですね!

宇宙のサイバーセキュリティは地上の延長線上

せりか:サイバーセキュリティのスペシャリスト・名和利男さんによると、すでに宇宙業界もサイバー攻撃を受けるケースが出始めているといいます。どんな被害が想定されているのでしょうか?

東さん:地上と宇宙の暮らしが完全に分かれているのであれば話は変わってくるでしょうが、国際宇宙ステーション(ISS)など現代の宇宙の暮らしは地球ありきで運用していますよね。つまり宇宙のサイバーセキュリティと言っても、空を飛んでいる飛行機の先に宇宙ステーションや衛星があるだけで、根本は地上と同じです。特別なことはありませんよ。

ただ、社会インフラの基盤になっている宇宙に関連する技術やサービスがサイバー攻撃を受けると、被害の影響は甚大です。もしも、位置情報を取得するのに利用されているGPSが止まったり、GPSになりすました偽の電波を受信して違う場所に誤誘導させられたりしてしまったら……

せりか:カーナビやスマホの地図アプリが使えなくなってしまい、GPSを頼りに登山をしている人は遭難してしまう恐れもありますね。GPSを利用している公共交通機関も多そうですし、大きなトラブルに発展しそうです。

東さん:実際にGPSがサイバー攻撃を受けて、一部利用できなくなってしまったこともありますよ。

それから、最近は衛星を利用した通信が広がっていますよね。通信衛星も対策をしなければ、乗っ取られてデータを改竄されるようなことも起こり得るかもしれません。公共サービスの破壊は最悪のテロリズムだと言えます。

光通信とセキュリティ

せりか:東さんのお話を聞いて、サイバー攻撃の恐ろしさと対策の重要性がわかってきました。セキュリティレベルの向上に光通信が注目されていると聞いたのですが、光通信はなぜ安全なのでしょうか?

東さん:まず、無線通信は大きく分けると、電波通信と光通信の2つです。電波通信は電波が周囲に拡散しながら進むので、データを傍受されるリスクがあります。一方、光通信で利用する光は直進性が高いので、逆に受信するのが難しいことが課題として挙げられるほど、データが傍受されるリスクが格段に下がります。

この光通信は、ワープスペースが開発中のサービスの要となる技術です。ワープスペースは、地上400〜1000kmの低軌道を周回する人工衛星向け光通信インフラサービス「WarpHub InterSat」の開発を進めています。

©︎ワープスペース

これは、光通信が可能な中継衛星3基を低軌道よりも高度が高い中軌道に打ち上げ、中継衛星を介して、低軌道の衛星から送られてきたデータを地上局に送信する仕組みです。

とはいえ、光通信技術を導入すれば、それだけで安全というわけではありません。先ほどから言っている通り、宇宙は地上の延長線上にありますから、地上のサイバーセキュリティ基盤の構築も、もちろん重要視しています。

せりか:最後に、ワープスペースがサイバーセキュリティの面で、社会に貢献できると考えていらっしゃることを教えてください!

東:やはり通信事業者として、いかにデータを安心・安全に運べるかを追求していくことが社会貢献に繋がると思います。

せりかさんの宇宙飛行士としてのお仕事と近い例を挙げると、通信がセキュアでなければ、地上とISS間の通信が妨害されたり、改竄されたりする恐れもあります。せりかさんが苦労に苦労を重ねて得られた大切な実験データがもしも破壊されたら、どれほど苦痛でしょう……

©︎小山宙哉/講談社
©︎小山宙哉/講談社

せりか:私たち宇宙飛行士がISSで行う実験のデータが無事に地上に届くのは、十分なセキュリティ対策があってこそだということですね!

東さん:はい。こういった大切なデータを守ることこそが、通信サービスを提供する僕たちワープスペースの使命だと思っています!

せりか宇宙飛行士との対談企画第九弾は、ワープスペースのCOOを務める東とせりか宇宙飛行士がサイバーセキュリティをテーマに議論しました。

サイバーセキュリティに関しては、Chief Cybersecurity Counselの名和利男さんが最新の動向を解説したインタビュー記事「10年以内に犯罪発生のピーク到来か?第一人者・名和利男さんに聞く、宇宙産業におけるサイバー攻撃のリスクと対策」も併せてご覧ください。

次回のゲストは、衛星光通信端末の製造・開発を手掛けるドイツのベンチャー企業Mynaricのティナ・ガトーレさんです。光通信が普及すると社会はどう変わるのでしょうか。ティナさんとせりか宇宙飛行士の議論をお楽しみに。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?