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【Small Satellite Conference 2023】小型衛星業界にもとどろく、光通信の「実証」の衝撃

 2023年8月5日から10日まで、ユタ州立大学で、世界最大の小型衛星関連の学会であるSmall Satellite Conferenceが開催されました。Small Satellite Conferenceは1987年から開催されており、小型衛星に関連する学会としては、大学の研究者やビジネス関係者が交流し展示する世界最大のイベントです。今年は、44カ国から、266の組織と3700人の参加者が集まりました。ワープスペースからはCSOの森が参加し、当社の地球観測衛星に関連する課題や光通信衛星業界の動向についてパネルディスカッションを行い、大きな注目を集めました。この記事では、Small Satellite Conferenceの出来事や森氏の講演内容についてまとめます。


世界が注目する小型衛星ミッションとは?―日本が誇る超小型衛星技術―

 今回のSmall Satellite Conferenceでは、さまざまな小型衛星ミッションが話題になりました。その中で、参加者が特に興味を持ったミッションは、「EQUULEUS」ミッションと、「Pathfinder Technology Demonstrator 3(PTD-3)」に搭載された「TBIRD」システムであると森氏は語りました。
 EQUULEUSは、東京大学を中心とするチームが取り組んでいるミッションで、

「超小型探査機でも達成可能な僅かな軌道制御で地球ー月圏のラグランジュ点を目指す」

という非常に野心的なミッションです。現在、EQUULEUS探査機は電力を喪失し、復帰を目指して飛行中ですが、既に搭載された新技術の実証や月スイングバイに成功しています。この観点から、EQUULEUSミッションは小型衛星関連の分野で高く評価されています。実際、EQUULEUSはSmall Satellite ConferenceにおいてSmallSat Mission of the year 2023のファイナリストに選ばれました。ちなみに、SmallSat Mission of the year 2023はNASAのDARTミッションと共同で、小惑星に探査機を衝突させた際の様子を撮影し、小惑星に関する科学に大きく貢献したLICIACubeミッションが受賞しています。

EQUULEUS探査機のイメージ図©東京大学

地球低軌道から深宇宙へ。NASAが描く光通信が照らすロードマップ

 また、TBIRD(TeraByte InfraRed Delivery:テラバイト赤外線通信)は、NASAによる、地球低軌道上のキューブサット(PTD-3)に搭載された、高データレートの光通信を可能にする通信システムです。具体的には、今年の6月には毎秒200ギガビットものデータをダウンリンクすることに成功しています。従来の電波を用いた通信のデータレートが毎秒数ギガビットであることを考えると、光通信がまさに「桁違い」のポテンシャルを秘めていることが分かるかと思います。
 NASAは今後、有人による月や火星の探査に必要な大量のデータを送信するためのより効率的な通信システムを求めています。その一例として、この秋にはNASAの「Deep Space Optical Communications(DSOC:深宇宙光通信)プロジェクト」が開始され、NASAのサイケ・ミッションに同乗して、光通信用のトランシーバーが今年10月に打ち上げられます。TBIRDにより地球低軌道での光通信技術が実証され、今度はDSOCにより深宇宙での光通信が実証される道が拓かれます。このように、NASAでは光通信技術を積極的かつ戦略的に活用しており、未来の深宇宙探査に革命的な影響を与えることが期待されます。

NASAの地球低軌道上のキューブサット(PTD-3)に搭載された通信システム「TBIRD」の
イメージ図©NASA

パネルディスカッションから見える、新潮流。光通信はいよいよ実証のフェーズに。

 一方でワープスペースは、今回のSmall Satellite Conferenceにて、光通信に関連するパネルディスカッションを主催しました。「How Opt-Comm Could Solve the Problems of Earth Observation Sat Operators?(光通信は地球観測事業者が抱える課題を如何に解決するか?)」というテーマを掲げた本パネルには、モデレーターの森に加え、光地上局関連事業者であるCailabsのBusiness Development ManagerであるOlivier Jacques-Sermet氏に加え、衛星通信機器メーカーであるMynaricのVice PresidentであるTim Deaver氏、SAR(合成開口レーダー)衛星を自社開発する地球観測事業者であるSynspective 取締役の小畑 俊裕氏が参加しました。
 パネルでは、森のモデレートにより、①地球観測事業者が抱える課題、⓶光通信の特徴・利点、③光通信がその課題に対し、どのような解決策を提示するかが述べられました。

①地球観測事業者が抱える課題
 現時点では、公開されている地球観測衛星データはLandsat(ランドサット)シリーズやSentinel(センチネル)シリーズなど先進国の政府が打ち上げた観測衛星による画像データがメインになります。こうした衛星によるデータは、地球上の各地点について1ヶ月に1回程度しか撮影されておらず、そのうちのいくつかは雲が重なってしまい、データとして利用できない場合もあります。またPlanet社のDove衛星のように200機ほど運用していると毎日全球の土地を一回は撮影できますが、こうした地球観測衛星は太陽同期準回帰軌道を周回するため(*2) 、画像取得の時間はローカルタイムで10:30ごろに限られます。そのため、無料公開されている衛星データのみを参照すると月に1回のみ、有料データも含めると毎日データが取れても午前10:30ごろに撮影したそのタイミングで起きていなかった現象は捉えることができない、というのが現状です。

⓶光通信の特徴・利点
 電波に比べて圧倒的に高い通信速度や、衛星に搭載する端末の小型化が容易かつ電力消費も小さいため、通信速度に対するコストが小さいことに加え、通信を傍受されにくいといったセキュリティ面など、光通信の利点は多方面に及びます。

③光通信がその課題に対し、どのような解決策を提示するか
 光通信を用いた解決策の例として、まさにワープスペースが提供する、人工衛星向けの光即応通信ネットワークサービス「WarpHub InterSat(ワープハブ・インターサット)」が挙げられます。「WarpHub InterSat」は数多くの地球観測衛星を光通信のネットワークで結ぶことで、より多くの地球観測データ等をリアルタイムに近い形で取得、利用できるようになり、災害対応の高速化や資源管理の効率化など、持続可能な地球経済の実現に貢献します。

 このような整理がなされた後の質疑応答では、森は

「様々な事業者からの強い関心を得られた」

と手ごたえを隠しません。ワープスペースはこれまで、様々な学会やビジネスカンファレンスで光通信の利点や優位性を発信してきました。その影響もあってか、

「今回のSmall Satellite Conferenceでは、今まで以上に技術的にコアな質問が増え、自社のサービスに光通信を導入することを真剣に検討してきている事業者が増えていることを実感した。」

と、森は語ります。そして森は、こう続けます。

「光通信の認知は確かに広がってきた。そうなると聴衆の、そして潜在的な顧客の次の関心は『いつ実証されて、いつ使えるようになるのか』だ。」

 そのような背景を踏まえて今回のSmall Satellite Conferenceを振り返ると、先ほど紹介したNASAのTBIRDやDSOC、それに加えて、スウェーデンの地球観測衛星事業者であるAAC Clyde spaceによる軌道上での光通信の実証など、「実証」をテーマとした象徴的な発表が数多くありました。光通信を取り巻く市場は、確実に新たなフェーズに突入しようとしています。こうした新しい潮流の中で、ワープスペースはこれからも、WarpHub InterSatの開発を地道に続けつつ、需要の開拓と連携の模索のために国際的な場での発信を続けていきます。

パネルディスカッション登壇者。左から、ワープスペースのCSO・森(モデレーター)、CailabsのBusiness Development ManagerであるOlivier Jacques-Sermet氏、MynaricのVice PresidentであるTim Deaver氏、Synspective 取締役の小畑 俊裕氏。

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