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宇宙から500の波長を判別!ハイパースペクトル衛星の貢献【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#26】

「宇宙開発」と一口に言っても、開発しているものやその目的はさまざま。

このシリーズでは、ワープスペースのChief Dream Officerに就任した伊東せりか宇宙飛行士と一緒に宇宙開発の今と未来を思索していきます。

第26弾となる今回は、ハイパースペクトル衛星のコンステレーションを構築しているアメリカのベンチャー・Orbital Sidekickの諮問委員会メンバーを務めるディヴィット・ゴーティエさんをお迎えして、衛星データの新しいユースケースを紹介していただきました。

宇宙から地表の植物や鉱物の種類を判別する「ハイパースペクトル衛星」

©︎小山宙哉/講談社

せりか:ディヴィットさん、よろしくお願いします!「ハイパースペクトル」という用語は最近よく耳にするようになりましたし、この連載シリーズでも何度も話題に挙がっています。ハイパースペクトルとはどのような技術なのか、改めて教えていただけますか。

Orbital Sidekickのディヴィット・ゴーティエさん

ディヴィットさん:ハイパースペクトルは、光を数百ある波長ごとに分光できるセンサのことです。一般的な衛星に搭載されているセンサよりも波長を細かく分光して観測するので、地表を覆う植物や鉱物、ガスなどの種類を判別できます。

近年、ハイパースペクトル衛星が増えてきているのは、超小型の電子部品が簡単に手に入るようになったことに加えて、小型衛星を手ごろな価格で打ち上げられるようになったことが関係していると思います。Orbital SidekickのCEO兼共同創業者のダン・カッツは、小型のハイパースペクトル衛星で宇宙から収集したデータを政府だけでなく、気候変動問題やエネルギー関連事業者らにも提供することで、世界をよりよく変えていけると考え、2016年にOrbital Sidekickを創業しました。

私たちOrbital Sidekickが開発し、運用している衛星「GHOSt(Global Hyperspectral Observation Satellites)」には、500の波長を8m地上分解能(画像中の1ピクセルが8m×8mの情報を表す解像度)で観測できるハイパースペクトルセンサが搭載されています。

GHOSt

2023年に1、2、3号機を打ち上げ、今は3機体制で運用していて、近日中に3機を追加で打ち上げます。将来的にはさらに多くの衛星を打ち上げる計画です。今は1日に2回観測できる地域もあれば、週に1回しか観測できない地域もある状況ですが、衛星の数が増えれば、より高い頻度で観測できるようになるでしょう。

パイプラインの点検を数日で

せりか:500もの波長を分光したハイパースペクトル画像は、一般的な衛星画像と比べて、データの容量が大きいのではないかと思います。観測したデータを素早く地上に届けるために工夫していることはありますか。

ディヴィットさん:Orbital Sidekickの衛星には人工知能(AI)が搭載されていて、観測されたスペクトルデータをすぐにスキャンして、例えばメタンなどの化学シグネチャを探し出し、それらの物質が存在することを短いメッセージで素早く地上に通知する処理機能が備わっているんですよ。これは、地上の分析ソフトウェアで利用を開始する前に、収集された画像キューブ(スペクトルの各スライスは独自の画像を生成するため、1つの収集領域は実際には「キューブ」と呼ばれる500枚の画像のスタックを生成します)のグループが地上端末を介してダウンロードされ、クラウドに転送されるのを待つよりもはるかに速いんです。

この機械学習モデルはOrbital Sidekickが独自に開発したもので、私たちの強みだと思います。

せりか:それはすごいですね! Orbital Sidekickのハイパースペクトル画像は、どのような用途で利用されているのでしょうか。

ディヴィットさん:3つのユースケースを紹介しましょう。

まず一つ目は、温室効果ガスの検出です。私たちは、ガスの漏出を検知したり、排出量をモニタリングしたりするためのプラットフォームを運用しています。

ハイパースペクトル衛星で検出した、パイプラインから漏出するメタン
Orbital Sidekick

この製品では、まず石油や天然ガスを運ぶパイプラインから温室効果ガスが漏出した場合、検知することができます。パイプラインには、北アメリカやユーラシア大陸を横断するものなど、数千kmに及ぶものもあります。

そのため、パイプラインの点検には、航空機やドローンで、数カ月単位の時間をかけたモニタリングが必要でした。一方、ハイパースペクトル衛星を使えば、数日でパイプライン全体をスキャンできますし、継続的なモニタリングが可能なので、温室効果ガスの漏出にいち早く気付くことができます。これにはお客様にとって、顧客の経費節減と地球保護という2つのメリットがあります。

二つ目は、クリーンなエネルギーを作り出す材料をより多く探すことです。例えば、ハイパースペクトル画像を使うと、リチウムの鉱床を見つけることができます。石油や石炭、天然ガスなど、持続可能ではなく、環境を汚染する燃料のことを「ダーティエネルギー」、つまり環境に負荷がかかるエネルギーと言いますが、これを電池の原料となるリチウムのような環境にやさしい資源の採掘をサポートすることができれば、「クリーンなエネルギー」への移行に貢献できるはずです。

リチウムのような資源の発見を支援するとともに、採掘作業をモニタリングし、採掘そのものによる汚染を減らすことができれば、私たちはクリーンエネルギーへの移行と、より健全な地球への移行に貢献することができます。

アイデア次第で広がるハイパースペクトル画像の活用例

そして三つ目は農業の自動化と農業のためのデータ利用です。ハイパースペクトル画像を使うと、土壌の水分量を検出し、農地が干ばつに向かっているのか、あるいは水の供給が多すぎるのかを知ることができます。作物が放出する化学物質と反射スペクトルを検出すると、作物のストレス状態を把握することもできます。

せりか:まるで植物の声を宇宙から聞いているようですね。

ディヴィットさん:確かにそうですね。私は菌類やキノコについて学んでいたことがあるのですが、彼らは化学物質を用いて菌類と植物が意思疎通を図っていると言われています。宇宙から植物の声を聞くこともできるでしょう!

農業の自動化を進めていくには、農地がきちんと機能しているのかモニタリングする必要があります。もちろん地上にセンサを設置して、状況を把握する必要はありますが、宇宙からの観測も有効です。地上に設置したセンサとハイパースペクトル衛星を組み合わせられれば、相乗効果が生まれることが期待できます。例えば、遠隔地にあるブドウ農園の木にIoTセンサを設置し、センサから直接衛星に撮像の指示を出し、ブドウの健康状況を把握する取り組みもあります。

ブドウ農園のイメージ

せりか:アイデア次第で色々なことに使えそうですね!ハイパースペクトル衛星を通じて、どのように社会に貢献していきたいと考えていますか?

ディヴィットさん: Orbital Sidekickは、衛星コンステレーションの構築や衛星データの解析を行うことで、クリーンなエネルギーへの移行をリードするとともに、持続可能な未来に向けて地球環境を健全な状態で維持できるようにしたいです。

私たちは、環境問題や持続可能な社会づくりについての研究に取り組む教育者や研究者、大学や研究機関、NPOなどに、無償でデータを提供するプログラムを行っています。関心がある方はぜひご連絡ください。

せりか宇宙飛行士との対談シリーズ第26弾のゲストは、Orbital Sidekickのディヴィット・ゴーティエさんでした。次回もお楽しみに。


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