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アグリテック最前線。ユーザーとソリューション開発に聞く、衛星データ利活用【WARP STATION Conference Vol.1 レポート③】

10月8日に開催したカンファレンスイベント「WARP STATION Conference Vol.1」のダイジェストをお届けします。サステナビリティの文脈において、宇宙産業が貢献できることについて議論したセッション1に続き、各産業の現場の声に耳を傾けていきます。

 セッション3のテーマは「サステナビリティに沸く市場に訴求する衛星データ活用」。

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衛星データ利活用のユースケースとして、農業分野は挙げられることが多いですが、日本国内においては、まだまだこれからという状況です。

ボトルネックになっている課題には、どのようなものがあるのでしょうか。若手農家の2名と衛星データの利活用を支援するスタートアップ企業の担当者にパネリストとしてご登壇いただき、ユーザー側とソリューション開発側のニーズを探りました。

平均年齢67歳。高齢化が進む農業で求められていることとは

農作業は、たった3cmのズレも許されないほど、精密な世界で行われています。私も農業機械を使っていますが、もう少し技術向上の余地があると思っています。今はまだ様子見をしている農家さんが多いのではないでしょうか」(金子さん)

こう話すのは、新潟県長岡市で米作りをされている金子健斗さんです。金子さんは、20代から30代前半の若手農業者が中心となり、農業経営をしていくうえでの課題を解決する方法やより良い技術を検討するプロジェクト「全国農業青年クラブ連絡協議会(通称、4Hクラブ)」の役員を務めていた経歴をお持ちの方です。衛星データやドローン、センサなどの最先端技術を導入しながら、東京ドーム5杯分に相当する土地を管理されています。

そんな金子さんは、農業分野での課題は“農家の高齢化”だと指摘します。農林水産省によると、農業就業人口のうち65歳以上が占める割合は69.8%。平均年齢は、2000年は61.1歳だったのに対し、2020年は67.8歳にまで上がりました。この数字からも、急速に農家の高齢化が進んでいることがわかります。

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また、農業人口の減少も顕著になってきていて、一人あたりが抱える農作地が拡大しているといわれています。

GPSやGNSSを活用した農業機械の自動運転や衛星データによる農作地のモニタリングなどのスマート農業の普及は、新たに農業に参入しようとする人や規模が大きい農作地を管理する人の支援に繋がるのではないでしょうか。

金子さんと同じく4Hクラブで役員を務めていた経験があり、青森県の津軽地方でリンゴ農家を営む会津宏樹さんにもパネリストとして登壇していただきました。

会津さんは、衛星データを使って果樹の位置を把握したり、IoTセンサで作業を管理したりしています。そんな会津さんは、農家の間でツールが浸透するには、まずは使うことが重要だと話しました。

「農家の私たちにとって、衛星データはまだ遠い存在です。でも、農家さんたちが使って意見を出さないと、ツールは良くなっていかないし、価格も安くならないと思います。何に使えそうなのか、衛星データ事業者の方々と細かく、すり合わせていく必要があります」(会津さん)

ソリューション開発には、ユーザーの協力が必要不可欠

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一方、宇宙ビジネスに新規参入しようとする企業向けにコンサルティングを行う株式会社sorano meのCEOを務める城戸彩乃さんは、衛星データを用いた事業化の難しさを語りました。その要因は衛星データの特性にありますが、ソリューション開発に取り組む座組み次第で解決できるというのです。

「衛星画像が何に使えるのかは、実際に解析してみなければわかりません。得たい情報が『多分得られる』とか言えない状況で予算取りをするのは難しいですし、試しづらいのが課題だと感じています。衛星データの利活用に一緒に挑戦してくれる方……アーリーアダプターをいかに見つけられるかが重要です」(城戸さん)

ソリューションを開発するには、衛星データを解析するだけではなく、それを実際に試用するユーザーの存在が不可欠です。

では、このアーリーアダプターになり得るのは、どういう方なのでしょうか。リンゴ農家の会津さんは、地域や作物分野を代表するような優れた実績を持つ“篤農家”が鍵となるのではないかと話します。

「篤農家と呼ばれる優秀な農家さんにツールを使っていただいて、『よかった』と周りの農家さんたちも使い始めるという流れのようなものはありますね」(会津さん)

4Hクラブのような組織に持ちかけるのも良いアイデアですが、集まりに参加しているのは一部の農家の方に限られてしまいます。より影響力を持った篤農家を巻き込むことで、ソリューションの浸透にも繋がるのではないかというわけです。

衛星データの特徴として、広い範囲を一度に撮影できることが挙げられます。近隣の農家が集まり、一緒に衛星データを購入すれば、かかるコストを抑えられるようになるというメリットもあるでしょう。

また、社会インフラモニタリングがテーマのセッション2でも話題に上がった各業界の専門家に課題の解決手段を提案できる“橋渡し人材”が参加することで、ソリューションの開発はよりスムーズになるのではないかと考えられます。

農家の敵「病害」抑えるには?

セッションの後半では、どのようなツールが求められているのかという、より具体的な内容に議論が進んでいきました。

衛星データを活用した生育診断サービスを導入している米農家の金子さんは、週に1回はデータの更新が必要だといいます。

「お米の場合は病気が出たり、虫が付いたりすると、風に乗って蔓延してしまう前に薬を散布しなければなりません。その病気が次のステージへと進行するのが1週間なので、最低でも1週間に一度は生育状況を確認しています」(金子さん)

この1週間に一度という頻度は、ツールに頼らずに人力で確認していたときの慣習がベースになっています。今後、衛星による撮影頻度が増えて、自由に農地を観察できるようになれば、新たなニーズが出てくるかもしれません。

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一方、リンゴ農家の会津さんは、果樹の収穫は流れ作業であるため、生育状況を判断できる衛星データがあったとしても使いこなせるかどうかはわからないと明かしました。

しかしながら、稲作と同じように病害菌の蔓延や害虫の発生は、収穫量にも影響する課題であり、放置されてしまっている農作地の特定は需要があるのではないかということが、パネリストのディスカッションから見えてきました。

「特にリンゴは病気に敏感で、数キロ離れた農園からも病害菌が飛んで来ます。だから草を刈っていない農地があるとすぐに伝わります。『お前、草刈れよ』と言われることも。地域住民との関わりが重要な産業なのです。葉っぱが落ちている農園があれば目に留まりますし、『ここが病気の発生源なのか』と気付くのですが、これは空から見てもわかるのではないかと思います」(会津さん)

放置された土地を容易に特定できるようになれば、農家だけでなく、自治体にもメリットがあるはずです。

セッションは50分という限られた時間でしたが、実際に農業に従事されている方とソリューション開発側が一堂に会することで、ビジネス課題から廃園の検知といった具体的なソリューション案まで、現場のニーズが浮かび上がってきました。農業分野における、衛星データや宇宙技術のポテンシャルを感じていただけるセッションになったのではないでしょうか。

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