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サステナビリティの表面だけを取り繕ってしまう人々…宇宙ビジネスができることは?【WARP STATION Conference Vol.1 レポート①】

10月8日に開催したカンファレンスイベント「WARP STATION Conference Vol.1」のダイジェストをお届けします。

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セッション1のテーマは「地球社会のサステナビリティに対するこれからの宇宙産業の貢献」です。パネリストは、投資家、ジャーナリスト、起業家として活躍する3名。

地球規模のサステナビリティに対して、宇宙産業はどのように貢献できるのかをブレインストーミング的にディスカッションしました。そして、浮き彫りになったのは課題の根本ではなく、上澄みだけをすくって取り繕おうとしてしまう日本人の姿勢でした。

バズワード化した「サステナビリティ」の行方は?

SDGsが採択されてから6年。2030年の目標達成に向けて、「サステナビリティ」に関連する取り組みは、ビジネスの場においても広がりつつあります。一方、「芯を食った価値や内容はまだ浸透しきれていないのではないか」と、本セッションのモデレーターを担当するワープスペースCEOの常間地がパネリストに投げかけました。

「Forbes Japan」Web版編集長の谷本有香さんは、SDGsやESGがバズワードになっていること、そして結果的にサステナビリティをイメージ戦略のひとつとして捉えている経営者が一定数いることを取材で感じたことがあると明かしました。

「ステークホルダーに、いわゆる自然を含めて考えるということは、投資をしたとしても100年後に回収できるかどうかわからないということですよね。そういった長期目線での決断ができるかどうかにかかっているように思えます」(谷本さん)

続いて、ESG重視型のベンチャーキャピタルMPower Partners ゼネラル・パートナーの村上由美子さんは、時間軸に加えて、評価軸が曖昧であることがサステナビリティを推進する壁になっているのではないかと指摘します。

「何十年も先にあることを、数値で示し、経済価値に落とし込むのは、やはり難しいです。さらに、今はESGを測る“ものさし”が乱立していて、人によって評価軸が違うのです。この状況こそが、上辺だけ取り繕った『グリーンウォッシュ』を起こしやすくしている原因です」(村上さん)

村上さんは、国際連合で開発援助やリモートセンシング技術の平和的利用、人権擁護などを担当した後、経済協力開発機構(OECD)東京センター所長を務めた経歴があり、サステナビリティやESGに精通されている方です。

そんな村上さんは、サステナビリティを取り巻く状況は変わりつつあると説明します。

直近の数年で、異常気象による災害が増え、気候変動の影響を肌で感じることが多くなりました。危機がすぐそこまで迫り来るなか、経済価値として評価することが現実的になってきています。さらに、11月に開催される国際気候変動サミットに関連して、ESGの評価基準を策定する動きも本格化しようとしているそうです。

これに対してモデレーターの常間地は、時間軸の観点が投資の壁となっているのは、宇宙ビジネスにも共通しているところがあるのではないかと話しました。

「宇宙ビジネスも10年前までは、『100年後の話のようだ』と考えられていました。ところが、5年から10年経った今、事業が実現できそうだというのが見えてきており、サステナビリティやESGと似たムーブメントが起こり始めているように思います」(常間地)

エンタメ企業から「人類のサステイナブルな発展に貢献する」企業への変遷

事業を評価して、投資を決断するには、やはり現状の課題が可視化されている必要があります。ALEの代表取締役社長を務める岡島礼奈さんは、課題の可視化に取り組む当事者のひとりです。

ALEは、人工衛星から光の粒を放出することで、流れ星を再現する「人工流れ星」で一躍注目を集めたスタートアップ企業ですが、手掛けている事業はそれだけではありません。

「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というミッションのもと、多発する災害に備え、気象予報の精度を向上させる気象衛星の開発プロジェクトをNTTと理化学研究所、国立天文台と共同でスタートさせました。岡島さんは、環境問題に取り組む理由をこう語りました。

「地球環境は複雑系の複雑系と言えるほど、いろいろなものが絡み合っています。例えば、人工的に地表の気温を下げる『気候工学』という技術が注目されていますが、どんな副作用があるかが全然わからないので、今の段階で実施するのは危険です。解明していかないと。データを取得して、予測の精度をあげていくことは環境問題にアプローチする上で大事だと思っています」(岡島さん)

