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【NIHONBASHI SPACE WEEK】宇宙通信ネットワークの未来:トップ企業が語る新たな展望とテクノロジーの課題

 本年も、一般社団法人cross Uが主催するカンファレンスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK」が11月27日-12月1日に開催されました。3回目となる今回も、50を超える国内の宇宙関連事業者がブースを出展し、事業紹介や商談が行われ、その勢いは日に日に拡大していました。ワープスペースもブースを出展し、CSOの森はパネルディスカッションをモデレートし、事業開発の國井はピッチを行いました。

各軌道のフロントランナーが語る、宇宙通信ネットワークの未来

 森がモデレートしたGlobal panel session「これから宇宙に広がる通信ネットワークの未来について話そう〜地上系と非地上系ネットワークが融合された未来」には300人程の人が押し寄せ、会場は満員の様子でした。パネルディスカッションにはAWS Aerospace & SatelliteのNo.2である、Satellite Solutions Leadを務めるBill Carlin氏、Kepler Communicationsの共同創業者兼CSOであるWen Cheng Chong氏、Space Compassの宇宙RAN事業部長の箕輪祐馬氏が集結しました。このようなメンバーを集めた理由として森は、

いずれの企業も宇宙空間でのネットワークサービスを提案しているが、その中でもAWSは地上と宇宙におけるクラウドサービス及びエッジコンピューティング、Kepler CommunicationsはLEO、Space CompassはGSO(GeoStationary Orbit:静止軌道)とHAPS、ワープスペースはMEOに衛星を配備しサービスを提供する。そうした地上より上の異なるレイヤーのネットワーク事業者を集めることで、宇宙に広がる通信ネットワークについて階層横断的に議論したかった。

と語ります。

 古典的な通信衛星は、地上に対して相対的に静止している軌道である、GSO(GeoStationary Orbit:静止軌道)上に位置していました。しかしGSOは地表から遠方のため、GSOを用いた衛星通信では、通信の遅延や速度が不足する上、特に衛星システム(アンテナやバッテリ)も大型化せざるを得ないため衛星の開発コストが高くなります。

 一方でLEOやMEOは、GSOと比較して地表から近いため、衛星がカバーできる地表の面積(カバレッジ)は狭いですが、低コストで衛星を配備することができます。これにより、商業衛星市場では新規参入する事業者が増え、小型の衛星をLEOに打ち上げる流れが生まれました。この流れを象徴するプロジェクトが、SpaceXの「Starlink」計画です。SpaceXはLEOに大量の通信衛星を配備するコンステレーションにより、LEOの弱点であるカバレッジの狭さをカバーする計画を実施しています。

 またMEOはLEOよりも遠方であるため、LEO衛星よりもはるかに広い地表のエリアをカバーできます。すなわちGSO、LEOの中間の特性を持つのがMEOです。したがって、各軌道では衛星一機のカバレッジの広さや衛星の配備数、地上との通信の頻度等が異なるため、それに伴い提供するネットワークの特性も異なります。
 
 そのような意図をもってモデレートされたパネルディスカッションでは、宇宙空間の通信ネットワークの未来について、濃密な議論が繰り広げられました。

宇宙通信ネットワークの技術的な課題

 最初の議題は、宇宙通信ネットワークのプレイヤーのKSFです。これらについては、各社は共通して、サイバーセキュリティ、低遅延性、接続の安定性を挙げています。これらの課題は、地上では光ファイバーで構築されるネットワークと大きく変わりません。しかし、その改善方法は、有線で接続されている地上の通信と宇宙とでは大きく異なります。例としては、通信衛星の繊細な軌道制御やアンテナ操作による通信の確立とその維持、探査機に搭載されたOBC(Onboard Computer)での情報処理など、宇宙における空間通信では、たとえ同じ課題であっても、地上とは違ったアプローチが求められます。

 一方、2つ目の議題として、LEO、MEO、GSOと異なるレイヤーでサービスを展開する各社ですが、各社がコラボレーションすることはあり得るのか、コラボレーションするとどのようなことができるのかについても議論しました。パネルディスカッションでは、

インターネットにはいくつものノードがあって、それらが補完しあって成り立っている。例えば、LEOのみで独立したネットワークでは、もしその一部に支障が起きた際の冗長性が確保されていない。
また、各軌道のネットワークを接続することで、各ネットワークごとの強味を活かして、どのような通信形態でも最適化されたネットワークサービスを提供できるかもしれない。

といった意見が挙がり、そしてそのようなシステムを構築するためには、

ネットワークのシステムとしては各社バラバラだが、接続を確立するサブシステムは統一された手法で運用可能でなければならない。そのためには、接続を確立するためのデファクトスタンダードもしくは公式な標準が必要だろう。

という点で合意しました。こうしたスタンダードの必要性はかねてより叫ばれており、今回、異なる軌道でサービスを提供するプレイヤーが集まったことで、その重要性が再認識されました。

 そして最後の議題として、宇宙インターネットは将来的にどのようなサービスを提供すべきかという観点から、包括的な議論がなされました。そこで重要となるのは、地上のネットワークとの共通点と相違点の整理です。宇宙インターネットも当然、次世代の情報通信インフラとして注目を集めているBeyond 5Gのような、高速・大容量で低遅延の通信を目指すことに加え、各ノード間に常にセキュアな接続が確立されているべきです。その際の通信規格として、現在地上で利用されている標準的な通信規格であるインターネット・プロトコルを用いることができれば理想的ですが、宇宙空間では地上とは異なり、光ファイバー網によって物理的に連絡されているわけではないため、地上の光ファイバー網に最適化されたインターネット・プロトコルをそのまま宇宙でのネットワークに流用することは難しい、と森は語ります。

また、パネルディスカッションの結びの一言として、Kepler Communicationsの共同創業者兼CSOであるChong氏が印象的なコメントを残しています。

宇宙での通信ネットワークの実現は、1 つの企業だけでは到底達成できません。AWSやSpace Compass、ワープスペースの全員が協力して、他社のために力を尽くし合って、初めて達成できる目標であると思います。

また、Space Compassの宇宙RAN事業部長の箕輪氏も同様に、

こうした宇宙ネットワークは単一の企業が提供するインフラストラクチャーでは顧客の要求や要件を達成できないので、やはり各社の協力が必要です。そしてそのためには、このようなカンファレンスでネットワークを築き、一緒に仕事をするパートナーを見つけることが重要です。

と述べ、各社の協調の必要性を訴えました。ここまでの議論を踏まえれば、そうした各社の協力の必要性から、接続を確立するためのデファクトスタンダードが重要であることが再度認識されます。

 以上より、宇宙空間での光通信ネットワークはすさまじいスピードで進展している一方、地上のネットワークとは異なるがゆえに新たに解決しなければならない課題も明確になりつつある現状が見て取れます。その課題に対しての各社の取り組み、そして誰がブレイクスルーを引き起こすのか、今後もこの業界から目が離せません。

(執筆:中澤淳一郎)


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