地球環境のメカニズムを解明するという壮大な目標を、スタートアップ企業1社が達成しようとするのは困難です。ALEが企業や研究機関と共同で取り組めているのは、ビジョンがしっかりと共有されているからではないかと、モデレーターの常間地は話しました。

ところが、このビジョンを共有するというのは、簡単なことではありません。岡島さんも、ALEでチームビルディングに失敗した経験があることを明かしました。

「最初の頃は、『人工流れ星』というきらびやかなエンタメがやりたくてALEにジョインしてくれたメンバーもいました。でも私たちが本当にやりたかったのは『人類のサステイナブルな発展に貢献』することだったのです。それを明文化し、ミッションやビジョンに共感するメンバーを採用したことで、ブレない良いチームになってきています」(岡島さん)

事業化までのタイムスパンが長い業界・業種においては、チームが同じ方向を向いて動いていける組織作りも課題です。

次世代のビジネスに求められるリーダーは羊飼い型

セッションの後半では、組織作りやチームビルディングなど、よりミクロな視点でのサステナビリティに話題がシフトしていきました。

宇宙産業で働く人の9割は、男性だと言われています。宇宙ビジネスは、海外の宇宙機関や企業とのやりとりが多い上に、宇宙機の開発には様々なテクノロジーが必要な上、ビジネス開発や国際調整など、それぞれの分野の知見に長けている人材が必要です。しかしながら、日本の宇宙産業に携わっている人材には、偏りがあるのではないかと常間地がパネリストに投げかけました。

これに対して、MPower Partnersの村上さんは、ダイバーシティの本質を考えることが重要だと指摘しました。

「ダイバーシティを語る上で、男女比はわかりやすいので注目されることが多いのですが、その数字自体はあまり大きな意味を持っていません。重要なのは“思想のダイバーシティ”です。極端なことを言えば、会議の出席者が全員男性だったとしても、バックグラウンドや価値観が違う人が集まっていれば、それはダイバーシティです」(村上さん)

さらに、村上さんは求められるリーダーのタイプが変わってきているのではないかと話します。

「二十数年前にビジネススクールでリーダー論を学んだときは、カリスマ性が強いリーダーのケーススタディが中心だったのですが、今有力視されているのは羊飼い型のリーダーです。先頭に立つのではなく、白や黒、茶色とか様々なタイプの羊を後ろからなんとなく誘導する。メンバーの意見を上手く吸い上げていくリーダーがイノベーティブなアイデアを生み出せたというケースが増えています」(村上さん)

誰かひとりの考えで進めるのではなく、多様なメンバーが意見を述べられる環境が整っているチームの方が、不確実性が高い世の中においては、パワーを発揮しやすいのです。

そのためには、課題がデータとして可視化されていることが重要なのではないかと、モデレーターの常間地は話しました。

「これは、宇宙産業だけでなく、ディープテック全体で言えることですが、『誰の発言だから』『誰が発案したアイデアだから』ではなく、エビデンスとなるしっかりとしたデータが状況を可視化した上で、自分たちが何をやるのかというビジョンに向かっていく必要があります」(常間地)

加えて、「Forbes Japan」Web版編集長の谷本さんは、ダイバーシティを進めていきながらも、寄り掛かれる信念が必要だと言います。

「平均値化してしまうのが、一番ダメなパターンだと思います。善悪は時代や場所によって移り変わっていきますが、絶対に変わらない自分たちの美意識に立ち戻れると、良い方向に進むのではないでしょうか」(谷本さん)

セッション1では、MPower Partnersの村上由美子さん、「Forbes Japan」Web版編集長の谷本 有香さん、ALE代表取締役社長の岡島 礼奈さんにご登壇いただき、不確実性が高い現代に求められる意思決定のあり方について、ディスカッションしました。地球観測データによって可視化された地球規模の情報は、気候変動対策やビジネスの場での意思決定の新しい材料になるはずです。

セッション2では社会インフラのモニタリング、セッション3では農業と、より具体的なテーマでディスカッションを行いました。こちらも合わせてご覧ください。

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